本というものがある。自費出版を除けば多くは出版社から出版されている。出版社は全国にたくさんあり、東京にもあれば、鹿児島にも、北海道にもある。そして、全国の本屋に置かれる本もあれば、その地域では特に集中的に棚に置かれる本もある。
その地域というのがポイントで、その街の出版社が出版している本がディープで非常に面白いのだ。その地域で売ることを考えているためなのか、全国的に並ぶ本より専門的で面白い。今回はそんな本を紹介したい。
地元の出版社
どこかに出かけると本屋さんを訪れるようにしている。できればその街の大きな駅にある本屋が一番いいように思える。私が求める本が棚に並んでいることが多いのだ。それは地元の出版社が出版している本だ。
富山の出版社「グッドラック」が出版している「富山の社長2」だ。東京の本屋で並んでいるところを私は見たことがなかった。しかし富山の本屋さんに行くと並んでいた。目立つ棚に表紙がこちらに向けられ並んでいた。もちろん買った。
タイトルの通り富山の社長のインタビューがまとめられている本だ。生い立ちや学歴、経歴などの基本的なものはもちろん、趣味や特技、さらには社長毎に異なる質問項目もあって、休日の過ごし方やファッション、生まれ変わるとしたら、結婚でのエピソードなど、読んでいたらその社長のことを好きなってしまう。
ただ全国の本屋に並んだとして買うかというと謎だ。社長の話はためにはなるが「富山」と限定することで広義での一般性にはかける。だからこそディープで面白いのだ。日本にはそのような本が多々あるのだ。たまらなく好きだ。
地元のことがわかる
地元の出版社が出している本を集めているけれど、やはりそこには好みもある。地元の美味しいパン屋さんを紹介した本なども当然出版されているけれど、私はあまり買わない。その地域の文化などを紹介した本が好きなのだ。そのような本を紹介したい。
鹿児島の南方新社が出版している「鹿児島民俗ごよみ」。鹿児島で行われている風習や祭りなどを紹介している本だ。風習や祭りはやはり地域ごとに大きく異なる。異なると思っていたら、この地域とは似ている、ということもあって面白い分野だ。
指宿市には「サンコンメ」という催しがあるそうだ。長さ1.7メートルの竹筒に3000円分の10円玉を入れて、少年がこれを担ぎ地面に投げつける。やがて竹筒が割れて10円玉が飛び散る。それを子供達が拾う。全く知らない行事だ。そのようなことが記された本だ。
岡山の山陽新聞社が出版している「岡山のごりやくさん」。そのタイトルの通り岡山各地のご利益のあるもの、地蔵とか神社とか岩とかが紹介されている。出版社だけではなく、地元の新聞社が本を出しているケースも多い。
この本の素敵な点は紹介したものにそれぞれ地図が載っていることだ。地図は道具としてはもちろんだけれど、記録と記憶をも持ち合わせている。この本が出版されたのは平成元年。随分と前だ。ご利益があるものは今もあるはずだけれど、その周りは今行けば変わっているはず。それを地図のおかげで知ることができる。
静岡新聞社が出版している「静岡県民俗歳時記」。静岡で行われている民俗的なことが紹介されている。読んでいると県下の富士川以東の地では、のような記述があり、住んでいない私は静岡と一括りに考えてしまうけれど、さらに細かく分かれるようだ。
日本という大きな括りで何かを紹介する本もある。それだけではやはり語りきれないものが多々存在するということだ。静岡と範囲を狭めてもさらに細かく分かれるわけだから。より詳しく知ることができるのがこのような本の魅力だ。
宮崎の鉱脈社が出版している「民俗探訪ふるさと365日」。この本は上下巻に分かれている。1カ月につき20以上の宮崎の行事だったり風習だったり暮らしだったりを紹介している。休業日を知らせる係を選ぶ話など今ではない風習を知ることができる。
