メタバースファッションウィーク にて、アディダスとトミー・ヒルフィガーがクロスプラットフォームのデジタルファッションを発表

DIGIDAY

3月28日から31日まで、ディセントラランド(Decentraland)の第2回メタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)が開催。主催者の報告によると、この最大のデジタルファッションイベントには、アディダス(Adidas)、コーチ(Coach)、D-CAVE、ディーゼル(Diesel)、トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)などのブランドが参加、ギフトやトークンゲートによるアクセスを提供してWeb3コミュニティとの関わりを深める。昨年の参加者は10万8000人で、5日間の開催期間中に7000点以上のウェアラブルが購入され、その総額は約7万7000ドル(約1020万円)だった。

アクセスしやすくなった今回のイベント

メタバースファッションウィークは、初回開催時以降、多くのアップデートを行っている。たとえば、いまでは紹介されているアイテムを参加者がクレジットカードで購入できるようになったほか、ディセントラランドの外でも着用できるウェアラブルの販売も行われるようになった。ディセントラランドはこのイベントを開催する3D仮想世界だ。メタバースファッションウィークは、ディセントラランドのメタバースグループ・ラグジュアリーファッションディストリクトと、新興ブランドのための新しいファッションプラザ内で見ることができる。ブランドは、さまざまなディセントラランドのエリアのオーナーに5000ドル(約66万円)から始まる金額を支払い、アクティベーションを設定する。

イベントのレイアウトや形式も変化し、初めて参加する人向けのウェルカムエリアや、さまざまなブランドのアクティベーションの場所を示すマップなどが設けられている。「バーチャルスペースは、昨年よりもはるかにアクセスしやすくなっている。Googleストリートビューで歩いているような感覚に近い」と、昨年のイベントにも参加したマーケティングエグゼクティブは語っている。メタバースファッションウィークは、プレスや自社のソーシャルメディアチャネルを通じてイベントのプロモーションを行っている。

メタバースファッションウィークの責任者であるジョヴァンナ・カシミーロ博士は、「今年は制作計画の時間を拡大し、イベントの半年前からブランドとの話し合いを開始した」と述べている。その結果、ブランドは計画を立てたり、新機能の使い方を考えたりする時間が増えた。

デジタルファッション空間でウェアラブルを紹介する機会に

2023年のメタバースファッションウィークが注力しているのは、ユーザーがプラットフォーム間を飛び越えて統一されたブランド体験ができる相互運用性だ。「(3Dソーシャルネットワークの)スパーシャル(Spatial)を導入し、トミー・ヒルフィガーのように、プラットフォーム間で着用できるウェアラブルを販売する予定のブランドと提携したイベントをさらに追加した」とカシミーロ博士は言う。

また博士いわく、「体験を拡大するために(ARアバターメタバースの)オーバーザリアリティ(Over the Reality)も参加した。ディセントラランドのクリエイターは、メタバースファッションウィークの最中に購入したリンクのあるウェアラブルを、そのメタバースプラットフォームでも着用できる」。

主催者によれば、今回アイテムの購入はそれほど重視されていない。さらにイベントには無料で参加できる。一部のブランドのイベントは、過去のNFTのコレクションを通じてトークンゲートが設けられている。現在、メタバースファッションウィークでは、暗号通貨に限らず、クレジットカードでユーザーがウェアラブルを購入できる機能がある。またアクセサリー、スキン、エモートなどの新たなカテゴリーや、アイテムのレアリティを示す新しいタグを備えるなど、マーケットプレイスも進化している。今回初めて参加する最大のブランドであるアディダスなど、多くの参加ブランドにとって、その価値は体験と、インタラクティブなデジタルファッション空間でウェアラブルを紹介する機会にある。

ウェアラブルの実用性に関するアディダスの狙い

アディダスは3月29日の「ストリートウェアとリテール」に特化した日の一環として、ファッションショーを開催。また、11月にローンチしたバーチャルギア(Virtual Gear)コレクションをユーザーが試着できる没入型体験も行われる。

「メタバースファッションウィークへの参加は、オープンメタバースへの最初のステップであり、我々のコミュニティは、3Dイテレーションを購入することなく、初めてバーチャルギアのデジタルツインを得ることができる」とアディダスのスリーストライプススタジオ(Three Stripes Studio)バイスプレジデント、エリカ・ワイクス=スニード氏は述べた。「アディダスのバーチャルギアコレクションは、ブロックチェーン上で認証された永遠に所有する衣服として、またオルタナティブなライフスタイルを送るアバターに最適なウェアラブルとして、最高のアイデンティティの形となるようにデザインされている」。

同ブランドの目的は、他のプラットフォームに移行できるウェアラブルの実用性がコミュニティにとって有益かどうかを学ぶことだ。「Web3で何かを構築する際、コミュニティとのギブアンドテイクがある。したがって当社では、これを試してみて反響を確かめたい。また、デジタルの権利がこのような形で実現されることに対して、人々がどのような反応を示すかも見てみたい。これによって傍観者であるほかの人々が、アディダスとのオルタナティブなアイデンティティを採用するようになるかどうかに興味がある」。

アディダスのファンが現在バーチャルギアコレクションを所有するには3つの方法がある。デジタルウォレットの中に所有する、ブランドプロフィール画像のスタイリングツールであるアディダスのアトリエを経由してプロフィール画像(PFP)として所有する、そして今回のメタバースファッションウィークを通じて、ディセントラランドのアバターアイデンティティとして所有できるようになった。

