気候変動やサステナビリティを扱うチームを増やしたパブリッシャーでは、その戦略が広告費の増加という形で実を結び始めている。
タイム(Time)、フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)、BBC、エコノミスト(The Economist)、ボックス・メディア(Vox Media)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、過去2年でサステナビリティに関する報道分野を拡大しており、各々が2023年のアースデイに限らず、広告の伸びを実感していると米DIGIDAYに述べている。
さらに、一部の戦略は投資の再開にもつながっているという。
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サステナビリティが広告と結びつく
タイムは、新たな記事シリーズ、雑誌の特別号、Time.comの専用ハブによって気候に関する報道を拡大しているが、このコンテンツカテゴリーに関する広告主からの投資が増えていると感じている。
同誌の広告費の約20%は、サステナビリティ関連の報道とビジネスに向けられている。「そのうちのおよそ半分がイベントスポンサーとして、残りの半分がデジタルおよび印刷広告に投じられる」と、タイムの広報担当者は話す。この広報担当者は、詳細の金額については明言を避けた。
広告エージェンシーのフィッツコ(Fitzco)でグループディレクターを務めるミシェル・チョン氏は、それを「大きな数字」と呼んだ。「この状況は正しい」と同氏は続け、「我々はそれにより焦点を当てるようになっており、この種の働きかけを数多く目にしている」とも話す。
「タイムCO2アース・アワード(Time CO2 Earth Awards)」と呼ばれる新たなフランチャイズは、広告主のデロイト(Deloitte)、ガルバナイズ・クライメット・ソリューションズ(Galvanize Climate Solutions)の共同代表を務めるトム・ステイヤー氏、ラルフローレン(Ralph Lauren)から7桁(100万ドル)近くを得るだろうと、広報担当者は話す。なお、タイムのサステナビリティ担当プレジデントであるサイモン・マルケイ氏は、これらの案件の金銭的な詳細については言及を避けた。
デロイトは、タイムCO2と「タイム100」サミットのパネルにインサイトを提供し、4月25日に開催されたアース・アワード・ガラの一部と、ジャーナリストのジャスティン・ウォーランド氏による気候ニュースレターのスポンサーにもなっている。
企業の社会的責任に関する事柄が広告戦略の中核に
昨今、気候やサステナビリティ関連のバーティカルへの広告主の関心が高まっているのは、タイムだけの話ではない。
フィナンシャル・タイムズの広報担当者は、正確な数字は示していないものの、2021年から2023年にかけて、気候変動とESG(環境、社会、ガバナンス)に焦点を当てたバーティカルである「クライメット・キャピタル(Climate Capital)」と「モラル・マネー(Moral Money)」からの広告収入が約9%増加したと述べている。
また、エコノミスト・インパクト(Economist Impact)のプレジデント兼パートナーシップ担当マネージング・ディレクターであるクラウディア・マレー氏は電子メールで、同社が企業、財団、NGO、政府にデータ、リサーチ、ブランデッドコンテンツ、そのほかのコンサルティング・サービスを提供する部門の案件のおよそ3分の1は、サステナビリティに焦点を当てている、と述べている。
「エコノミスト・インパクトは2022年、既存および新規のクライアントとの取引を拡大した」と同氏は言う。「すべてのディスカッションの50%以上がサステナビリティをテーマにしたもので、その多くがCOP28に沿ったものになっている」。
ワシントン・ポストでは、気候に関する報道が「最も重要なパートナーシップのいくつかを促進した」と、同紙のグローバルクライアントおよびエージェンシーパートナーシップ責任者であるヨハンナ・メイヤー・ジョーンズ氏は、電子メールで述べる。同氏は具体的なパートナーには言及していないが、たとえば食品衛生を扱う企業エコラボ(Ecolab)は最近、気候変動週間にニューヨークで実施されたアクティベーションを含むワシントン・ポストとのキャンペーン費用を負担した。なお、金銭的条件は明らかにされていない。
ボックス・メディアは、2022年に気候やサステナビリティに関する報道が4億回以上閲覧されたことを示す内部データを報告している。ボックス・クリエイティブ(Vox Creative)のコンテンツ戦略およびイノベーション担当バイスプレジデントであるアーロン・タバス氏は電子メールで、「アースデイやアースマンスに関連した機会に需要の高まりが見られるが、より多くの我々のパートナーが(企業の社会的責任を)広告戦略の中核として優先しているため、これらの文化的な瞬間以外でもブランドが我々に依頼してくることがある」と述べている。
ほぼすべての企業がサステナビリティについて話したがっている
タイムによると、同誌の全記者の約4分の1が、何らかの形でサステナビリティの報道に貢献しているという。タイムの最高マーケティング責任者(CMO)であるセード・ムハンマド氏は、「読者は1回の訪問で平均10分以上、タイムのサステナビリティコンテンツに費やしている」と述べる。ただし同誌は、読者がほかの分野のコンテンツに費やす時間との比較は示していない。
タイムは直近で、アメリカン・ファミリー・インシュアランス(American Family Insurance)、アウディ(Audi)、シーメンズ(Siemens)、シンガポール政府観光局(Singapore Tourism Board)といった企業・組織向けに、ブランドデッド・サステナビリティコンテンツを制作。サステナビリティや気候変動に関する提案依頼の数が増えているというが、その量については言及を避けた。
ムハンマド氏は、「広告費の20%がサステナビリティコンテンツに向けられることが、タイムの広告売上全体の伸びの一部を構成している」と話す。また、第1四半期の広告売上は前年同期比20%増で、「サステナビリティがその大きな原動力になっている」と広報担当者は述べている。ムハンマド氏は「我々が話をする企業は、ほぼすべてがサステナビリティについても話したがっている」と現状を吐露した。
グリーンウォッシングをめぐるマーケターの懸念
しかしメディアバイヤーは、クライアントからサステナビリティコンテンツに関する広告費を増やすような具体的な要望はないと話している。
フィッツコのチョン氏は、パブリッシャーに送る提案依頼書(RFP)でサステナビリティに関わるものが増えているとは思わないものの、このテーマはブランドセーフティに関わり、適切かつタイムリーだと考えられているため、「我々が今年その点に重点を置いたとしても不思議はない」と述べる。同社はヘルスケアや小売業など、さまざまな業種のクライアントと仕事をしているとチョン氏は言う。
サステナビリティは広告主が「要望する」特定のカテゴリーではないが、広告エージェンシーのマインドシェア(Mindshare)でグローバル最高変革責任者を務めるオリー・ジョイス氏は、「我々のチームでは責任あるジャーナリズムが間違いなく適合する分野への投資拡大を推進している」と語る。マーケターのなかには、サステナビリティコンテンツが「グリーンウォッシング」と非難されることを心配する人もいると、同氏は指摘する。
マルケイ氏は、グリーンウォッシングをめぐるマーケターの懸念が、タイムが昨年9月にタイムCO2を設立した理由の一部であると述べた。十数人を雇用して15人体制となったタイムCO2は、コンサルティングやカスタムコンテンツ事業、またサステナビリティリーダーや組織のコンソーシアムとして、企業が抱えるサステナビリティの課題を支援する役割を担っている。
「気候に本当に関心のある組織はたくさんある(中略)彼らは単なるロゴのたたき売りを望んでいるわけではない」とマルケイ氏は言う。「メディアバイヤーが『気候に関するメディアを提供してほしい』と言うだけではない。我々は、CMOとメディアバイヤー、最高サステナビリティ責任者、あるいは最高経営責任者(CEO)が主導するような会話をしているのだ」。
Sara Guaglione(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)