卸売依存からの脱却と D2C 参入を進める既存ブランド:逆行するD2Cブランドが知るべき3つの条件

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いわゆるD2C新興企業と呼ばれる企業の多くが卸売事業の拡大を検討しているなか、レガシーブランドは逆の方向に動きつつある。

小売業者が決算を発表するこの時期に、ブルックス(Brooks)、スティーブマデン(Steve Madden)、アンダーアーマー(Under Armour)など多くのブランドがD2C事業部門の成長を最優先事項とし、D2Cの売上統計を発表している。非公開企業のブルックスは、2022年に全世界での収益が過去最高を記録し、D2C事業が前年比で16%増加したのが主な理由だと述べている。一方でカナダグース(Canada Goose)は今月初頭に新しい5年間の戦略的プランを公開した。このプランでは、会計年度2028年までに同社の売上の80%をD2C事業で生み出すことが求められている。これらの小売業者は、D2Cに進出する前は、各種の百貨店、大手小売業者、各カテゴリーの専門店チェーンを通じて主に販売を行ってきた。

ナイキ(Nike)やリーバイス(Levi’s)のように、自社のD2C部門を構築するために数年間を費やしてきたブランドは、自社事業の方向性をより的確にコントロールできるようになった。最新の四半期において、直営店舗とeコマースの両方を含むダイレクト販売は、ナイキとリーバイスの収益のそれぞれ約41%と39%を占めている。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のレポートによれば、D2Cを開始していないブランドと定義されている「確立された」ブランドは今年、自社ウェブサイトで1380億ドル(約18兆9000億円)のeコマース売上が見込まれている。これは、D2C新興企業の各社が2023年に自社ウェブサイトで得ると予測されている収益金額の3倍を超える。これらの統計は、小売の分野において、新興企業ではなくレガシーブランドが、現代のD2Cブランドのあり方の青写真を描くようになってきていることを示している。

すべてのレガシーブランドがD2C事業の育成に成功したわけではないが、成功した企業には共通の性質がある。これらの企業にはブランドの強いアイデンティティがあり、卸売のパートナーシップを縮小したことで事業が短期的に後退しても、持ちこたえることができる。また、これらの企業はさまざまな小売のコンセプトを構築し、新しいデジタル販売戦術を試すことに投資してきた。

D2Cに参入したレガシーブランドから、新興企業が学ぶことのできる教訓について、以下に記す。

大規模な直営店ネットワークが不可欠

多くのレガシーブランドがD2C事業を成長させるために行っているもっとも大きな施策のひとつは、さらに多くの直営店舗を開設することだ。たとえばカナダグースは今後5年間で店舗数を倍以上に増やすことを計画している。

これらのレガシーブランドの多くは、店舗のネットワークを構築するときに、新興企業と同様のアプローチをとっている。すなわち、まずポップアップ店舗や実験的なコンセプトによって市場をテストし、ブランドのロイヤルティがもっとも高いと思われる都市や州に店舗を開設するという方法だ。カナダグースは、現在のところ、テキサスや、バージニア、フロリダのような温暖な州に店舗を開設する計画はないと述べている

しかし、レガシーブランドの店舗のネットワークがD2Cブランドのものと異なるのは、賃借対照表の規模が大きいため、多数の店舗を短期間に開設し、多種多様な店舗のコンセプトを実現できることだ。

たとえばナイキは、D2C事業を構築するために、長年にわたってさまざまな店舗のコンセプトを実験してきた。12月に行われた最新の四半期決算発表では、ダイレクト販売の売上が54億ドル(約7400億円)であると報告するなど、確立された既存ブランドのなかでも最大級のD2C事業を作り上げている。

2018年には、ナイキのアプリをダウンロードした顧客専用のストーリーナイキライブ(Nike Live)を開設した。同社が実験してきたほかの店舗フォーマットには、主要都市に開設された複数階建ての旗艦店の名称であるハウスオブイノベーション(House of Innovation)や、昨年ソウルで最初に試された、アパレルやアクセサリーなどのライフスタイル商品により特化した店舗コンセプトで、コンテンツスタジオも保有しているナイキスタイル(Nike Style)などがある。

カナダグースは発祥地であるトロントに、ザ・ジャーニー(The Journey)と呼ばれる実験的なコンセプトストアを開設した。ここでは、同ブランドのジャケットが、疑似的な雪嵐のような環境での着心地がどのようなものかを顧客がテストすることができる。

若いD2C新興企業が、複数階にわたる旗艦店を主要都市に開設する費用をまかなえるようになるのは何年も先かもしれないが、これらのコンセプトは、より広く見て、現代のブランドが小売店舗を構築する際に直面する課題、つまり、店舗を成功させるために何が必要かは市場に依存する、ということを物語っている。