トミー・ヒルフィガーのアクティベーション

トミー・ヒルフィガーもまた、クロスプラットフォームのオーナーシップの試用を行っている。同ブランドは、ディセントラランドのブランドの店舗の屋根を覆う、アーティストが制作した青、赤、白の「TH」のロゴを披露するなど、各日に新しいイベントを開催する。また、複数のプラットフォームで使用可能なウェアラブルも販売する。「トミーレターマン・バーシティジャケット(Tommy Letterman Varsity Jacket)を常時着用しながらメタバースを旅する、ユーザーにとって新しい機会となるだろう」と、トミー・ヒルフィガーのプレジデントでチーフブランドオフィサーのエイブリー・ベイカー氏は述べた。

ユーザーは、ディセントラランドでバーシティジャケットを購入し、バーチャルストアプラットフォームのエンペリア(Emperia)にある同ブランドのハブであるトミーのスペースに移行することができる。その後、ポータルを経由してRoblox(ロブロックス)、スパーシャル、サンドボックス(Sandbox)、レディプレイヤーミー(Ready Player Me)に移動することが可能となっている。バーシティジャケットは、昨年のメタバースファッションウィークで人気があった商品のため、ブランドはその成功をさらに発展させることを意図している。また、このジャケットはRobloxでは100Robuxとなっており、他のプラットフォームでもそれに近い金額にて期間限定で販売される。

同時に、トミー・ヒルフィガーはディセントラランド内でAIデザインコンペを開催、世界のクリエイターツールを活用して、ブランドのシグネチャーであるプレッピースタイルのデジタルファッションアイテムを作成するユーザーを募集する。優勝者の作品はドレスX(DressX)によってディセントラランドのデジタルファッションコレクタブル、ARフィルター、ウェアラブルとして制作される予定だ。

さまざまなアクティベーションにより、参加ブランドのROIは、主に新しいオーディエンスの間における認知や技術推進ブランドとの連携という形でもたらされるだろう。「メタバースファッションウィークへの参加は、技術的な先駆者、または活力のある企業という印象を形成するため、ファッションハウスのブランディングに大きな影響を与える」と、メタバース・コマースレイヤーのボストンプロトコル(Boson Protocol)の共同創業者ジャスティン・バノン氏は言う。「また、このイベントは、ブランドのウェブサイトやソーシャルページを訪問するよりもはるかにインタラクティブで魅力的なスタイルで、新しい未来志向のオーディエンスに向けてブランドの露出を高めてくれるだろう」。

エンゲージメントのレベルは飛躍的に伸びる

ディーゼル、メゾンマルジェラ(Maison Margiela)、マルニ(Marni)を所有するOTBグループ(OTB Group)傘下のファッションブランド、D-CAVEは、このイベントではディーゼルおよびNFTプロジェクトのハイプ(Hype)と提携している。ディーゼルxハイプNFTのコミュニティには、4種類のトークンゲート付きウェアラブルを無料で提供する。ウェアラブルは、3月29日開催のパーティイベントに入場し、ウォレットを接続したディーゼルxハイプNFTを所有する人が自動的に請求できる。D-CAVEのディセントラランドのスペースは、メタバースファッションウィーク期間中とその後1カ月間、ブランドの次の大きなアクティベーションの前までオープンする予定だ。ディーゼルxハイプは、1月にWeb3への最初の参入の一環としてNFTプロジェクトをローンチしたが、数時間で完売している。

OTBグループの共同CEOであり、D-CAVEの創設者でもあるステファノ・ロッソ氏は、メタバースファッションウィークの時期に大規模なマーケティングアクティベーションを行うには、まだ十分なROIが得られていないと述べている。「だが、ブランドがそれを正しく機能させることができ、これらのイベントで適切なコミュニティを呼び込むことができれば、成果をもたらすだろう。通常のマーケティング活動ではなかなか得られないものを手にできるからだ」とロッソ氏。「ファンベースとのエンゲージメントのレベルは飛躍的に伸びる。ファンは何か独特なものに参加していると感じるし、ブランドにアプローチする方法が完全に異なったものだからだ」。同ブランドがTwitterでNFTパートナーシップについて話すと、ファッションショーに関するツイートよりもエンゲージメント率が3倍も高くなるという。

また、ブランドのファンをプラットフォームに呼び込むプロセスも異なる。「街を歩きながらビルボードを見るのとは違う。参加するために自分の時間を投資し、中に入り、アバターを手に入れ、さまざまなスペースにリンクし、そこで時間を過ごす必要がある」とロッソ氏は言う。「その体験がポジティブなものであれば、ブランドとユーザーとの間に非常に強い絆が生まれる。我々にとってKPIは、そのイベントにどれだけ多くの人が来てくれるか、ウェアラブルでどのようなコンバージョンレートが得られるかというものになる」。

今後の課題はWeb2へのリンク

イベントのメインパートナーであるARデジタルファッションプラットフォームのドレスXは、ARアクティベーションを開催し、ファッションブランド、ダンダス(Dundas)のファッションショーの一環として、ARで「いま見ていま着るコレクション」をローンチする。ドレスXの共同創業者であるダリア・シャポヴァロヴァ氏は、「特に市場がまだ発展途上であり、新たなアクティベーションの機会が無限にある今、ファッションブランドにとってこうした機会をうまく活用することがきわめて重要だと考えている」と話す。

こうしたあらゆる改良があってもいまだに欠けているのは、メタバースファッションウィークからブランドのWeb2コミュニティへの明らかなリンクである。イベントや参加ブランドのマーケティングのほとんどが、TwitterやDiscord上のWeb3コミュニティに集中しているため、ファッション業界最大のプラットフォームであるインスタグラムは、いまなお話題から取り残されている状態となっている。

[原文:Adidas and Tommy Hilfiger to debut cross-platform digital fashions at Metaverse Fashion]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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