【やじうまPC Watch】民間月面探査「HAKUTO-R」が26日に着陸。その着陸シーケンスは?

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Credit: ispace

 宇宙スタートアップ企業の株式会社ispaceが、世界初の民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)の月面着陸予定日時を、日本時間2023年4月26日未明(午前1時40分)に設定している。4月24日、CTOの氏家亮氏が着陸シーケンスのプレス説明会を行なった。

ispace、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」とは

 ispaceは2010年創業の月面資源開発に取り組んでいるスタートアップ。Google Lunar XPRIZEレースの最終選考に残った5チームのうちの1チームである「HAKUTO」を運営していた。2022年7月時点で総計約268億円超の資金を調達し、現在はランダー(月着陸船)と、月探査用のローバー(月面探査車)を開発し、民間企業が月でビジネスを行なうためのゲートウェイとなることを目指している。4月12日には東京証券取引所グロース市場へ上場した。

 「HAKUTO-R」とはispaceが行なう民間の月面探査プログラムで、月面着陸と月面探査の2回のミッションを行なう予定。2022年12月11日にアメリカSpaceXのFalcon 9ロケットを使用して今回の「ミッション1(月面着陸ミッション)」のランダーの打ち上げを完了し、2022年12月14日には宇宙でランダーに搭載したカメラでの撮影、データ取得に成功。2023年3月21日に月周回軌道に投入を完了した。遠回りだが燃料を使わずに効率良く月の重力圏に入れる軌道を取った。今後、民間による世界で初めての月面着陸を目指している。続いて2024年には「ミッション2(月面探査ミッション)」の打ち上げを行なう予定だ。

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降下シーケンスは4月26日午前0時40分から

ミッション1マイルストーン。現在、8段階目まで完了 Credit: ispace

 「HAKUTO-R」のランダーは、近月点(月に最も近い地点)高度が約100km、遠月点(月に最も遠い地点)高度が約2,300kmの楕円軌道で月を周回した後、高度100kmの円軌道で月を周回する月周回軌道に投入された。その後、ランダーに搭載したカメラによる撮影、画像の取得にも成功している。これまでのランダーの軌道はこちらで確認できる。

 現在、ランダーは高度100kmの南から北に向けた円軌道で、1.6km/s(約5,760km/h)の速度で、おおよそ2時間程度で月を周回している。今後は、4月26日午前0時40分頃(日本時間)に着陸地点のおおよそ裏側で降下シーケンスを開始。着陸態勢に入る。

ミッション1着陸シーケンス。全体でおよそ1時間 Credit: ispace

 降下段階においてランダーは、まず自動制御状態で400Nの主推進系を逆噴射で燃焼して軌道速度から減速する。降下前は太陽電池を太陽の方向に向けているが、降下時にはお尻を進行方向に向ける姿勢になって減速する。

 その後、「RCS(Reaction Control System)」と呼ばれる1Nの小さなスラスタを使って姿勢を調整。「ピッチアップ」という過程で徐々に機体を地上に対して垂直に立てていき、最後の数分間に、おおよそ高度2kmの時点で着陸の姿勢にする。

 そして最終的には主推進系の周囲に配置された200Nスラスターを使って、秒速数メートルで月へ軟着陸する計画となっている。午前0時40分を予定する減速開始から、全体でおおよそ1時間程度の予定だ。

「HAKUTO-R」着陸予定地点は「アトラスクレーター」外側

 着陸予定地点は「アトラスクレーター」外側にある「マレフリゴリス」と呼ばれる地点。「ひらべったくて凹凸も少ない地点」だという。

 着陸地点のバックアップは3カ所想定している。着陸予定地点は全て北半球。着陸は月の夜明けのタイミングを予定しており、何かあったら西側にずれていくイメージだ。運用の状況に応じて着陸予定日は4月26日夜、5月1日、5月3日に変更される可能性がある。

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 運用に関してはispaceのSNSアカウント(YouTube英語Twitter日本語Twitter)からも随時最新情報が発信されており、着陸日当日には、YouTube配信を予定している。ただし、ランダー自体の着陸の様子がライブ動画で流れるわけではない。

 ミッションの途中で何らかのトラブルがあった場合も、データは次のミッション2や、アルテミス計画に貢献するミッション3へとフィードバックされる予定。

月着陸の難しさは「スキーのジャンプ台の端でピタッと止まるようなもの」

株式会社ispace CTO 氏家亮氏

 説明会でispace CTOの氏家亮氏は、現状を紹介。10段階のマイルストーンのうち順調に8までこなしており、着陸を待つのみとなっていること、これまでにランダーから撮影された、月から暗い宇宙を見た様子や地球が月の地平線に沈んでいく様子などを紹介した。なおランダーのカメラは天面にある。

ランダーが撮影した月と地球。日本時間4月30日に撮影されたもの。地球に部分日食の影が見える

 今後のマイルストーンは「9:月面着陸の完了」と「10:月面着陸ごの安定状態の確立」。この2つは、何も問題がなければ、ほぼ同じタイミングになる可能性がある。着陸脚が衝撃を吸収して静定し、数十秒にわたって安定した通信ができたことで着陸成功(サクセス9)と判断する。

