スピルの特徴は、投稿をお茶に例えた表現で溢れていることだ。ユーザーが「spill:こぼれ話(投稿に相当)」をアップロードすると、「お茶を淹れています」というメッセージが現れたり、エンゲージメント数に基づいて「最もホットな10のこぼれ話」を紹介する「こぼれ話ボード」が表示されたりする。また、ハッシュタグティッカーやさまざまなコメントツール、加えて複数のカラーオプションが用意され、ユーザーが選べるようになっている。こぼれ話は、Twitterのように新しい順に表示されるが、縦スクロールだけでなく横スクロールで表示できる機能もある。
スピルのこうしたアイデアは、マスク氏がTwitterを買収した直後の昨年秋、テレル氏が多数の従業員とともに解雇された翌日に思いついたものだ。Twitterで数年にわたってソーシャルおよびエディトリアル部門のグローバル責任者を務めていた同氏は、ソーシャルメディアで何がうまくいき、何がうまくいかないのかをよくわかっている。
また、同氏はHBOでデジタルおよびソーシャル担当ディレクターを数年間務めた経験がある。その前は、ショータイムネットワークス(Showtime Networks)のシニアマーケティングマネージャーだった。
「実際のところ、最も大きな成長やソーシャルな動きは、インド、西アフリカ、アジアで起きている。ファンコミュニティやK-POPなど、あらゆるものがそうだ」と、テレル氏はいう。「もっと広い視野で考える必要がある。西アフリカでは、ブランドの宣伝も世間話もニュースも違いはない。彼らにとってはすべてが一体化しているため、私たちはそのすべてに対応しようとしている」。
広告を導入
スピルはまた、ほかの新興ソーシャルプラットフォームが重視しないものを取り込もうとしている。それは広告費だ。6月中旬には、ライオンズゲート(Lionsgate)がスピルの新しい広告フォーマット「ファーストスピル(First Spill)」を試す最初のスポンサーとなり、広告がユーザーのタイムラインの先頭に表示されるこのフォーマットで、公開予定の映画「The Blackening(ザ・ブラックニング)」を宣伝することになっている。
ほかにも、ベットネットワークス(BET Networks)、ベット+(BET+)、バラエティ(Variety)、ホライズン・メディア(Horizon Media)、UNCMMNなどが初期のパートナーとしてスピルと提携し、スポンサードエクスペリエンス、限定コンテンツ、クリエイターとのパートナーシップを試す予定だ。
「多くのプラットフォームがオーディエンスが増えるまで待つところを、なぜ早くから広告を取り込もうとするのか」とテレル氏に尋ねたところ、「早いうちからクリエイターやブランドと提携することで、エコシステムが求めるものを構築できるようにしたい」と、同氏は説明した。また、黒人や性的マイノリティのユーザーなど、多様なグループのためのコミュニティ構築にも力を入れているという。
「誰もが『クリエイターやインフルエンサーを取り込みたい』と口にするが、本当に彼らのために何かを作ったり、彼らと話をしたり、彼らをプロセスに参加させたりすることはない」と、テレル氏はいう。「私たちは数週間かけて文化的な感度の高い人たちとテストをしたばかりだが、そこで起きたことにとても満足している。彼らはいわば、このプラットフォームを自分のものにしており、あちこちに彼らの小さなサブグループができている」。
ヘイトスピーチを野放しにしない
スピルは多様なコミュニティを育むだけでなく、黒人やマイノリティなユーザーをハラスメントから守るための高い基準を設けようとしている。これには、ヘイトスピーチなどの有害なコンテンツをより的確に検出できるようにするために、さまざまな種類のデータを使用してAIツールを調整する取り組みも含まれる。ほかのソーシャルプラットフォームは、このようなコンテンツの管理に苦労していることが少なくない。
「当社が提案できる独自の重要な価値提案のひとつは、最も被害を受けている人たちとともに試行錯誤できることだ」と、テレル氏は話す。「これは当たり前のことではなく、私たちにとって大きな課題であり、ガイドラインの書き方から人間によるモデレーションとツールを組み合わせた取り組みに至るまで、私たちはあらゆる手段を駆使している。設定して終わりというわけではない」。
スピルはTwitterの代わりか?
マスク氏に買収された昨年秋からのTwitterの変化に失望した人たちの穴をスピルが埋められるかどうか、判断するのはまだ早いだろう。また、この分野に参入しているのは、スピルだけではない。ブルースカイ(Bluesky)、マストドン(Mastodon)、スプーティブル(Spoutible)、アーティファクト(Artifact)といった新興企業が、自社に注目を集めようとこの数カ月間競い合っている。
ただし、テレル氏は「新たなTwitterが生まれることはない」と考えており、「スピルを同じようなTwitterの後継サービスとは位置付けていない」と話す。同氏によれば、スピルのアーリーアダプターにはインスタグラムから来た人たちもいるという。
コミュニティファーストな構造
ほとんどの人はまだスピルを見たことも使ったこともないが、ユーザーとのさまざまな交流方法や、ブロックチェーン技術を使ってクリエイターに収益化ツールを提供する計画など、スピルがこれまで発表した内容に魅力を感じている人もいる。
デジタルコンサルティング会社SWプロジェクツ(SW Projects)の創業者サラ・ウィルソン氏は、「人々はこれまでにないかたちで、新しいプラットフォームを積極的に探している」と指摘する。Facebookで数年働いた後、さまざまなコミュニティとのエンゲージメントでブランドと仕事をしてきた同氏は、スピルなどのニッチなプラットフォームが、特定のコミュニティに対応する「デジタルキャンプファイヤー」を生み出していると話す。
「これは万人向けではない」と、ウィルソン氏はいう。「実際にはコミュニティファーストといえるものであり、少なくともそのような枠組みを作っている。これは賢明なだけでなく、今の時代に非常にマッチしたものだ。すべての人のためになろうとしてもうまくいかない。TikTokのようなプラットフォームなら本当にあらゆる人に語りかけられるが、対抗するには多くの資金が必要になる」。
[原文:Social platform Spill launches new beta iOS app with a ‘meme-forward’ aesthetic]
Marty Swant(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)