中露「パイプライン建設」思惑の違い:主導権を握っているのは中国

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中国の習近平国家主席は先月20日から3日間、ロシアを公式訪問し、プーチン大統領と政治、外交、経済各分野で4時間に及ぶ集中的な協議を行ったという。欧米社会の制裁下に喘ぐロシアにとって、経済大国・中国の最高指導者のモスクワ訪問はプーチン氏にとって外交的ポイントとなったことは間違いないが、同時に、ガスパイプライン建設問題で両国間に思惑の違いが表面化している。

習近平国家主席とプーチン大統領(2023年3月21日、クレムリン公式サイトから)

ロシアの国営メディアによると、プーチン氏はロシア産天然ガスを中国に運ぶパイプライン「パワー・オブ・シベリア2」建設問題などについて中国側に集中的に話したといわれているが、中国の国営メディアは同パイプライン建設については何も言及していない、といった具合だ。

ドイツ民間ニュース専門放送ntvでクリスチャン・ヘルマン記者は「習近平、プーチンのメガパイプラインを沈黙で罰する」という見出しの記事(4月2日)を掲載し、ガスパイプライン建設問題で両国の利害の相違が浮き彫りになっているという。以下、同記事の概要を紹介する。

プーチン大統領が昨年2月24日、ウクライナにロシア軍を侵攻させて以来、欧米諸国はロシアに対して政治、外交、経済制裁を実施してきた。ロシアにとって最大のダメージは建設完成していたロシアと欧州間を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の操業停止だ。一方、天然ガスや原油などロシアのエネルギー資源に依存してきた欧州諸国、特にドイツは厳しい選択を強いられたが、再生可能なエネルギー資源の開発の機会としてロシア産資源の脱皮に努力してきた。一方、ロシアにとって、欧州市場に代わる代替市場が急務となってきたわけだ。

(ロシアのガスプロムは2年前、ヨーロッパとトルコに年間1750億立方メートルの天然ガスを輸出した。これは、ガスプロムの全輸出の80%に相当した。ガスプロムは今年はトルコ・ヨーロッパ地域で650億立方メートルの天然ガスしか販売できないと予想されている)

プーチン大統領は繰り返し、「欧米の対ロシア制裁の影響はない」と強がりを言ってきた。例えば、ロシア産原油はインドに輸出されるだけではなく、第3国経由で欧州諸国にも依然輸出されている。ロシア国営企業ガスプロムは2022年上半期、2兆5000億ルーブル(410億ユーロ相当)の記録的な利益を上げた。ガスプロムの輸出量は昨年、半減したが、天然ガスの世界市場での価格高騰の恩恵を受け、前年比で4倍の利益を上げた。ただし「これはあくまで例外」だ。天然ガスの市場価格は現在、2021年8月の価格と同水準に下落していることから、ガスプロムが今後も利益を上げ、クレムリンが対ウクライナ戦争の戦費を賄うためには欧州市場に代わる市場が必要となる。具体的には、国内市場のほか、独立国家共同体(CIS)諸国、トルコ、中国だ。

プーチン大統領は習近平主席のモスクワ訪問の機会を利用し、同主席に中国向けの2本の新しいパイプラインの建設を提案している。プーチン大統領は「ガスプロムは昨年、中国の希望を満たし、合意された以上の追加納入さえ行った。これは、ガスプロム社が責任があり信頼できるサプライヤーであることを物語っている。そこで『ファーイースト』(極東パイプライン)と『パワー・オブ・シベリア2』(PowerofSiberia2)のガスパイプラインの建設で更なる成長が可能となる」と強調したというのだ。

ガスプロムの未来は中国にある。「パワー・オブ・シベリア1」を通じて昨年、155億立方メートルの天然ガスが中国に送られたが、今年はその2倍の量になると予想されている。ただ、「ノルド・ストリーム1」と比較すると、半分に過ぎない。

ロシアの最東端の国境では、2番目の小規模なパイプライン「極東パイプライン」が建設中だ。2026年以降、同パイプライン経由でサハリン島の豊富な鉱床から約100億立方メートルのガスを日本海を通り、中国の最北東部に近いウラジオストク近辺に運ばれる予定という。プーチン大統領は、約550億ユーロの費用がかかったこのプロジェクトを「世紀のビジネス」と呼んできた。そして、「パワー・オブ・シベリア2」によって、さらに多くの天然ガスを中国に送れるというわけだ。

「パワー・オブ・シベリア2」のパイプラインは、現在、おそらく最も重要なロシアのインフラプロジェクトだ。2600キロメートルのパイプラインが完成すると、2030年から年間500億立方メートルのガスを西シベリアからモンゴル経由で中国に輸送できる。それは2つの「ノルド・ストリーム」パイプラインの配送量に達し、ロシアと中国の生産能力は一気に2倍以上になる。

興味深い点は、新たなパイプライン建設についてプーチン大統領が熱意を込めて説明し、ロシアのメディアはこのプロジェクトを既に合意されたものといった印象で報じている一方、中国の国営メディアは習近平主席のモスクワ訪問後もロシアとのパイプライン建設問題についてはほぼ何も言及していないことだ。パイプライン建設費でどちらがどれぐらい負担するかなど詳細な点は何も協議されていないこともあって、中国側はロシアから良きオファーが届くまで待ちの姿勢を見せている、という意見がある。

それだけではないだろう。ロシアのウクライナ侵攻以来、欧米の対ロシア制裁が施行されている。中国は親ロシア的になることで米国をあまり神経質にさせたくないため、ロシアとの天然ガスパイプライン建設問題を恣意的に抑制して対応しているのではないか。同時に、隣国の大国ロシアがウクライナ戦争の影響で政治的に、経済的に不安定となることは中国にとっては好ましくないため、ロシアに対しては経済的な支援など礼儀を尽くしたいという意向が北京側にあるのだろう。

中国は本来、ロシアとの間の新しいパイプラインは必要ないかもしれない。中国はカタール国営石油会社のカタール・エナジーから液化天然ガス(LNG)を購入することで合意する一方、昨年9月、トルクメニスタンとの間で300億立方メートルのパイプラインの建設で合意したばかりだ。ロシアとの間の「パワー・オブ・シベリア2」に関する協議は何年も続いてきたが、合意に至っていない。ロシアは長期的なプロジェクトに対してほとんど投資保証を提供していない。それゆえに、この制裁体制の下では、中国企業はロシアとのパイプライン建設に対してあまり乗り気がないのは当然かもしれない。エネルギー輸入先の多様化という観点からも、ロシア産エネルギーに依存しないほうが賢明、といった判断が北京指導部にはあるはずだ。

「ロシアは中国のディスカウント給油所」といわれているが、天然ガスのパイプライン建設問題でも中国側はその主導権を握っているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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