食
2023年4月13日、創刊1857年の伝統ある月刊誌・The Atlanticが「アイスクリームには不思議な健康効果があることが示された」との記事を公開しました。世界中のアイスクリーム愛好家を歓喜させたこのニュースの真相について、栄養学の専門家が解説しています。
Is ice cream really healthy? Here’s what the evidence says
https://theconversation.com/is-ice-cream-really-healthy-heres-what-the-evidence-says-203990
The Atlanticの記事の元になったのは、2018年に発表された博士論文です。当時ハーバード大学の博士課程の学生であったアンドレス・アーディソン・コラット氏らによるこの研究では、ハーバード大学が行った「Nurses’ Health Study I」と、「Health Professionals Follow-Up Study」という2つの大規模調査を元に、食生活と慢性疾患の関連性が分析されました。
この研究で、コラット氏らが各調査の開始時に2型糖尿病だった合計約1万6000人の診察データと食事記録を分析した結果、アイスクリームを週2回食べていた人は、食べていない人に比べて心血管疾患を発症する可能性が12%も低いことが判明しました。
論文発表当時の反響に関して、The Atlanticは「脂肪と砂糖がたっぷりのデザートが実は体にいいという知見は、アメリカで最も影響力のある栄養学部の専門家らを仰天させた」とのエピソードを紹介しています。
アイスクリームを食べた2型糖尿病患者は心血管疾患リスクが低かったと聞くと、The Atlanticが指摘する通り「アイスクリームには不思議な健康効果がある」と考えてしまいそうになりますが、これには落とし穴があるとイギリス・アストン大学のデュアン・メラー氏は指摘します。
それは、日常的にアイスクリームを食べていた2型糖尿病の参加者が、研究開始後に食生活を変えてしまった可能性です。食事の分析には、研究開始前の1年間の記録が用いられており、参加者は調査が始まって以降アイスクリームを摂取し続けるようにとも、摂取をやめるようにとも指導されていませんでした。
そのため、2型糖尿病だと診断されて自分が心血管疾患になりやすいことを自覚した参加者が、調査開始後にぱったりとアイスクリームを食べるのをやめてしまった可能性が排除できません。そうなると、アイスクリームを食べることが心血管疾患リスクの低減につながるどころか、逆に「アイスクリームを食べるのをやめることが心血管疾患リスクを下げる」という可能性も否定できないことになります。
また、この研究は観察研究であり、アイスクリームの摂取と心血管疾患リスクの低下の間にある関係性を示すに過ぎないという点にも注意が必要です。アイスクリームに健康効果があると結論付けるには、「アイスクリームの摂取が心血管疾患リスクを下げた」という因果関係を証明する必要があります。しかし、元の論文からは何らかの関係があるということしか分かりません。
因果関係の証明には、例えば「被験者を2つのグループに分けて片方にアイスクリームを与え、もう片方にはアイスクリームではないプラセボを与えて長期間モニタリングする臨床試験」などが必要になります。しかし、こうした実験にはコストがかかるので、食品産業からの多額の資金援助がなければ実現は望み薄です。
アイスクリームへの関心は高いので、すでにこうした研究が盛んに行われていてもおかしくありませんが、意外にもアイスクリーム単体の健康効果について調べた研究はあまりありません。アイスクリームの体への影響を調べた数少ない研究のひとつに、イタリアで実施された2019年の研究があります。
この研究では、アイスクリームをたくさん食べると2型糖尿病や心臓疾患の危険因子である非アルコール性脂肪性肝疾患のリスクが高くなる可能性が示されました。しかし、研究者らはアイスクリームだけでなく赤身肉など他の食品でも同様の関連性があることを突き止めています。「このことから、特定の食品ではなくその人の食生活全体の質が健康には重要であることが分かります」とメラー氏は述べました。
アイスクリーム愛好家にとって悪いニュースばかりではありません。メラー氏によると、乳脂肪には何らかの潜在的な効果があるとするエビデンスがここ20年間で増えているとのこと。特に、ヨーグルトなどの発酵乳製品やチーズには、心臓病や2型糖尿病のリスクを低減する可能性があることが報告されています。アイスクリームも乳脂肪分を含んでいますが、それがヨーグルトやチーズに匹敵する効果を発揮するかどうかを判断するには、さらなる研究が必要です。
また、カルシウムを多く含む食事が、2型糖尿病や心臓病のリスク低減につながるという研究結果もあります。ただし、カルシウムはアイスクリーム以外の乳製品や豆類、ナッツ類などにも豊富に含まれていて、アイスクリームのように糖分が多いというデメリットもありません。
こうした点からメラー氏は「大好きな食べ物が思いがけない健康効果をもっているというニュースには心が躍りますが、研究をよく吟味することが大切です。なぜなら、研究方法の誤りや他の食事、あるいは生活習慣といった要因によって、特定の食品の効果が誇張されてしまうことがよくあるからです」と話しました。
メラー氏はまた、アイスクリームが好物な人に対して「これまでのところ、アイスクリームに特別な健康効果があることを示す質の高いエビデンスはありません。とはいえ、健康的な食事と運動さえ心がければ、週に2~3回控えめな量のアイスクリームを食べても、それほど悪いことにはならないと思われます」とアドバイスしました。
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