2023年3月10日、多くのテクノロジー企業が集積するシリコンバレーに本拠を置き、テクノロジー企業への積極的な投資を行っていたシリコンバレー銀行が経営破綻しました。この件に関連してソフトウェアエンジニアのMatt Eskridge氏が、「OpenAIが3月にリリースした大規模自然言語モデル・GPT-4にシリコンバレー銀行のリスク評価を行わせる」という実験を行い、その結果をブログで報告しています。
GPT4 and Silicon Valley Bank – Matt Eskridge
https://blog.matteskridge.com/business/gpt4-and-silicon-valley-bank/2023/03/19/
シリコンバレー銀行はアメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに拠点を置く銀行であり、多くのテクノロジー企業やスタートアップに積極的な投資を行い、シリコンバレーにおいて強い存在感を放っていました。
ところが2023年3月8日の2023年第1四半期決算の中で、同行のグレッグ・ベッカーCEOが「実質的にすべての証券を売却する」ことや、「22億5000万ドル(約3000億円)の資金を募る」ことを発表。これを受けて投資家の間に不信感が広がったため、株価が60%以上も急落する事態となり、預金者が一斉に預金を引き出そうとする取り付け騒ぎに発展して経営破綻に至りました。
「シリコンバレー銀行」とは一体どのような銀行でなぜ破綻してしまったのか? – GIGAZINE
世界中の経済に影響を及ぼしたシリコンバレー銀行の破綻については、内部から「CEOが愚かすぎる」「最先端テクノロジーに投資しているのに社内の技術は停滞していた」といった批判の声が上がっています。また、一部のベンチャーキャピタルや専門家は、破綻の数カ月前からシリコンバレー銀行の危機を察知していたことも報じられています。
シリコンバレー銀行の破綻は2022年の時点で既に予見されていた – GIGAZINE
そこでEskridge氏は、OpenAIが3月にリリースした言語モデル「GPT-4」にシリコンバレー銀行に関する2021年のデータを与え、リスクを評価させるテストを実施しました。テキストだけでなく画像の入力も受け付ける「マルチモーダルAI」として開発されたGPT-4は、司法試験で上位10%に入るほどの性能を持っており、ボットを防ぐための検証システムを突破したり、新たなプログラミング言語を生み出したりして話題を呼んでいます。
まずEskridge氏は、以下のようなプロンプトをGPT-4に与えました。
仮定のシナリオを考えてください:今年は2021年であり、フェデラル・ファンド金利(FFレート)は過去10年と同様に0~0.25%を目標としています。ある銀行が、直近1年間の貸借対照表で次のような資産配分を報告しました。
・米国債権(平均償還期間10年):7.5%
・住宅ローン担保証券:47.6%
・ハイテク分野の企業に対するハイリスクローン:31.1%
・現金:3.7%
・その他の資産:10.1%
負債は次の通りです。
・預金通貨(要求払預金):92.5%
・負債:1.6%
・その他の負債:5.9%
この銀行の財務健全性に関する以下のリスクを評価し、それぞれについて影響度・可能性・RAC(リスク評価コード)スコアを提供してください。影響度と可能性については5点満点でお願いします。
1:CPI(消費者物価指数)で測定される物価上昇
2:金利リスク
3:経済不況
4:住宅市場の価格変動
5:パンデミック、戦争、災害
6:銀行の取り付け騒ぎ
上のプロンプトに対してGPT-4が返した答えが以下の通り。
銀行の財務健全性に関わるリスクを評価するため、まずは各リスク要因について簡単に説明し、その影響度と可能性を5段階で評価します。最後に各リスクについて、影響度と可能性を掛け合わせたRAC(リスク評価コード)スコアを算出し、銀行の財務健全性に最も大きな脅威となるリスクを特定したいと思います。
1.CPIで測定される物価上昇:インフレは貨幣の購買力を低下させ、銀行の収益性や資産価値に影響を及ぼす可能性があります。
影響度:2(低~中)、可能性:3(中)
RASスコア:2×3=6
2.金利リスク:金利リスクとは金利の変動によって損失を被る可能性を指します。銀行の資産および負債は特に住宅ローン担保証券および長期国債への配分が大きいことから、金利の変動により影響を受ける可能性があります。
影響度:4(高)、可能性:4(高)
RACスコア:4×4=16
3.景気後退:景気後退によって特にリスクの高いハイテク分野での貸し倒れが増加し、住宅ローン担保証券が値下がりする可能性があります。
