【山田祥平のRe:config.sys】【特別編】世界最軽量のリスタート

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左から松下真也氏(同第三技術部マネージャー、筐体、構造設計担当)、靑野雅之(同本部共通開発センタープラットフォーム開発部主任、回路設計担当)、河野晃伸氏(プロダクトマネジメント本部PM統括部第一技術部シニアマネージャー)

 FCCLのFMV LIFEBOOK最新モデル「UH-X/H1」の出荷が開始された。14型ワイド液晶搭載のノートPCとして世界最軽量を誇る689gという値は、先代機の634gから後退してしまったように感じるかもしれない。それでもさまざまな悲喜こもごもが背景にある。

 今回は、開発に関わった河野晃伸氏(プロダクトマネジメント本部PM統括部第一技術部シニアマネージャー)、松下真也氏(同第三技術部マネージャー、筐体、構造設計担当)、靑野雅之(同本部共通開発センタープラットフォーム開発部主任、回路設計担当)らに話をきいてきた。

3歩進んで2歩下がる世界最軽量の歩み

 UHシリーズの世界最軽量の歩みは2017年、748gの「LIFEBOOK UH75/B3」(製品仕様)からスタートした。翌2018年に698gの「LIFEBOOK UH-X/C3」(製品仕様)、さらに2年後の2020年には「ムサシ」の異名をとる634gの「LIFEBOOK UH-X/E3」(製品仕様)が発売されている。

 2017年から2020年の3年間で748gから634gへと114gものダイエットを果たしたUHシリーズは、もはやノートPCとしては異次元世界にいる存在だった。そして、きっと次は600gを切ってくるのだろうと、誰もが期待していた。

 コロナ禍に見舞われた3年間が経過した。

 2023年1月24日、東京・原宿で開催されたFMV2023年春モデル新製品発表会で披露されたのは、689gの「LIFEBOOK UH-X/H1」(製品仕様)だった。634gから55gも増えている。2018年の698gよりは軽いかもしれないが、ざっくり1割程度のリバウンドだ。

 これまでのUHシリーズは、プロセッサやチップセットのアップデートによる正常進化に注力し、基本的な本体構成は何も変えず、ひたすらダイエットを懸命に進めてきた。ポートの数や種類もそのまま、液晶サイズもそのままだ。足し算もなければ引き算もない。あるのは、目に見えないところにある皮下脂肪に相当する部分のダイエットだけだったといってもいい。それは本当にすごかった。

 ところが今回はちょっとちがう。これまでのUHシリーズに対して、

  • 13.3型フルHD(16:9)ディスプレイ → 14型WUXGA(16:10)ディスプレイ
  • 標準サイズSDカードスロット → microSDカードスロット

と目に見える重要な変更が加わったのだ。足し算と引き算の両方が起こった。ただ、見かけの上では境額縁化により、画面サイズが大きくなったにもかかわらず、フットプリントはほとんど変わっていない。だからこそ余計に重量増が惜しいと感じてしまう。

 右側のフレキシブルケーブルでつながった基板がmicroSDスロット。

先代の標準サイズSDカードスロットと比べると5gほど節約できている

13.3型16:9から14型16:9に画面サイズを拡大

 河野「14型ワイド液晶搭載で最軽量を勝ちとろうというのが最初の方針でした。従来の13.3型フルHD画面のUHでテレワークというのは画面サイズが小さすぎて効率があがらないという声が日に日に増えてきていたという状況もありました。

 また、CHシリーズとの棲み分けなどもあってUHは14型でということになったのです。ムサシ、つまり634gは13.3型としては限界値に近かったと思います。だから、大画面化の道を選んだという事情もあります」。

 モビリティは軽量化と小型化の両輪で進化する。だが、今回の画面サイズ拡大は、小型化には反する大型化だ。その副作用として軽量化にも影響を与える。その影響を最小限に抑えるために四辺狭額縁化を追求し、これまでとフットプリントがほとんど変わらないようにしたという。