エモリー大学(Emory University)のビジネススクールで助教授を務めているダン・マッカーシー氏は、多くの店舗に多額の投資を行うには、多くの場合、レガシーブランドはさまざまな専門分野を持つチームを構築する必要があると言及している(同氏が2018年に自身のデータ分析新興企業のゾディアック[Zodiac]をナイキに売却したことも、特筆に値する)。

「たとえば、場所の選択だ。最初の数店舗は比較的簡単に選択できると思うが、この選択は些細な問題というわけではない。そして、そのあとでは当然多くの店舗の管理が必要となる」と、同氏は述べている。

従来型のブランドマーケティングの採用

インサイダーインテリジェンスのプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は、D2C事業の構築に大きな成功を収めたブランドのいくつか、たとえばナイキや、リーバイス、クロックス(Crocs)などは「強力で非常に識別性の高いブランドを保有している」と述べている。

リーバイスは1月に、米国において第4四半期D2C売上高が過去最高となり、ダイレクト販売が同社の事業の3分の1近くを占めるようになったと述べた。一方でクロックスは第4四半期の決算発表で、D2Cの収益が前年比で62%増加したと報じた。

リプスマン氏は、ワービーパーカー(Warby Parker)や、キャスパー(Casper)など、デジタルネイティブな新興企業が既存の企業に対して持っていた最大の優位点のひとつは、ソーシャルメディアによる顧客獲得に長けていたことだったと述べている。しかし、Facebookやインスタグラムなどのチャネルによる顧客獲得のコストが増大するにつれ、情勢はさらに変化してきた。今日では、D2C事業の立ち上げに成功するために必要なのはデジタルでの顧客獲得だけではなく、ブランドマーケティングにも精通する必要がある。

「強い」ブランドの条件は何かについて、統一された定義は存在しないが、D2Cへの参入に成功したレガシーブランドに共通するのは、ブランドの認知度が高いことと、顧客が積極的に検索するような商品を保有していることだと、リプスマン氏は語る。ナイキがスニーカーのドロップで行ったように、これらのブランドは顧客が争って入手しようとするような独占的な商品を次々と生み出している。

また、これらのブランドは、インフルエンサーやほかの話題になっている企業と提携し、自社ブランドの評判を広めてきた。たとえばクロックスはジャスティン・ビーバー氏、ポスト・マローン氏などとコラボレーションを行ってきた

言い換えれば、「彼らはまず従来型のブランドマーケターなのだ」と、リプスマン氏は述べている。

有料メディア以外のデジタル獲得戦略を実験する意欲があること

D2Cを採用してきたレガシーブランドは、シームレスに返品を行える洗練されたウェブサイトを構築しているだけではない。今日のD2Cにとって、これらは前提条件にすぎない。これらのブランドは、有料のソーシャルメディアのマーケティングに過剰に頼ることなく、オンラインで顧客を獲得するための独自のデジタルエクスペリエンスにも投資している。

「この利点のひとつは、顧客獲得のコストを購買ベースで低く抑えられることだ」と、リプスマン氏は述べている。

たとえばナイキは、コアアプリであるナイキアプリ、エスエヌケーアールエス(SNKRS)、ナイキランクラブ(Nike Run Club)、ナイキトレーニングクラブ(Nike Training Club)を含む、一連のモバイルアプリにより、独自のメディアプロパティを構築してきた。同社は2021年、アプリのユーザー数が3億人を超えていると述べた。ナイキがこのような数値を明かしたのはこれが最後だ。

一方、リーバイスは、返品率を低く抑えるためにデジタルテックに投資してきた。これは、アパレルビジネスでは特に重要なものだ。同社は昨年、顧客の身長、体重、性別によって最適なサイズを提案する予測型フィット・アルゴリズムなど、新しいサイズ選択機能機能をウェブサイトに追加した。また同社は、アプリユーザーに対して、独占コラボレーションやカスタマイズ機能へのアクセスを提供している。

このようなすべての実験にはコストが発生する。同社は2019年、「ナイキダイレクト(Nike Direct)」構想の最盛期に、「新しい機能と消費者のコンセプト」に10億ドル(約1370億円)を費やした。

これらの方針はD2C新興企業がすぐに真似できるものではないが、今日のD2C事業を運営するには、複数のオンラインとオフラインの成長戦略に同時に投資する必要があるという事実を示唆している。

マッカーシー氏の言葉を借りれば、「本当の意味でD2C事業の構築に成功するための経費は安くない」。

[原文:DTC Briefing: What startups can learn from wholesale-reliant brands’ attempts to go DTC]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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