ロレアルグループ のグローバルCSR&サステナビリティ責任者が語る、経営幹部への転身とロレアルの役割

DIGIDAY

最高デジタル責任者と同様に、大企業における最高サステナビリティ責任者という役職も、20年前には実際ほとんど耳にしたことがなかった。

現在、この役職は世界の大手企業ではますます一般的になりつつあり、その職務範囲は企業が基準を設定しながらつねに進化している。また、政治的な左右両陣営から批判を受けることも多い。左派の評論家はグリーンウォッシュを警戒し、右派の専門家や政治家は、企業はESG(環境、社会、ガバナンス)に関する何らかの取り組みを行うべきだという考えに反対している。

美容業界では、ロレアルグループ(L’Oréal Group)が2012年に弁護士で人権活動家のアレクサンドラ・パルト氏を最高サステナビリティ責任者に任命した。現在、同グループの最高グローバルCSRおよびサステナビリティ責任者を務める彼女は、以前はCEOのジャン=ポール・アゴン氏から同社における「社内活動家」と言われていたが、2019年に正式に経営幹部の仲間入りをはたした。パルト氏は最近Glossyのインタビューに応じ、この10年間で自分の役割がどのように変化したか、ESGが同社のビジネスモデルにどのように適合しているか、またサステナビリティに対する消費者の需要はどこにあるのかなどについて語ってくれた。

ーー社内での位置づけという点で、あなたの役割はどのように進化したか?

「それは非常に重要な質問だ。米国をはじめ世界中の多くの企業が、いまだにESGは『他の問題に追加するひとつの課題に過ぎない』と言っているからだ。どのようにコンプライアンスを守り、どうやってリスクを管理し、社会にどう影響を与えるかに目を向けることはできても、自分たちのビジネスモデルを変えることはしないので、ESGは企業が成熟していく過程のまだ始まりの段階である。この問題に取り組み始めたばかりの企業では、それが普通だ。というのも、『国境を超えて連携し、社会のために価値を生み出したいなら、これまでやってきたことをすべて変えて、まったく違うことをしなくてはならない』と考えるのはかなり難しいからだ。いまのところ、企業が経済的な価値を創造する際に、ほかの価値を破壊してしまうこともよくある。

つまり、これはビジネスモデル全体のマインドセットの転換である。最初の頃は、ESGはアドオンのようなものだというのが非常に多かったが、いまでは投資家が多くを要求するようになったため、戦略的にやや重要性が増してきた。そして企業がこの問題に対して本当に成熟してくると、それはビジネスの一部となる。ビジネスモデルを本当に変革しなければならないという理解がなされる。それがロレアルで起こったことだ。

当社は先見の明のあるCEOがいたので、非常にラッキーだった。ジャン=ポール・アゴン氏は2013年に『21世紀はデジタル、テクノロジー、サステナビリティが重要になるだろう』と発言している。彼は非常に早くからこの問題にじかに取り組んでいた。2015年に私は彼に直接報告をするようになった。彼はいつも『社内の活動家がほしい。境界を押し広げてくれる人、違ったやり方で取り組まなければならないことを理解してくれる人、少し場をかき乱すような人材がほしい』と言って、ある意味、実際にサポートしてくれた。そして今、年月が経って、私たちのまわりで起きているすべてに目を向けると、ロレアルではそれがいかに戦略的で中心的なものであるかをみんなが間違いなく理解するようになったと思う。そうした経緯があって、2019年に私は経営陣に参加した。

いまでは、全マネージャーの業績評価、すべての国やすべてブランドのKPIなど、あらゆることにそれが組み込まれており、完全に当社のビジネスの考え方の一部となっている。ビジネスモデル全体を変化させなくてはならないので、まだこの先の道のりは長い。それに時には、世界がまだ変化する準備ができていない。消費者も変化の準備ができていない。ソリューションも変革にはいたっていない。だから先は長いのだが、誰もがそこに到達するために何が必要なのかを認識している」。

ーーその「社内活動家」的な役割とは、始めたばかりの頃はどのようなものだったのか?

