先日、エージェンシー/マーケティング企業の幹部1000人を対象とする、ある調査の結果が発表された。その調査から、彼らの大部分は、ユーザートラッキングが過去の遺物になるのは時間の問題と考えている一方で、非Cookieベースのオプションに精通しているのは、半数を下回る40%にとどまっていることがわかった。
同調査は、Cookieレスな未来の覇権争いに挑むアドテク企業のオグリー(Ogury)と、IT市場調査会社のIDCによって実施された。この調査から、回答者の32%が、現在提携しているアドテクサプライヤーの変更を考えていることがわかった。そのうちの64%が、サードパーティCookieなどの個人データ収集に依存していないサプライヤーに回す予算を増額するつもりだと回答している。
しかしながら、ある程度しか非Cookieベースのターゲティングメソッドに精通していない、あるいはまったくといっていいほど精通していない幹部は、全回答者の41%に上る。
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こうした統計は、ある種の空気感を生み出す一因となっている。メディア業界やマーケティング業界は長引く不快感に悩まされているが、その原因は、2024年末までのサードパーティCookieの廃止をGoogleが公言する一方で、それがいつになるのかが一向に見えてこないことにある、という空気感だ。
重要なのは識別子だが
Cookieがなくなった未来は、いったいどうなっているのか? 過去何度も呈されてきた疑問ではあるが、答えを得たと確信している企業が数多く存在する一方で、この疑問に対する明確な答えは、まだ見つかっていないようだ。コンテクスチュアルであれ、アドレサブルであれ、セマンティックであれ、何を選ぶにしても、何らかのかたちでのIDは必要になるだろう。これが、業界が導ける合意(満場一致ではないかもしれないが)に最も近いのではないだろうか。
ハバス・メディア・グループ(Havas Media Group)の最高アクティベーション責任者であり、同エージェンシーグループのデータエキスパートであるマイク・ブレグマン氏はこう語る。「我々の業界で最も重要なのは、おそらく識別子だろう。今日の我々が時間と労力を注ぐ対象として、これの右に出るものはない」。
「過去の行動や態度、サイコグラフィックス、インマーケット活動といった、消費者がこれまでにしてきたことへの理解を深める必要がある。より広範な環境において消費者を追跡する必要がある。それには、いくつものデータセットを結合させなければならないが、消費者があとに残す履歴にすぎないCookieには、そんなことは到底できない」と、ブレグマン氏は語る。
「クロスデバイスやクロスプラットフォーム、ウォールドガーデンといった、業界がこの先向かうものについては、パブリッシャーの検証を高める必要がある。特定のオーディエンスや各ユーザー、ユーザー記録を購入する場合、彼らがその商品に興味を持ち、実際に購入したり、何らかのかたちでブランドとエンゲージする意図を持つ、実在の検証済みの消費者であることを確認する必要があるのだ。Cookieでこれを行うのは、非常に難しい」。
識別子なき未来
当然のごとく、Cookieに代わる未来のソリューションとしてオグリーが推しているのは、パーソニファイド広告だ。同社CEOのジェフロイ・マーティン氏は、DIGIDAYに対し次のように述べている。「消費者のターゲティングには識別子が必要である以上、目標は消費者のターゲティングというパラダイムからのシフトだ。そして、そのすぐあとに待ち受けているのは、個人情報の収集に関するいかにもな課題だ」。
オグリーが構築するのは、似たような関心を持つグループ「ペルソナ」である。ペルソナ自体は目新しいものではない。オグリーは2014年から、GDPR(EU一般データ保護規則)ガイドラインに完全準拠するデータセットを構築してきた。そして、それを用いて、ターゲティング対象の各ペルソナと、同社が提携するパブリッシャーからの何百万というページを関連付けてきた。この関連付けにIDはいっさい必要ない。
「その波に乗る最初のサーファーになりたい。いまはそれが来るのを待っているところだ」と、マーティン氏は語る。同氏はかつて、クリテオ(Criteo)のグロースポートフォリオ部門でゼネラルマネージャーとエグゼクティブバイスプレジデントを務めていた。「いまはそれを探してパドリングしているところだが、うねりはそこまで来ている」。
同じような路線を歩むアドテク企業のイヌーボ(Inuvo)も、消費者をトラッキングしないAI駆動型オーディエンスインサイトポータルを先日ローンチした。同社CEOのリッチ・ハウ氏もまた、マーケティングとメディア業界にポスト識別子の世界が形成されるとみている。
イヌーボは、ジェネレーティブAIと言語モデリングを用いてネットをクローリングし、オーディエンスに対する理解を深めている(やり方としては、オグリーのペルソナと大きな違いはない)。
「訓練を重ねてきたし、その能力を高めてくれる言語モデルもある。やがては、ユーザーが画面の前にいる理由も予測できるようになるはずだ」と、ハウ氏は語る。「オーディエンスが特定の製品サービスやブランドに興味を持っている理由も解明することができる。売りに出されているメディアスポットがある取引でも、人間の代理をうまく務めてくれるだろう」。
いずれにせよIDの在り方は変化が必要
とはいえ、必ずしも誰もが識別子なき未来をこのように見ているわけではない。IPG傘下のアクシオム(Acxiom)でCEOを務めるチャド・エンゲルガウ氏は、今後も識別子が不要になることはないと確信する一派のひとりだ。同氏の頭の中では、その望ましいかたちも出来上がっている。
「広告主が、自分たちが投じた予算が対象のオーディエンスに届いているのか、実際に成果を上げたかどうかを測定可能であること確信するには、IDが必要だ」と、エンゲルガウ氏は語る。「私が意義を感じて推している識別子は、ハッシュ化されたメールアドレスだ。しかし、特定の技術の採用によっては、何らかの課題に直面する可能性がある。ユーザーがメタバースにいようが、Appleのエコシステムにいようが、ウーバー(Uber)やNetflixにログインしていようが、ターゲット(Target)にいようが、何らかのアプリ内にいようが、ハッシュ化されたメールアドレスと、それをプログラマティックエコシステムではなく、主に直接的な接続によって安全に交換できることが、これからの業界を前進させることになるだろう」
そして、彼らの中間に位置するのが、データアクティベーションとキュレーションのためのプラットフォーム、オーディジェント(Audigent)だ。オーディジェントは、Cookieレスな未来に向けた解決策の発見に独自のアプローチで挑んでいるが、識別子の必要性も認識している。「IDの世界はこれからも続く。つまり、すべてがひとつになって機能している決定論的IDと確率論的IDの組み合わせ。そして、現在と同じように使われるコンテクスチュアル、IDレスあるいはCookieレスなフレームワークだ」と、オーディジェントのプレジデント、グレッグ・ウィリアムス氏は語る。「ニーズは同じなのだから、過去に行っていたビジネス面の構造は同じだ。しかし、こうした目標をどのようにして達成するのかについては、いくらか変わることになるだろう」
結局のところ、これらの企業はどこも、プライバシー規制の今後の展開よって、何らかのかたちで若干の変化を強いられることになるのかもしれない。今回の取材を受けてくれた誰もが口を揃えていったことがひとつある。それは、何らかのかたちでIDを扱っている企業はどこも、変化に備える必要があるということだ。それがどのようなものになるにせよ、その波は迫ってきているのだから。
[原文:Why identity, as a valuable marketing tool, is at a turning point, per new report]
Michael Bürgi(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)