ウェルネス業界が暮らしとライフスタイルのほとんどの面に浸透するにつれて、消費者の関連支出の獲得を狙う、ウェルネスにフォーカスした新しいチャージカードが登場している。
リワードベースのチャージカード「ネス」とは
このカードはネス（Ness）と呼ばれ、リワードベースのポイントカードである。健康・ウェルネスのアイテムに1ドル（約132円）費やすごとに6ポイント、そのほかの種類の購入ごとに2ポイントがつく。年会費は399ドル（約5.3万円）で、年間約1700ドル（約22.4万円）相当の特典とクレジットが提供される。これにはヘルス・ウェルネス系の異なるマーチャントで使える250ドル（約3.3万円）の「ヘルシークレジット」に加えて、ハイヤードウス（HigherDose）で使える100ドル（約1.3万円）、グラムスクワッド（Glamsquad）で使える180ドル（約2.4万円）のクレジットなどがある。ネスは1年ほど前にソフトローンチしたが、今月後半の正式ローンチまでは友人や家族の招待のみとなっている。正式ローンチの際には誰でもカードに申し込める。
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ネスの創業者兼CEO、デレク・フランズレイチ氏は次のように述べている。「我々は、旅行ではなく健康とウェルネスがいまもっとも重要なライフスタイルのアイデンティティだと信じている。なので、なぜトラベルクレジットカードを使うのか？」
ネス以前、フランズレイチ氏は2011年にウェルネスにフォーカスしたメディア会社、グレイティスト（Greatist）を立ち上げた。グレイディストは2019年にヘルスライン（Healthline）により未公開の金額で買収された。フランズレイチ氏は子ども時代に体重と健康問題に苦しんだ経験があり、当時の文化では健康・ウェルネスの目標を達成する力が個人に与えられていないと感じていた。同氏は、ネスによってウェルネスの利用が容易になり、セルフケアというポジティブな個人のフライホイール効果をサポートできることを願っている。
「健康・ウェルネスを親しみやすくアクセスしやすくしたとしても、大部分の人々にとっては非常に高価だ」とフランズレイチ氏。「ネスには壮大なビジョンがある。それは、次の偉大な消費者向けのクレジットカード会社のように構築するということだ」。
トラベル中心だった従来のクレジットカード
クレジットカードの世界は、デルタ航空とアメックス（Amex）との提携や、チェイスサファイア（Chase Sapphire）、キャピタルワン・ベンチャーリワード（Capital One Venture Rewards）などの旅行特典カードによって長い間支配されてきた。Googleで「ベストリワードトラベルカード」と検索すれば、1億8000万件以上の結果がある。また、専用出版物やクレジットカード会員専用の空港ラウンジ、TSAプレチェックの払い戻しなどの特典など、クレジットカードと旅行を中心にエコシステム全体が発展している。基本的にネスは旅行ベースのクレジットカードの大企業に対抗する小企業だ。アクセンチュア（Accenture）によると、世界の消費者の66％が財政的に圧迫されていると感じているにもかかわらず、80％が2023年に製品とサービスの両方で健康とフィットネスへの支出を維持または増やす予定であると述べている。
米国人はクレジットカードが大好きだ。ニューヨーク連邦準備銀行の消費者債務データによると、2022年の第4四半期の時点で米国人のクレジットカード債務は9860億ドル（約130兆円）に上っている。これは、ニューヨーク連邦準備銀行が1999年にこのデータ追跡を開始して以来最高額である。レンディングツリー（LendingTree）によると、カード所有者1人あたりの全国平均債務は7279ドル（約96万円）である。ネスはクレジットカードではなくチャージカードであることを覚えておいてほしい。つまり、39ドル（約5000円）の違約金を払わないようにするためには、毎月残高を全額支払わなければならない。だが、ユーザーは利息を請求されない。「ブラック」カードとして知られるアメリカン・エキスプレス・センチュリオンカード（American Express Centurion Card）も注目すべきチャージカードである。ネスカードは、マスターカード（Mastercard）からのライセンスによりバンク・オブ・ミズーリ（The Bank of Missouri）が発行し、ネス・ウェル・ファイナンシャル（Ness Well Financial, LLC）がサービスを提供する。
「当社は健康に関わる人々と長期的な関係を築こうとしている。それは簡単なことではない」とフランズレイチ氏は語る。「我々は、消費者向けクレジットカードに関して仕組みを一から築こうとしているわけではない。当社のカードは他社のものと同じように機能する。違いは、使う理由、使用時にどう感じるか、カードにより（カード保持者が）どのような行動を取るかという点だ」。
新しいカードのトレンドと実際の価値
ナードウォレット（Nerdwallet）のシニアライター、サラ・ラズナー氏は、近年、フィンテック企業がウェイティングリストを設けて新しいコンセプトを試して、顧客の牽引力があるかどうかを確認しているため、ネスのような特殊なカードが増加していると述べている。ただし、すべての試みが成功するわけではない。ペイスライン（Paceline）という別のウェルネスベースのクレジットカードでは、ウェルネス購入に対して2.5％のキャッシュバックが提供された。これはApple Watchに接続してユーザーのフィットネスを追跡し、またユーザーに対してはキャッシュバックのリワードを2倍にするために活動的でいるように奨励した。2022年3月にウェイティングリストを介してローンチしたが一般に公開されることはなく、2月に正式に市場から撤退した。
「このようなカードがトレンドの一部である場合があり、そのトレンドが衰退するとカードの価値提案も衰退する」とラズナー氏。「会社が特定のトレンドを利用しているわけではない場合もある。カードが消費者の共感を得られないこともある」。
