VisaとMastercardによる小売業界の支配を破壊することは可能なのか?

GIGAZINE
2022年08月22日 08時00分
メモ



近年はオンライン通販の普及や現金をあまり持ち歩かない人々の増加により、小売業界におけるクレジットカードの支配力がますます強化されています。小売業者がクレジットカード会社に支払うコストも問題視される中、「VisaやMastercardなどのクレジットカード会社による支配体制から抜け出すことは可能なのか?」というトピックについて、経済メディアのThe Economistがまとめています。

Can the Visa-Mastercard duopoly be broken? | The Economist
https://www.economist.com/finance-and-economics/2022/08/17/can-the-visa-mastercard-duopoly-be-broken

クレジットカード会社や銀行はカード決済による売上の一部を交換手数料として加盟店から徴収し、多額の利益を得ています。全米小売業協会によると、アメリカの小売業者は年間1380億ドル(約18兆8000億円)を交換手数料として支払っており、負担は販売価格の上昇として消費者にも転嫁されているとのこと。

EUではクレジットカードの交換手数料が取引額の0.3%に、デビッドカードでは0.2%に制限されていますが、アメリカでは約2%と交換手数料の割合が大きいことで知られています。アメリカ国内におけるクレジットカード決済の4分の3以上を占めるVisaとMastercardはその恩恵を強く受けており、2021年の純利益率はVisaが51%、Mastercardは46%と非常に高い割合を誇っています。

加盟店での取引から決済処理、ユーザーの銀行口座からの引き落とし、最終的な加盟店への支払いまでを行うカードネットワークはクレジットカードブランド、クレジットカードの発行を担う銀行や企業、取引処理センターなどで構成されています。アメリカの消費者は2016年に取引の45%をクレジットカードまたはデビッドカードで行いましたが、2021年にはその割合が57%に達しており、カードネットワークはその支配力をますます強めているそうです。


交換手数料はカードネットワークを構成する企業によって徴収され、一部は保険やマイル、ポイントなどの特典として還元されています。しかし、一般に貧しい家庭ほど支払った交換手数料を特典で回収できる割合が低くなるほか、還元システムの一部は規制当局や立法者などによって提供されるはずの消費者保護に資金が提供されているとThe Economistは指摘。

たとえば、取引に問題があった場合にカード会社が決済を取り消したり、詐欺的な取引からユーザーを守ったりすることがこれに当たります。「要するにアメリカ人は、消費者を保護するために法律や規制に頼るよりも、資本主義と競争により依存しているのです」と、The Economistは述べています。

カードネットワークの存在感が強まる小売業界にとって、1つの解決策となり得るのが「クレジットカード決済時に交換手数料に相当する追加料金を徴収する」という方法です。実際、アメリカでは2013年にVisaとMastercardに対して起こされた集団訴訟で、「加盟店がクレジットカード決済時に追加料金を徴収することを禁じてはならない」との判決が下されています。しかし、さまざまな条件のカードが混在している状況から、依然として追加料金の徴収は困難だそうです。


クレジットカード会社による小売業界の支配はかなり強固ですが、2022年7月にはカードネットワークの規制を求める超党派の議員によって、Credit Card Competition Act(クレジットカード競争法)が提出されました。これは銀行が加盟店に対し、特定のカードネットワークだけでなく複数のカードネットワークを提示することを義務づけるもので、交換手数料の少ない新興カードネットワークが参入しやすくすることを目的としています。

また、近年ではさまざまなハイテク大手がアプリを用いた決済オプションを提供し始めており、その影響力が強まると既存のクレジットカード会社が厳しい戦いを強いられる可能性があるとThe Economistは指摘。消費者が積極的にクレジットカードから別の決済オプションに切り替えなくとも、交換手数料を削減したい小売業者側が独自の特典を付けることで、決済オプションの切り替えが進む可能性があるとのこと。

The Economistは、2020年にVisaがフィンテック企業のPlaidを53億ドル(当時のレートで約5800億円)で買収しようと試みたものの、司法省が独占禁止法に当たるとして提訴したために買収を断念した事例を挙げて、クレジットカード会社は新たな決済オプションに脅威を感じていると指摘。「決済大手2社が慎重に築き上げたカードの家は手強く、長い歴史がありますが、破壊できないわけではありません」と述べました。

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