一定のストレスはやる気や集中力を高める効果があるとされていますが、過剰なストレスは身体や精神に悪影響を与えることがあります。チューリッヒ工科大学の研究者が、コンピューターのマウスをどのように入力して動かすかを判断することで、職場のストレスを検出するモデルを開発しました。
An interpretable machine learning approach to multimodal stress detection in a simulated office environment – ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.jbi.2023.104299
Detecting stress in the office from how people type and click | ETH Zurich
https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2023/04/detecting-stress-in-the-office-from-how-people-type-and-click.html
The Way You Use Your Mouse Could Reflect Your Level of Stress at Work : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-way-you-use-your-mouse-could-reflect-your-level-of-stress-at-work
スイスでは、職場で働く従業員の約3人に1人がストレスに悩まされていると考えられており、肉体的および精神的な健康の面で、職場でのストレス要因の特定が重要視されています。
チューリッヒ工科大学の研究チームは、新しいデータと機械学習技術を使用して、マウスでの入力方法と使用方法だけで人々がどれだけストレスを感じているかを判断することが可能なモデルを開発しました。
研究チームが90人の参加者に対して行った実験では、参加者はデータの記録や分析などオフィスでの業務に近い作業を行いましたが、一部の参加者にはチャットメッセージが送信され、面接に参加させるなど、作業の妨害が行われました。同時に全参加者はマウスやキーボードの動作と心拍数が記録され、どのようにストレスを感じているかを定期的に尋ねられました。
実験の結果、研究チームのマラ・ネーゲリン氏は「作業が妨害されてストレスを感じている人は、妨害を受けていない参加者に比べてマウスポインタを頻繁に動かす一方で、クリックする目的のボタンまで遠回りしてポインタを長距離移動させ、正確に動かさないことが明らかになりました。逆にリラックスしている人はクリックする目的地に到達するためにより短く、直接的な経路を進む一方で、時間をかけてポインタを移動させます」と報告しています。
さらに、オフィスでストレスを感じている人は、タイピングの際にミスタイプが多く、小休止を頻繁に取りながら入力を進める一方で、リラックスしている人は、時間をかけて入力するものの、ミスタイプが少なかったことが報告されています。
作業中に妨害を受けたグループと受けていないグループの参加者の心拍数は、従来の研究ほど結果に差異が出ませんでした。その理由をネーゲリン氏は「両グループの参加者はどちらもデータ記録や分析などの一定のストレスがかかるタスクを与えられたためだと考えられます」と述べる一方、「キーボードで入力してマウスを動かすことを観測する方法は、心拍数でストレスを判断するよりも、実際のオフィス環境でどれだけストレスを感じているかを適切に予測しているようです」と推測しています。
しかし研究チームのジャスミン・カー氏は「私たちが望むことは、従業員が自身のストレスを早期発見することで、企業による従業員の監視ツールを作ることが目的ではありません」と述べています。研究チームは機密保護の観点から、このモデルにどのような機能を実装すべきか一般の従業員と倫理学者を交えて議論しているとのこと。
カー氏は「ストレスレベルが上昇すると、脳の情報処理能力に悪影響を及ぼすだけでなく、運動能力にも影響します」と述べており、これらの研究結果を適用したモデルを使用することで、将来的には職場でのストレスの増加を早期に防ぐことが期待されています。
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