 松下「結果として、表示エリアの面積は約17%増えました。パーツとしてのLCDユニット重量は6g増えました。最終的に、全体で55g増えてしまったのは、サイズが大きくなったことで、カバーなどの部材で重くなったことが原因です。容積でいうと14%増になっています。

 今回、最初にできあがった評価機は700gちょうどでした。何も変えずに画面パーツを変えるだけだとこうなります。でも、軽量化を追求するのは我々のこだわりです。この先も、さらに続けていかなければなりません。バッテリや液晶、キーボードがノートPCを構成するパーツの中でも比較的重い部品になるのですが、将来的にこれらについてはまだ軽量化できる可能性があるんじゃないかと思っています。それに、今回は、バックライトも増えています」。

 これまでのUHシリーズの歩みは既存機能を省略せずに、重量を減らしてきた。何も切り捨てなかったし、何も付加しなかった。だが、今回は、機能としての大画面化によって追加の重量を受け入れた。これが689gという重量の悲喜こもごもだ。

 果たしてポート類を減らしてつじつまをあわせるなどの議論はなかったのだろうか。

 河野「今あるポートを省略するなどすると、確かに重量は減ります。たとえば、SDカードスロットは5gあります。スマホがmicroSDなので、それらのスマートデバイスとの親和性を考えたとき、標準サイズである必要はないのではないかと考えました。ただ、明確な市場データがあったわけではありません。これを省略して5gを稼ぐということが、ユーザー目線にたったときにどうなのかということですね。

 いずれにしても、今回は、13.3型から14型にすることで、フットプリントをできるだけ拡げないようにするのに注力し、努力を尽くしました」。

 容積が14~15%くらい大きくなることは分かっていたという。だが、LCDのレイアウトを工夫した結果、それを7%ほどに抑えるることができている。さらに、天板カーボンのプレスで、膨らみ方向にRを出すようにし、基板による圧迫を逃がす方向に作用させ、いちばんきれいなラインを探し出すことができたという。

天板はわずかなRを持たせてプレスされている

 このプレス工程は、比較的新しい技術だが、ベンダーもノウハウを積んできた結果できたことで、設計という意味では、電子機器系のあらゆるデバイスに応用がきくものだという。素材の観点でいえばコアカーボンは、人工衛星やF1レーシングカーにも使われている。こうした要素が前例のない軽量化に貢献している。

横長感が人に好まれる16:10

 今、ノートPCの画面は、従来の主流だったフルHD 16:9が、画面縦横比16:10派と3:2派に2分化している。3:2は16を基準に計算すると16:10.7程度で16:10よりもさらに縦方向が長い。UHシリーズでは、多少の横長感があったほうが万人に好まれるということで、16:10を選んだという。

横幅が同じ場合、画面の縦横比イメージはこう変わる。新UHシリーズは14型にサイズアップ、万人に好まれるという16:10を選択した

 河野「ノートPCは持ち運びもすれば在宅のテレワーク時に家でも使います。オフィスに行けば外付けモニターはあるかもしれませんが、家にはないことが多いです。会社と家の両方で働くことが多くなり、さらには自宅で働く時間が増えてきています。結果的に、大きな外付けモニタを置くことも難しいようなスペースで仕事をしなければならいケースが決して少なくないのです。つまり、コロナ禍で明らかにPCの使い方が変わってきているといえるでしょう」。

 新しいUXシリーズでは、世界最軽量689gのUH-X/H1に加えて、848gのUH90/H1が提供されている。これは双子モデルのようではあるが、仕様を見るとかなりパワフルであることに気がつく。

 先代UHシリーズの基板や冷却機構は、第11世代Intel Coreプロセッサの28W対応が難しく、処理性能の高いPプロセッサをサポートできず15WのUプロセッサ対応がせいいっぱいだった。

 だが、今回、UH90/H1は、デュアルファン化によって28W対応をかなえている。UH-X/H1はUプロセッサのCore i7-1355U、UH90/H1はPプロセッサのCore i7-1360Pを搭載した。基板は共通なので双子機のようだが、性能はかなり違う。