岡山県には岡山文庫というシリーズがあるけれど、この本は「みやざき文庫」というシリーズの1冊だ。「宮崎の四季と気象」「西都原古代文化を探る」など宮崎のことを深く知るにはとてもいいシリーズと言える。ちなみに私は宮崎に住んだことはない。
伊豆の風俗史は出版社がわからないのだけれど、静岡で出版されたようだ。表紙からして素晴らしい。「ピカソから道祖神まで」と書いてあるのだ。ピカソの対局が道祖神なのかはわからないけれど、そこに惹かれて購入した。
写真がたくさん載っていて、基本的にはエロいものが多い。そういうコンセプトの本だからだ。帯にもそう書いてある。なかなかに衝撃的で峠の事情というページには峠で密会するカップルの話が書いてあり、さらにオイハギに会うかもしれないと注意喚起までしてある。
地元が好きになる
ここまででわかるように、民俗的な本が多い。単純に私の好みだ。昔を知ることができると嬉しいと思い買っては読んでいる。今は行けばわかるのだけれど、昔は行ってもわからない。だから買ってしまうのだろう。
鳥取県の小取舎から出版されている「街を見る方法」。鳥取のタウン誌に「まちの本スペース」というものがあったそうだ。1978年から1998年まで刊行されていた。その誌面を分析したのがこの本になる。
ただ分析するだけではなく、タウン誌の必要性やローカルメディア、地域美術の話など、いま割と話題にあがる話が書かれている。論文のように書かれているけれど、読みやすい一冊だ。
八戸観光コンベンション協会が発行している「八戸写真帖」。八戸に出かけた時に見つけた本なのだけれど、迷わず買った。昔の八戸の写真が解説と共にたくさん載っている。とにかくいい。いいとしか言えないほどいい。
街中の写真もあれば、人が写っている写真もある。全てではないけれど、今ほど写真が気軽でなかった時代の写真は写っている人がどこか緊張していて、ただそこに喜びのようなものが感じられて、写真としていいのだ。ひたすら見ていたい一冊になっている。
秋田の無明舎出版から出版されている「がんばれ! 秋田内陸線」。「んだんだブックレット」というシリーズのようだけれど、その名前も素敵だ。んだんだで秋田を感じることができる。「どぶろく王国」「米代川読本」など秋田のいろいろを知ることができるシリーズだ。
この本は国鉄の分割民営化に伴ってJRが引き継がなかったために発足した「秋田内陸縦貫鉄道」の話だ。秋田内陸線での旅の話や歴史、さらに赤字についてなどが書かれている。これを読んでから秋田内陸線に乗ると「がんばれ!」と思う。
新潟の野島出版から出版されている「わらべ歳時記」。わらべ唄がまとめられた本だ。地元の出版社の本は地元の新聞で連載されたものをまとめたものも多い。この本もそうだ。毎日新聞の新潟版で連載されたものがまとめられている。
わらべ唄ってこんなにあったのかと思うし、基本的にはひとつも知らない。やはり地域性が高いのだ。たとえば「ガチ合いゆるすイーローヨ」、知らない。雪玉遊びをする時に仲間を集める時の呼びかけの言葉らしい。
最後に紹介するのは、北海道出版企画センターから出版されている「亜寒帯紀行」。北海道ライブラリーというシリーズの1冊だ。このシリーズには「北海道の伝説」「北国のわら細工」などがあり、この亜寒帯紀行には続編の「続亜寒帯紀行」もある。
モンゴルに行き、シベリアに行き、ソ連に行く。面白い。ちなみに古来ヨーロッパでは暗殺者をアサシンと呼ぶけれど、これはインド大麻から採った麻薬「ハシーシーン」あるいは「アササン」が訛ったものだそうだ。暗殺者のルーツについても書いてあった。
地元は面白い
東京の人が東京タワーにのぼらない、のように意外と地元を知らないこともある。それを知るのが面白い。地元でもないのに知ることに背徳感もある気もする。どちらにしろ、知らない地域の話はある意味では御伽噺のようで楽しいのだ。