「私たちは皆、資源が無限にあり、無限に消費して、無限の廃棄物が存在するという考えで育った経済システムのなかで生きている、その現実を直視しよう。

これは単なる危機ではなく、人類の生存にとって明らかに非常に不可欠だということを理解してもらうために、かなりの意識改革に取り組んだ。誰もが行動する責任があるとわかってもらうことが重要だった。

だから当然ながら始めのうちはあまり関心を持ってもらえなかった。フランスの企業としては、パリ協定の存在が非常に助けとなった。フランスでは2015年から2016年にかけて(誰もが)気候変動を話題にしていた。そして最近では、マインドセットがかなり大きく変化している。その役割の「活動家」としての部分は、ここ数年ではだいぶ小さくなっている」。

ーーこうしたあらゆることに関して、投資家には何を伝えているのか? これが株主価値を生み出すということをどのように説明しているか?

「サステナビリティをやらなくても株主価値を創造できると考える人の気持ちを理解したい。資源が手に入らず、ビジネスを完全に混乱させるリスクがあるような崩壊した環境下で社会に価値を生み出すというのを、どのように想像しているのか?と聞き返す。賢い投資家は実際にちゃんと理解していると思う」。

ーー四半期ごとに考えるビジネス界が、このような長期的な思考を採用するにあたって課題はあるか?

「ロレアルには大きなアドバンテージがある。当社はすでに100年以上前から存在していて、さらに100年後にもこの会社が存在していてほしいと望む家族株主がいる。

そして、当社のモデルをまさしく変換したビジネスモデルーー人々のニーズをきちんと考慮し、生活賃金を守り、価値創造を守り、社会のために長期的に考えるというモデルは、すべてが利益をもたらすし、将来的にはさらにそうなるはずだ。特に米国では四半期ごとに変化していることがわかっている。これまでの模範から脱却するのは難しい。だがもし人々がそこから抜け出さなければ、将来的にはなんの価値創造も起こらないだろう」。

ーーカーボンニュートラルの目標はどのように達成するのか? オフセットは使っているか?

「ロレアルはオフセットなしをポリシーとしている。もちろん、2050年にカーボンニュートラルを目指すなら、オフセットなしでは解決策もなく、うまくいかないということは誰もが理解している。だが、いまのところ、当社はオフセットを行っていない。(オフセットの活用は)結果的に当社のチームが新たな解決策を集中的に探すことにならないと考えているからだ」。

ーー傘下のブランド全体を見渡したとき、たとえばラグジュアリー部門とマス部門をくらべた際に、ある分野は目標を達成するのがほかよりも難しいということがあるか。

「たとえば、多くのラグジュアリー志向の消費者にとってパッケージが重要になるといった、さまざまな課題がある。ラグジュアリーにおいては、パッケージがかなり大きなフットプリントだ。重たいから、あるいは大きいからよいというわけではないことを、人々は必ずしも意識していない。

すべての消費者にいえる問題だが、消費者はサステナビリティを求めていると言う。ところが具体的な行動に移すかどうかという点では、そう簡単には行動を変えられない。

それがあるとき、転換期を迎えれば、人々もやるべきことをやる準備が整うだろう。当社にとって消費者はこの件における重要なパートナーだ。そして当社は適切な製品を適切な価格で、そして適切な望ましさで市場に投入しなければならない」。

ーー消費者の需要の変化におけるロレアルグループの役割は何だと思うか。

「当社は影響を与えるか、少なくとも何かを提案したいと思っている。たとえば誰もリフィルを求めていないが、当社の香水の22%でリフィルの提案をする予定だ。つまり、私たちがそうしたことを後押ししていくということだ」。

このインタビューは編集・要約されたものである。

[原文:L’Oréal Group’s global CSR and sustainability chief on moving from ‘internal activist’ to C-suite]

LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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