 また、装備されているポート類についても、その見かけは同じだが、Type-CポートがThunderbolt 4、バッテリもUH-Xの25Whに対してUH90は64Wのものを搭載している。また、UH90/H1はIntel Evo対応で、色も3色用意されている。

左がデュアルファン28W対応のUH90/HI、右がシングルファン15W対応のUH-X/HI。バッテリ容量も倍以上ある

 靑野「デュアルファン搭載による設計の制約もありましたが、貫通基板からビルドアップ基板に変更したことで、メモリのスピードを確保できています。それをしないと本来のスピードがでないんです。LPDDR5-6400が最大なのですが、そのスピードを出せている競合はそんなにないんじゃないでしょうか。

 結局、気がついたら基板の面積が減っているというイメージでした。構造設計は削って軽くしたいというし、こちらは信号の品質を考えると余裕をもった配線をしたいので、削りたくないしでかなり議論しましたね」。

 今回、無線関係のアンテナはヒンジの部分に移動している。無線の安定姓に少なからず影響を与える設計変更なので、かなり検証に時間をかけたともいう。事業所内に評価用のアクセスポイントはたくさんあるが、実務使用の影響を受けないよう深夜に出勤してテストを繰り返し、問題がないことを確認したそうだ。

 今は、バッテリ運用でTeamsなどを使ったオンライン会議などをするユーザーも少なくない。さすがに25WhのUH-Xではバッテリ消費のインパクトが大きすぎる。アッというまにバッテリは空っぽになるだろう。カタログスペックの11時間は、Teams利用では話半分どころかもっと短くなる。そういう使い方をするとバッテリインパクトが予想以上に大きいことも、きちんと伝えなければならないと河野氏らはいう。もっとも、25Whよりもバッテリ容量を少なくして重量を減らすことはありえないと考えているとのことだ。

カメラがFHD対応し、センサーサイズの大きさで配置が難しくなったが、設計の工夫で境額縁に対応

アンテナケーブルがLCDの両脇を通ると狭額縁には不利。そこでアンテナはヒンジ部分に収納した

まだまだ続く軽さは正義

 いずれにしても軽さは正義だ。プロジェクトスタート時の748gが634gになるのに3年間かかった。でも、一里塚の698gが634gになるのに要したのは2年間だった。今回は、698gを9g下回る689gからの再スタートとなる。

 キーボードはどうなるのだろうかというのも気になる。今のUHシリーズのキーボードは、各社ノートPCの中でもレイアウトが標準的で使いやすい。ゆったりとしたその打鍵のしやすさを維持するには、今よりも小さい画面サイズでは無理だろう。だが14型が求められた結果、キーボードサイズもその画面の横幅に依存できる。

 コロナ禍とモバイルノートPCの関係についても、そろそろ総括の時期にきているのではないか。果たして2023年は世界が元に戻るのだろうか。働き方、暮らし方も同時に元の木阿弥なのか。そんな中で、世界はノートPCに何を求めるのか。

 果たして600gを切るような軽量ノートに意味があるのかという議論もありそうだ。でも、個人的には絶対にありだと思う。パソコンを手にとって、あるいはカバンから取り出して使うためのハードルが段違いに低いからだ。これはとても重要なポイントだ。

 世界最軽量にこだわり続けるFCCLのチャレンジは素晴らしいし夢もある。ぜひ、この先も突き詰めていってほしい。フルスペックのノートPCが600g前後で使えるという体験は、扱いにしても持ち運びにしても、そして可能性にしても、まったく新たな領域の世界観を感じさせる。

 かつて、初代iPadを手にした2010年、これなら毎日の持ち歩きも気にならず、いつでもどこでも自在に使えるという新たな世界観をもった。当時のiPadはWi-Fiモデルが680gで10時間のバッテリ駆動ができた。

 あれから13年。LIFEBOOKは、当時のiPadとほぼ同じ重量で再スタートを切る。河野氏、松下氏、靑野氏の表情に険しさはなかった。たぶん彼らには600g切りがすでに眼中に見えているはずだ。

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