ネスは健康志向のミレニアル世代とZ世代を対象としているため、アフターペイ（Afterpay）やクラーナ（Klarna）といったデビットベースの後払い決済サービスの人気にも対抗している。2008年の金融危機と、消費者保護を多く提供する（米国の）2009年のCARD法のような法律をきっかけに、若い世代はクレジットよりもデビットカードに依存するようになっている。しかし、後払い決済サービスは依然人気があるが、株価の下落、訴訟、レイオフ、巨額の負債などいくつかの問題に直面している。フランズレイチ氏によると、特にネスのビジネスモデルは負債の奨励や利息の請求に基づいていないため、同社チームは一部の人々にとってはチャージカードの要素の方が魅力的かもしれないと感じているという。これはネスを差別化するための戦略的な選択ではないが、フランズレイチ氏はそれが利点であることが証明されれば嬉しいと語っている。
人気ブランドの特典の数々
フランズレイチ氏からは、現在のネスカードの会員数やウェイティングリストの人数は共有されなかった。だが、カード所有者の支出行動パターンのいくつかは共有された。もっともアクセスされたリワードには、ジョーンズ・ロード・ビューティ（Jones Road Beauty）の四半期80ドル（約1.1万円）のクレジットや、エクスヘイルスパ（Exhale Spa）の年間200ドル（約2.6万円）のクレジットがあるという。もっとも交換されたリワードには（加湿器などの）キャノピー（Canopy）エアケアの購入に使える40ドル（約5300円）、イソップ（Aesop）の購入に使える50ドル（約6600円）などがある。もっとも閲覧されたリワードはエレホン（Erewhon）での1000ドル（約13.2万円）のショッピング、プレヌーヴォ（Prenuvo）ヘルス会社の全身CATスキャン、ニューヨークシティでのセルフケアの1日に使える500ドル（約6.6万円）のクレジットだった。
ネスは、カード所有者のあいだで人気が証明されている企業のリワードにフォーカスしている。ただし、注目のブランドの全社がネスの公式パートナーや支持者というわけではない。ザ・ウェル（The Well）、エクスヘイルスパ、ジョーンズ・ロード・ビューティは公式パートナーであり、カードと引き換えにさまざまな割引を提供して多くの消費者を自社ブランドに誘導している。フランズレイチ氏によると、ネスは追加の企業パートナーシップとセレブアンバサダーを間もなく発表するという。
ネスの第1世代の年会費は399ドル（約5.3万円）で、これは、年会費395ドル（約5.2万円）のキャピタルワン・ベンチャー X リワード（Capital One Venture X Rewards）や、450ドル（約6万円）のアメリカン航空シティ・アドバンテージ・エグゼクティブワールドエリート・マスターカード（Citi AAdvantage Executive World Elite Mastercard）などと同等である。このような高額な会費はウェルネスを利用しやすくすることとは正反対であることをフランズレイチ氏は認識している。同氏は、ネスカードを、電気自動車のテスラ（Tesla）の第1号モデルにちなんで「テスラロードスター（Tesla Roadster）」と呼んでいる。これは、（新しい）コンセプトが機能して好まれることを証明しようとしている新規分野のプレミアム製品だからだそうだ。
クレジットカードとの違い
レンディングツリーによると、2022年の第2四半期の時点で米国人の24％が使用していないクレジットカードを少なくとも1枚持っているという。フランズレイチ氏は、ビジネスの観点から、399ドル（約5.3万円）の年会費を払うことができ、健康とウェルネスに積極的に支出している裕福な消費者にフォーカスする必要があると述べている。長期的なビジョンには、2024年に向けての計画で低い年会費または無料でネスカードのほかのバージョンを提供することがある。
「ウェルネス」の定義が広範であるため、平均してどれくらいの金額が費やされているかを正確に知るのは難しい場合がある。美容業界のパブリケーション、スタイルシート（StyleSeat）の1400人を対象にした調査によると、米国人は美容やフィットネス、ウェルネスに月平均110ドル（約1.5万円）を費やしているという。一方、マッキンゼーの調査によると、米国人は毎年4500億ドル（約59兆円）以上をウェルネス製品・サービスに費やしており、毎年5％以上の成長を遂げている。
ウォレットハブ（WalletHub）のクレジットカードアナリスト、ジル・ゴンザレス氏は、「このカードで得する可能性はあるが、それはウェルネス製品やサービスに毎月数百ドルを費やす人に限られる」と述べている。「原則として、あるカードが特定の市場セグメントにフォーカスしていればしているほどユーザーにはそのリワードを得ることが難しくなる。全体的にネスカードは非常に高価であり、購入が健康とウェルネスだけに限られている場合を除いては、通常のリワードクレジットカードを使う方が良いかもしれない」。
一般公開に向けて、ネスは「ザ・ネッシー（The Nessie）」というオンラインパブリケーションを作成した。これは、SEOを獲得してトラフィックを促進するために、ウェルネス向けの（製品レビューサイトの）ワイヤーカッター（Wirecutter）風だった。また、週に2回メールで届く「サイティングス（Sightings）」というウェルネスニュースレターもある。公式ブランドパートナーもローンチのニュースを顧客と共有する予定であり、もちろんネスもインフルエンサーと協力してカードの詳細を紹介する。
「（クレジットカードやチャージカードは）非常に個人的な決定であり、受け取るリワードの価値と比較してカードのコストについて考えるべきだ」と ラズナー氏。「そして、カードがクールだとかトレンディだからといって、それが必ずしも自分の支出スタイルと一致するとは限らないことを理解する必要がある」
［原文：Beauty & Wellness Briefing: Are wellness rewards the next credit card craze?］
EMMA SANDLER（翻訳：ぬえよしこ、編集：山岸祐加子）