「君への約束を守ったから、今度は僕への公約を実行すべきだよ」
そんなやり取りが政治の舞台裏でショルツ連立政権の「自由民主党」(FDP)と「社会民主党=SPDと「緑の党』」との間で交わされているのではないか。ショルツ連立政権は脱原発政策の進展を受け、今度は政権のもう一つの公約、「大麻の合法化」の実現に向けて集中してきた(「独『大麻消費の合法化』の行方」2022年8月18日参考)。
ラウターバッハ保健相(SPD)とオズデミール農業相(緑の党)は12日、大麻の部分的合法化に関する関連法案を発表した。大麻の合法化は、信号機連合の目玉プロジェクトの1つだ。SPD、「緑の党」、FDPの3党から成るショルツ連立政権は2021年12月に発足した際、FDPの強い要求に基づき、大麻の合法化を連立協定の中に明記した。具体的には、「認可された専門店での消費を目的とし、成人への薬物の管理された販売を可能にする」ことだ。換言すれば、少量の大麻消費の合法化(非犯罪化)を推進することだ。
ドイツは昨年10月の段階で、大麻の広範囲な合法化を目指し、大麻の合法化関連法案は昨年の段階でまとめられたが、ドイツの大麻合法化に反対する欧州連合(EU)から「ドイツの法案は国際麻薬条約に反する内容がある」として改正を要求、それを受け、関係省が再度、関連法案を煮詰めてきた経緯がある。
ラウターバッハ保健相は記者会見で改正法案を紹介し、「ドイツの成人は将来的に個人の消費のためならば25グラムまで、最大月50グラムまで合法的に購入できる。そして自己消費の目的ならば最大3本の植木を栽培することが認められる」といった内容だ。
合法化には2段階があって、最初の段階では大麻の栽培と販売は認可された特別な団体(大麻クラブ=Cannabisklubs)によるモデル地域でテストされる。完全な合法化と店舗での一般販売は、当面の間、検討の対象外だ。FDPが要求してきたオンライン販売等は認められない。
ちなみに、昨年作成された関連法案では、「大麻の有効成分テトラヒドロカンナビノール(THC)は、将来的に麻薬として法的に分類しない」、「場合によっては薬局でも成人向けの販売が可能」等々が明記されていたという。
大麻の一部合法化の目的について、ラウターバッハ保健相は、「大麻の消費をより安全にすることだ。明確な制限内で成人への大麻の管理された消費だ。私たちは闇市場と闘ってきた。これまでの大麻規制は失敗した。全国的に記録された薬物犯罪件数は年々、増加してきた。刑法の強化では解決できない。だから、大麻の部分的合法化を通じて麻薬関連の犯罪を撲滅していきたい」と語った。オズデミール農業相は、「これまで不法に麻薬を取り扱ってきたディ―ラーたちは怒っているだろう」と述べた。なお、今回の改正法案は成人の消費を対象としたもので、医療目的は別だ。
ラウターバッハ保健相によると、大麻の第1段階の合法化は今年末までに実施され、関連する法案は4月中に提出される予定だ。「商用サプライチェーンを備えたモデルプロジェクト」を可能にする「第2の柱」に関する法案は、「夏休みの後」となるという。
データが少し古いが、2018年の疫学中毒調査の統計によると、18歳から64歳までのドイツ人の4分の1以上が、人生で少なくとも1回は大麻を摂取している。大麻の消費は近年、若年成人の間でも増加。連邦保健教育センター(BZgA)によると、18歳から25歳のほぼ50%が2019年に少なくとも1回大麻を使用している。12歳から17歳では10人に1人だった。18歳から25歳の5・7%が定期的に大麻を摂取している。ちなみに、ドイツでは毎年200~400トンの大麻が消費されている。これは少なくとも12億ユーロ(約1650億円)の市場価値に相当し、そのほとんどが組織犯罪グループに流れている。
大麻消費の合法化を主張する者は、大麻の取り締まりに多忙だった警察側は他の犯罪対策に人材を使えるようになり、警察側や司法側のコストを節約できる。そのうえで、組織犯罪との戦いに専心できる、というものだ。一方、野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は「大麻という麻薬の危険性を過小評価している」、「大麻消費による健康リスク」、「合法化の結果、消費が増加し、他の麻薬類への道を開く」等々を挙げ、大麻の合法化には反対している。ドイツの警察組合も「大麻の合法化を実施しても、不法な麻薬取引は減らない」と主張し、大麻の合法化には反対している。
なお、ウィーンに本部を置く国際薬物犯罪事務局(UNODC)は、「麻薬でハードとソフトに区別はない。ソフトの大麻を常習すれば、健康に悪影響が出てくる。特に、成長段階の若い世代にとっては危険だ」と警告を発している。
ショルツ政府は大麻関連法案についてブリュッセルの欧州委員会に通知し、欧州の関連法に基づく審査を受けなければならない。欧州委員会がドイツの法案を国際法違反として拒否権を行使する可能性は排除できない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。