ランバングループ はフレッシュな才能、セレブリティの顔、そしてバッグで成長を促す【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

中央ヨーロッパ標準時で2月25日午後早く、ウォルフォード(Wolford)初のファッションウィーク・イベントへのカウントダウン中に、同社のシルヴィア・アッザーリ氏と竹腰名生(タケコシ ナオ)氏がミラノからGlossyとのZoomに参加した。同日夜には多才な活躍で知られるグレース・ジョーンズ氏を起用したウォルフォードの春のキャンペーンの紹介を兼ねたプレゼンテーションが行われ、国際的なプレスやファッションインフルエンサーが招待された。73年の歴史があるウォルフォードは、その3日前に竹腰氏を新しいアーティスティックディレクターに任命したと発表している。そして、さらにその3日前にはTikTokのアカウントを開始した。また2月10日には、ウォルフォードはニューヨーク・ファッションウィークに初めて登場、米国のデザイナー、ジョナサン・シンカイ(Jonathan Simkhai)のランウェイでコラボレーションをデビューさせている。

イッセイミヤケでキャリアをスタートし、ダナ・キャラン(Donna Karan)やジル・サンダー(Jil Sander)などのヘッドデザイナーを務めた竹腰氏は「自分たちのブランドを改めて紹介し、我々がこれまでやってきたこと、作りあげてきたすばらしいものに対する認識を高めたい」と語る。ウォルフォードとは昨年からコンサルタントとして仕事をしているという。

大規模な投資で長期的な成長を目指すランバン・グループ

オーストリアに本社を置くウォルフォードは、親会社で12月中旬に新規株式公開(IPO)したランバン・グループ(Lanvin Group)の最大の収益源となっている。同グループは上海を拠点とする復星国際(Fosun International)傘下で、フランスのファッションブランドのランバンのほか、米国のラグジュアリーブランドのセントジョン(St. John)、イタリアのセルジオ・ロッシ(Sergio Rossi)とカルーゾ(Caruso)なども所有しており、2月17日、2022年の総収益が前年比38%増の4億2500万ユーロ(約615.8億円)と発表した。

IPOの際、ランバン・グループ会長兼CEOのジョアン・チェン氏は、全体としてグループの次のステップは、急成長ではなく長期的な成長を優先させることだと強調した。小売り面積、デジタルにおけるプレゼンス、商品カテゴリーなどの拡大のほか、新たな人材によって新規性をもたらすことに注力するという。さらにグループのグローバルな事業展開を活用するだけでなく、各ブランドの独特なDNAも生かしていきたいと考えている。

だが、そのわずか2カ月後、グループのブランドが次々と高額な投資を行うことで、チェン氏の目標はすでに明白になっている。2月28日、セントジョンは、TVプロデューサーで脚本家のションダ・ライムズ氏を起用した2023年春のキャンペーンをローンチ、同ブランドのグローバルCEOであるアンディ・ルー氏は「ここ数年でもっとも大規模な投資」であると述べた。

ウォルフォードのチーフコマーシャルオフィサーであるアッザーリ氏は、「当社はいまでは上場企業であり、自分たちが何をしているかを株主に示す必要がある」と語った。2月18日、ランバン・グループが2022年の決算を発表した際、同社の株価は5.6%上昇した。

ルー氏は、IPOがセントジョンに「エネルギー」と「興奮」、そして「投資」をもたらしたと語った。同様にアッザーリ氏も、ウォルフォードが結果として得た新たな「知名度」と「サポート」についてふれている。

ブランド同士のコラボレーションを重視

ランバン・グループについては、多くのスターを起用した新たなキャンペーンや1月の役員交代など、最近では注目すべきニュースがある。セントジョンの以前のクリエイティブ・ディレクター、ゾーイ・ターナー氏は10月に退社したと報じられているが、同社のスポークスマンによると、現在のデザイン担当エグゼクティブバイスプレジデント、エンリコ・キアルパリン氏は「1年ちょっと前に」採用されたという。キアルパリン氏は、モンクレール(Moncler)やカルバン・クライン(Calvin Klein)、ジェームス・パース(James Perse)などでデザインを担当してきた経歴の持ち主で、セントジョンでは12月にスタイリストのカーラ・ウェルチ氏とのコラボレーションで初のコレクションを発表している。スポークスマンはランバンのクリエイティブ・ディレクター、ブルーノ・シアレッリ氏が現在も同社に在籍していることを認めたが、新たなブランドアイデンティティを導入したグローバルな「キャラクター・スタディーズ」キャンペーンの最近のプロジェクトは、代理店のM/M(パリ)がクリエイティブディレクションを担当している。

ランバン・グループのブランドは、グループ間の製品提携を含め、コラボレーションにかなり重点を置くようになっている。セルジオ・ロッシはNYのファッションブランド、エリア(Area)と2023年春のフットウェアコレクションでコラボレーションを行った後、靴下、靴、キャットスーツなど7つのアイテムのコレクションでウォルフォードとチームを組んだ。アッザーリ氏によると、これらのスタイルは11月の発売後、数週間で完売している。2022年には、ウォルフォードはミュグレー(Mugler)、GCDS、アルベルタ・フェレッティ(Alberta Ferretti)ともコラボレーションしている。