 なおispaceでは「着陸の成功」とは安定した通信の確保ができている状態と考えているとのこと。サクセス10はその後に、実際に電力や熱の安定などを確認した後に判断する。ペイロード運用が継続してできることを確認できれば全て成功ということになる。

 月は重力天体なので、重力に抗いながら適切に減速し、着陸する必要がある。氏家氏は着陸のシーケンスの難しさについて、「飛行機の上からボールを蹴って、(管制室のある)日本橋に落とすようなもの」と語った。速度を落とす難しさは「スキーのジャンプ台から滑って、ブレーキをかけてジャンプ台の端でピタッと止まるようなもの」と表現した。降下シーケンスに入るまでには何段階かあり、go/no goを段階的に判断する。何もなければ0時40分に降下シーケンスに入る。

 これまでに軌道起動制御マヌーバはかなりの回数をこなしたため、高度を下げるマヌーバはある程度自信を深めているという。ただし最後の高度センサーなどを使った月の着陸については、「1回しかないチャレンジなので緊張感を持って見ていきたい」と語った。

 着陸地点の精度は「数kmオーダー」程度。すでに存在している地表データを解析し「自分たちの着陸精度の範囲では十分になだらかだと判断している」という。ただし着陸予定地点は基本的に平坦な場所だが、局所的に何かある可能性は存在する。障害物を検知したら横にずれるといった機能はないが「想定している数km程度の範囲に収まれば、極端な斜度やゴツゴツしたものがある確率は非常に低いと判断している」とのこと。

ispaceのランダーが4月14日に高度100kmから撮影した月の写真 Credit: ispace

 氏家氏は「緊張と楽しみがミックスしたような状況。いまサクセス8で、既に多くのものを得ている。ただし着陸は1回きりのチャンス。うまくいってもいかなくても運用が終わってしまうのはちょっと寂しい。最後までやり切りたいと思う」と語った。チームも「フライトオペレーションの中で積み上げたものが大きい。みな自信を深めている。『とうとう来た』という気持ちをみんな持っている。非常に良い雰囲気」とのことだった。

 そして「民間初のチャレンジ」であることについてふれ、仮に何かあっても「今後のミッション2、ミッション3に経験値やデータは生かされる。引き続き挑戦していきたい」と語った。

ペイロードは7つ、うち2つが月面に展開予定

HAKUTO-Rのペイロード Credit: ispace

 着陸後の運用予定期間は12日間。ランダー自体に夜間運用できる能力はなく、月の昼間の期間に限定されているため。「バッテリが凍り付いてしまうので、復活できる見込みはない」という。仮に、再度電源が入ってランダーのコンピュータが立ち上がっても、ランダー自体は、何もしない、電波も出さないモードに設定される。

 ランダー上部には実験装置やローバーなどのペイロード(搭載されている荷物)を搭載するエリアがあり、ミッション1では7個のペイロードを月に向けて輸送している。着陸後、さまざまなチェックをしてペイロードを確認する。ペイロードは以下の7つ。

  • HAKUTO-Rのコーポレートパートナーである日本特殊陶業株式会社の固体電池
  • UAEドバイの政府宇宙機関であるMBRSCの月面探査ローバーRashid
  • JAXAの変形型月面ロボット
  • カナダ宇宙庁によるLEAPの一つに採択されたMCSS社のAIのフライトコンピューター
  • カナダ宇宙庁によるLEAPの一つに採択されたCanadensys社のカメラ
  • HAKUTOのクラウドファンディング支援者のお名前を刻印したパネル
  • HAKUTOの応援歌であるサカナクションの「SORATO」の楽曲音源を収録したミュージックディスク

 このうち、ロボットとローバーは、着陸後に月面に展開される予定。「JAXAの変形型月面ロボット」というのは、先日タカラトミーから発売決定がリリースされた変形月面探査ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」のオリジナルだ

 ペイロードは各顧客のものになるので、運用開始についてispace側からリリースは出す予定はないとのこと。

 ランダーのカメラは天面にある。そのため「ランダー自身の姿を撮影することについては、我々自身が撮影するのは難しい。月面展開ペイロードが月面に着陸したランダーの画像を撮影することはあるかもしれない」とのことだった。

日本科学未来館ではランダー実物大模型の展示も

日本科学未来館 特別展「NEO 月でくらす展」

 なお、東京・お台場にある日本科学未来館では、4月28日から特別展「NEO 月でくらす展」が開催される。こちらでは「HAKUTO-R」のランダー、ローバーの実物大模型が展示されるほか、ペイロード1一つである変形月面探査ロボット「SORA-Q」の操縦体験も可能だ。料金は大人[19歳以上] 2,400円(2,100円)、18歳以下[小学生以上] 1,700円(1,400円)、未就学児[4歳以上] 1,100円(900円)。詳細は公式サイトで確認してほしい。

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