あなたのなりすましアカウントが誹謗中傷をしてたら?

アゴラ 言論プラットフォーム

アゴラ編集部です。新しい企画の誕生です。その名も「アゴラ法律相談」。

みなさんもネット上で権利を侵害されたり、知らぬ間に権利侵害したりしていることがあると思います。そんなとき、どう対応していけばいいかを、法律の専門家にお伺いするシリーズ企画です。編集部としても知らないことが多く、背筋が凍る思いでした

この記事はJUSTICEYEの協力で執筆されています。

これからわれわれの疑問に答えてくださるのは、SAKURA法律事務所の代表弁護士道下剣志郎先生と、パートナー弁護士の菅野龍太郎先生です。

第一回目のケースで取り上げたのが、「Twitterで自分のなりすましアカウントが誰かを誹謗中傷してたらどうすればいいの?」です。

みなさんもおなじみのTwitter。いろいろな意見を書き込んだり、リツイートをしたりしていると思います。

さて、こんな事例を考えてみましょう。

最近Aさんのなりすましアカウントが出現しました。そのなりすましアカウントが他人を誹謗中傷していました。当然、なりすましをされた方は、これを止めさせたいと考えています。どうすればなりすましを止めさせることができるでしょうか。

※なりすましアカウントとは、Aさんではない人が勝手にTwitter等のアカウントでAさんを名乗っている状況のことです。

なりすまし被害にあった場合には、まず、SNS事業者に、サービス所定の手続きに則って、専用フォーム等から削除依頼をします。これが、もっとも手間もコストも低い方法なので、こちらの依頼どおりに削除してもらえればいいのですが、そうしてもらえるとは限らず、また、新しいアカウントを新たに作成することは止められないので、なりすましが再発する確率が高いそうです。

したがって、効果的な対応としては、アカウントの特定後、なりすましをした本人に対して、損害賠償請求訴訟を提起することや、今後はなりすまし行為を行わないという誓約書にサインをさせることです。これらの訴訟の提起等には、まずなりすましをしている人物の特定が必要です。

アカウントの特定

Twitterに限らず、SNS上で正確な個人情報を公開していないアカウントの運営者を特定して、直接その運営者にコンタクトするには、煩雑な手続きを踏む必要があるのが現状です。

具体的には、①SNS等のサービスを提供している事業者にIPアドレスの開示を請求する②開示されたIPアドレスをもとに、アクセスプロバイダ(インターネット・サービス・プロバイダ等のインターネット回線をアカウントの運営者に提供している事業者を指します。)になりすまし者の個人情報の開示を請求する③開示された個人情報をもとに、なりすまし者本人に訴訟を提起する、というステップを踏む必要があります。

以上のように複数の開示請求が必要となるのは、SNS事業者は、個々人の正確な情報を持っていないケースが多いからです。そのような場合、まずはSNS事業者に、IPアドレスやタイムスタンプの開示請求をして、それからアクセスプロバイダにIPアドレスに紐づく発信者の個人情報を開示してもらう必要があります。ここでの注意点としては、Twitter等の投稿自体は長期間残り続けますが、一部のアクセスプロバイダでは、IPアドレスの保存期限が3か月程度なので、この期間が経過する前にアクセスプロバイダにコンタクトをして、IPログを保存してもらう必要があることです(投稿自体は半永久的に残りますが、3か月程度でIPアドレスのログが削除されてしまいます。)。

SNS事業者への手続き(裁判1)

まずは、SNS事業者への発信者情報開示請求をするため、仮処分の申立を必要がありますが、裁判所に申立をするためには、SNS事業者の登記簿が必要です。SNS事業者のほとんどの企業の本社は海外にありますので、意外に手間がかかるそうです。ちなみにTwitterの場合、Twitter.inc.で、本社の所在地はカリフォルニアです。カリフォルニアに請求しなければならないため、これだけで一か月くらいかかってしまいますので、IPアドレスの保存期間内に手続きを進めるには、かなり急ぐ必要があります。この登記簿を裁判所に提出することで、裁判所が仮処分の対象となる企業を特定できます。