影響度:4(高)、可能性:3(中)
RACスコア:4×3=12
4.住宅市場の価格変動:銀行の資産は47.6%が住宅ローン担保証券であるため、住宅価格の変動はこれらの証券の価値に大きな影響を与える可能性があります。
影響度:4(高)、可能性:3(中)
RACスコア:4×3=12
5.パンデミック、戦争、災害:これらの事象は経済や銀行の資産に広範な影響を与える可能性がありますが、その可能性は他のリスクと比較して一般的に低いと考えられます。
影響度:4(高)、可能性:2(低)
RACスコア:4×2=8
6.銀行の取り付け騒ぎ:銀行の負債の92.5%が預金通貨であるため、銀行の取り付け騒ぎが発生した場合、支払い能力に大きな影響を与える可能性があります。
影響度:5(非常に高い)、可能性:1(非常に低い)
RACスコア:5×1=5
計算されたRACスコアに基づくと、金利リスク(RACスコア:16)が銀行の支払い能力にとって最大の脅威となっており、次いで景気後退と住宅市場の価格変動(いずれもRACスコア:12)が密接に関連しています。
続いてEskridge氏は、「この最大のリスクを軽減するため、銀行にどのようなことを推奨しますか?」と尋ねました。GPT-4の回答が以下の通り。
前回の分析で特定された最も重要なリスク(金利リスク、景気後退、住宅市場の価格変動)を軽減するために、銀行は次の戦略を検討することができます。
1.金利リスク
a:ポートフォリオのリバランス……銀行資産配分を調整して、長期国債や住宅ローン担保証券への集中を減らすことができます。より期間の短い債権や金利感応度の低い他の資産クラスに分配することで、銀行は金利変動の影響を減らすことが可能です。
b:金利ヘッジを行う……金利スワップ、先物、オプションなどの金融商品を活用し、潜在的な金利変動をヘッジできます。これらの金融商品は銀行が金利リスクを管理し、潜在的な損失を抑制するのに役立ちます。
c:資産・負債管理(ALM)……銀行資産と負債の持続とキャッシュフローをより密接に一致させるため、ALM戦略を導入します。これにより、金利変動がバランスシートの両面にバランス良く影響するようになり、金利リスクの低減につながります。
2.景気後退
a:高リスクローンの割合を減らす……銀行は景気後退時にデフォルトしやすいハイテク企業への高リスク融資の集中を抑えることができます。異なるセクターや信用度の高い企業に貸し出しポートフォリオを分散させることで、銀行は景気後退が貸し出しポートフォリオに与える影響を軽減することができます。
b:契約査定基準の強化……新規貸出時の与信・引受基準の厳格化を実施し、景気悪化時にも借り手が返済する可能性が高くなるようにします。
c:資本の余裕を維持する……銀行は不況時の潜在的な損失を吸収するため、十分な資本バッファーを確保する必要があります。これは慎重な資本計画を立て、規制上の資本要件を順守することで達成できます。
3.住宅市場の価格変動
a:資産配分を多様化する……銀行のポートフォリオにおける住宅ローン担保証券への集中度を下げ、他の資産クラスに分配させます。これにより、住宅市場の変動が銀行の財務状況に与える影響を緩和できます。
b:住宅市場の動向を監視する……住宅市場の動向や経済指標を定期的に分析し、潜在的なリスクを特定し、それに応じて銀行の資産比率を調整します。
c:住宅ローン担保証券に関するリスク管理……銀行の住宅ローン担保証券ポートフォリオについて、ストレステスト、シナリオ分析、信用度のモニタリングなど、強固なリスク管理手法を導入します。これにより、銀行は住宅市場の価格変動に関連するリスクをより良く理解し、管理することが可能になります。
GPT-4は「以上の戦略を実行することで、銀行は最も重大なリスクへのエクスポージャーを減らし、財務の安定性と支払能力を向上させることができます」と述べました。
最後にEskridge氏は、「正誤問題です。シリコンバレー銀行が破綻したためにFDIC(連邦預金保険公社)の管理下に入ったことはありますか?」と尋ねてみました。するとGPT-4は、「誤りです。2021年9月時点の私の知識では、シリコンバレー銀行は債務超過によってFDICに差し押さえられたことは一度もありません。シリコンバレー銀行はテクノロジー、生命科学、その他イノベーションセクターの企業に銀行業務や金融サービスを提供することに特化した、老舗の金融機関です。高い評価を得ており、このような規制措置に直面したことはありません」と正しく回答したとのことです。
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