アッザーリ氏と竹腰氏は、ランバン・グループの「ビッグ」ブランドとウォルフォードとのコラボレーションが次のファッションマンスである9月にドロップされると示唆した。

それに関連して言えば、ランバンはウォルフォードに追いつきつつある。このフランスのブランドの2022年の収益の伸びは、主に卸売りの収益に牽引されて他のブランドを上回って前年比67%増となり、1億2130万ユーロ(約175.8億円)で年度を終えた。ウォルフォードの売上高は16%増の1億2660万ユーロ(約183.6億円)だった。

「私たちはブランドがリソースや専門知識を共有することを奨励している」と、チェン氏は2月25日にGlossyとのeメールでのやりとりで述べている。

実際にそうなっているとアッザーリ氏は言う。「私たちはしょっちゅう意見を共有し、アイデアを交換している。さまざまな文化や異なる経験を持つ多くの人がいるので、つねにインスピレーションがある」と同氏は述べ、3月頭にはグローバルグループのパートナーとのミーティングのために上海に出張する予定であることを明らかにした。

ブランドに忠実でありながら進化する

ランバン側は、スニーカーやハンドバッグなどのアクセサリーを大幅に強化して若い顧客を獲得しようとしている。2月24日には、ランバンの「アイコン」として位置付けているレザーアクセサリー、コンチェルト(Concerto)の春コレクションにハンドバッグを取り入れた。ブランドのヘリテージに忠実であることを示すこのラインの名称は、創業者ジャンヌ・ランバン氏が好きだった音楽を意味しており、彼女が1930年代に着ていたドレスにインスパイアされた金具を特徴とする。

また自社の歴史への目配せという点では、ランバンは2月末に、フランスの伝説的なスパで豊かな歴史のあるカリタ・パリ(Carita Paris)とともにポップアップのインスタレーションをオープンした。そこではランバンのシグネチャーであるシルクのシャルムーズドレスをモダンにアレンジしたものが数多く展示されている。

3月5日にランバンはパリ・ファッションウィークのランウェイショーを開催した。11月にはTikTokのアカウントをローンチした。

ブランドに忠実でありながら進化していくことは、この記事に登場したすべてのブランドエグゼクティブにとって最重要課題だった。アッザーリ氏は、ウォルフォードが昨年は「混乱」していたと話す。だが、ブランドのアーカイブを出発点として活用することで、竹腰氏は「今後数十年間はアイデアが尽きることはないだろう」と言う。そしてルー氏は、セントジョンの以前のクリエイティブ・ディレクターが、ブランドのルーツから離れすぎていたと暗に指摘した。

アッザーリ氏によると、ウォルフォードの靴下やメリヤス製品はいまはビジネスの35%を占めているが、以前は50%以上だった。現在はボディウェアとレギンスが40%を占め、ランジェリーとビーチウェアが残りを占めている。また、セントジョンの「ブランドを単なるスーツブランドから切り離す」ことを目的としたベーシックな「ファウンデーション(Foundation)」というカテゴリーは、現在は事業の15%を占めているとルー氏は述べた。両ブランドのエグゼクティブはともに、製品の着心地のよさに注力するようになった点を強調している。

若い世代獲得と同時にブランドの価値を考える

ランバン・グループの全ブランドの目標は、若い世代のラグジュアリーの顧客を引きつけることだとチェン氏は言った。そしてそれを達成する上でのカギとなるのは、グループの「デジタルおよびオムニチャネル」のすぐれた能力を向上させることだ。同氏は2022年後半にグループが北米でShopify(ショッピファイ)の共有プラットフォームを設立し、それが「今後数年で、ブランドにさらなる成長をもたらす」と期待しているという。

アッザーリ氏によると、現在、ウォルフォードの収益の25%はオンラインで確保されている。また彼女もルー氏も、店舗レベルのラグジュアリーなカスタマーサービスをデジタルショッピング体験に取り入れるという目的を強調していた。

ジョーンズ氏を起用したウォルフォードの春のキャンペーンは、店舗のウィンドウやミラノ中心地のビルボードだけでなく、ブランドのデジタルチャネル全体にも掲載される。一方でセントジョンのライムズ氏とのキャンペーンは、家庭用コネクテッドTV、Google、YouTube、さらにブランドのソーシャルチャネルと店舗で宣伝される。セントジョンは3月下旬にライムズ氏とのイベントを開催する予定だ。

「自分たちがよく知るスペースを最大限に活用する一方で、キャンペーンがションダ(ライムズ氏)のオーディエンスから共感を得られると思われる他(のプラットフォーム)をテストしたい」とルー氏は述べた。

最後に、ランバン・グループのエグゼクティブは「現代的な」な動きとあわせて、ブランドの価値についても考えている。

ルー氏はセントジョンのキャンペーンを「価値観のキャンペーン」と呼び、「動画ではションダが女性の起業家、経営者、成功者であることのプレッシャーにどのように対処しているかを語っている」と述べた。過去には、アンジェリーナ・ジョリー氏やケイト・ウィンスレット氏が同ブランドの顔となっている。

ウォルフォードについては、アッザーリ氏は次のように語る。「誰もがサステナビリティについて話しているが、(ファッションにおいて)時代を感じさせないデザインと組み合わされた非常に質の高いアイテムよりもサステナブルなものなどあるだろうか」。

[原文:Milan Fashion Week Briefing: Milan brands target sustainability and international appeal]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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