そのうえで、裁判所に被害の状況を説明します。今後の方針の決定や、裁判所に事情を説明するために、被害にあった方は以下の事項を整理して弁護士に伝えることが重要です。

  • アカウントの特定(スクリーン名の特定・・・Twitterの場合、名前の下にある@以降の「英数字の組み合わせ部分」)
  • そのアカウントがなりすまし行為を行っていると判断できるかの根拠とその証拠(アカウント名に自身の名前を使ったりアイコンに自身の写真を使ったりしている、プロフィールで自身の経歴や属性を記載している等)
  • なにをしたいのか(当該投稿の削除、当該アカウントの停止、なりすましをしている人への損害賠償請求、刑事告訴等)
  • いつ投稿されたのか把握

etamorworks/iStock

また、仮処分の申立書には、どんな権利を侵害されているのかも記述します。

  • 名誉権(名誉を保持する権利)
  • アイデンティティ権(他人との関係で、自己同一性を保持する権利。アカウント自体の削除にはこのアイデンティティ権が重要)
  • 氏名権(氏名を他人に使用させない権利でアイデンティティ権の一部)
  • プライバシー権(自身の情報をコントロールする権利。投稿された情報の中に、自身の私生活にかかわる情報が公開されている場合には、プライバシー権の侵害になります。)

こういったことを裁判所に説明して、裁判で主張が認められれば、SNS事業者に開示請求ができ、IPアドレスやタイムスタンプ情報を得ることができます。

アクセスプロバイダへの手続き(裁判2)

アクセスプロバイダにIPアドレスの発信者情報を開示してもらうよう、今度は仮処分ではなく、訴訟の提起をします。主張する内容は、裁判1と多くの点で重複します。

当事者(なりすましアカウントの所有者)への手続き

こうして特定できた結果、なりすましの当事者に直接アクションをとります。具体的には、

  • 名誉棄損等を理由に損害賠償請求をする
  • 今後同様のことを行わないという誓約書に署名をさせる
  • 刑事告訴する

こと等が考えられます。

裁判上で損害賠償請求をするとなると、都合3回の手続きが必要です。なかなか大変ですね!

今回のまとめ

繰り返しになりますが、SNS事業者へのIPアドレスの開示や、アクセスプロバイダへのIPアドレスの発信者情報の開示は、時間との戦いになります。自己の権利が侵害されたとなると、即アクションを起こさなくてはなりません

現時点では、SNS事業者やインターネットプロバイダとしても、個人情報を守る観点から、裁判外の請求では個人情報の開示をしてくれないケースが大半を占めます。もっとも、裁判所を通した対応は非常に煩雑なため、今後は法律の改正によって一つの手続きでなりすまし者の個人情報が開示されるようになるそうです。

現状、手続きは複雑です。けれども、個人でも誹謗中傷のアカウントの特定ができる余地はあるということはご理解いただけたのではないでしょうか。

道下弁護士、菅野弁護士、ありがとうございました。次回もインターネット上の法律相談を訊いてみたいと思います。こんなテーマを伺ってみたい等、みなさんのご意見もお聞かせください。

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今回お伺いしたのは、SAKURA法律事務所のエキスパートのおふたりです。

道下 剣志郎 弁護士
一橋大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。第一東京弁護士会所属。西村あさひ法律事務所に勤務後、SAKURA法律事務所開業。会社法・金融商品取引法をはじめとする企業法務全般を手掛け、国内外のM&A、企業間の訴訟案件、危機管理案件、コーポレート・ガバナンス、株主総会対応等、幅広い案件を取り扱う。

菅野 龍太郎 弁護士
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。第一東京弁護士会所属。アンダーソン・毛利・友常法律事務所に勤務及びバークレイズ証券株式会社出向後、アマゾンジャパン合同会社を経て、SAKURA法律事務所参画。会社法、訴訟・紛争、決済、IT等、各種企業法務案件を取り扱う。

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