米連邦最高裁判所では現在、ビッグテックが有害コンテンツに関する法的責任を負うべきか審議が進められているが、2月第四週に行われた2件の口頭弁論は、ブランドセーフティ、イノベーションのペース、それぞれの訴訟がデジタル広告の将来にどのような影響を与えるかについても、新たな光を投げかけた。
この週、米最高裁ではGoogleとTwitterに対する訴訟でそれぞれ口頭弁論が開かれ、テロ犠牲者の死につながったと遺族が訴えるテロ関連コンテンツに関する責任をソーシャルネットワークが負うべきか、双方の意見が示された。
鍵を握る米通信品位法230条
2件の訴訟は有害なコンテンツに関するテック企業の法的責任を問うもので、どちらも1996年に制定された、オンラインプラットフォームとそのプラットフォーム上の第三者のコンテンツを保護する米通信品位法230条が鍵を握る。それぞれの訴訟が対象とする範囲はかなり狭いが、専門家たちはその影響力は大きいとし、言論の自由、コンテンツモデレーション、広告枠販売の将来に幅広く余波が及ぶ可能性があると話す。
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憲法教育に関する超党派の非営利団体、国立憲法センター(National Constitution Center)のCEOを務めるジェフリー・ローゼン氏は「広告の掲載やアルゴリズムによるレコメンド、また広告以外のコンテンツのレコメンドを大きく変える可能性がある」と述べる。
Twitter、レディット(Reddit)、クレイグズリスト(Craigslist)、イェルプ(Yelp)、メタ(Meta)、マイクロソフト(Microsoft)、マッチ・グループ(The Match Group)をはじめとする数多くのテック企業や各種業界・権利擁護団体が、最高裁に法廷助言書を提出している。その内容は、ソーシャルプラットフォームにおけるコンテンツモデレーションの方法、広告の役割、ユーザーや企業に対して考えられる影響などさまざまだ。そのほかにも、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau)などの業界団体が、230条の保護を弱めることは中小企業に打撃を与え、これらの企業を相手に新たな訴訟の波が起こりかねないという意見を示している。
広告代理店DMAユナイテッド(DMA United)のCEO、マーク・ベックマン氏は「Googleに対する訴訟は、230条を巡る司法と立法に関していえば氷山の一角に過ぎない」といい、「いま、歯止めが外されようとしている」と話す。
「表に見えない悪質さがある」
テック企業の意見書のなかには、有害なコンテンツを抑えるための取り組みを紹介するものもある。たとえば、メタはテロリスト関連のアカウントや投稿をFacebookとインスタグラムから排除するための現在の取り組みを示した。メタはこれらを、ユーザーと広告主を失わないために重要なポリシーや対策としている。
これに対し、GoogleやYouTubeなどのプラットフォームを従来のパブリッシャーと同様に保護するべきではないという反対意見もある。コモン・センス・メディア(Common Sense Media)とFacebookの内部告発者フランシス・ホーゲン氏は、Googleの機能が「特に表に見えない悪質さがある」として、危険な集団がアカウントやコンテンツを通して人々と交流することが、ほかに比べて簡単にできる可能性があると主張する。
「Googleは相手がISISだと知りながらアルゴリズムやその他のGoogle固有のコンピューターアーキテクチャ、サーバー、ストレージ、通信機器を提供し、ISISがそれらなしには効率的にリーチできないオーディエンスにリーチして関わることを助けている」とコモン・センス・メディアとホーゲン氏は意見書で述べている。「広告主はGoogleに金銭を支払って動画にターゲティング広告を付ける。GoogleはISISの動画に広告を付けることで、その動画を『収益化』対象として認めたことになる」。
米DIGIDAYはこうした主張に対するGoogleのコメントを求めたが、Googleはそれに応じなかった。
できることとできないことが曖昧に
Googleの元顧問弁護士で現在はカリフォルニア大学バークレー校の法律学教授であるエリック・ストールマン氏は、この2件を合わせて扱うことにも問題があるという。ストールマン氏が最も懸念していることのひとつは、Googleに対する訴訟で「あいまいな判決」が下され、230条が徐々に損なわれると同時にプラットフォームができることとできないことが不明確になることだ。
「ある種の有害なコンテンツを、レコメンドのアルゴリズムがどれほどプラットフォームから締め出したり、プラットフォーム上で拡散できなくしたりしているかが過小評価されている」とストールマン氏は話す。
最高裁の判決はAI、特にジェネレーティブAIに関する法律にも影響する可能性がある。2月21日、ニール・ゴーサッチ判事はコンテンツに関しては検索エンジンに対する保護が考えられるかもしれないと指摘した。だが、その先はまだ不透明だ。
ゴーサッチ判事はGoogle訴訟の口頭弁論の際に次のように述べている。「今日、AIは詩も論説も生成できる。それはコンテンツの選別、選定、分析、要約という範疇を超えたコンテンツだ。それは保護されない」。
全体的にどのような影響が出るのかは、最高裁が判決を下すまでわからないだろう。判決は7月までに出ると見られている。だがその一方で、広告業界に対する影響はそれほど大きくないのではないかという観測筋もある。長年広告アナリストとして活動してきたブライアン・ウィーザー氏は、判決によって金銭の流れる先がわずかに変わるだけではないかと考えている。ただし、ブランドセーフティ対策を向上させたプラットフォームがより魅力的に見えることにつながるかもしれないそうだ。
「YouTubeのインベントリーを4分の1ほどそぎ落としても、インベントリーの裏にある計算は変わらないと思う」と、現在は自身のコンサルティング企業、マディソン・アンド・ウォール(Madison & Wall)を経営するウィーザー氏は語った。
規則で縛るより具体的な問題に対処すべきか
最高裁がどのような判決を出すのかはまだ見えてこないが、一部の法律専門家は、民主党・共和党のどちらの陣営の判事も、自分たちの判決の重みは認識しているようだと指摘する。
判決内容とは関係なく、透明性の向上が必要だとの指摘もある。また、すべてを規則で縛ろうとするより、具体的な問題に集中して取り組んだほうがよいのではないかという声もある。テック系シンクタンクのインテグリティ・インスティテュート(The Integrity Institute)の共同創設者でエグゼクティブディレクターを務めるサハール・マサーチ氏は、ソーシャルメディアの規制を自動車の衝突事故防止に例えた。Facebookのシビック・インテグリティ・チームで数年エンジニアを務めたことのあるマサーチ氏は、まずはどこに問題があるのかを理解したほうが合理的だと話す。
「自動車に対する規制をかけているつもりが、実際には道路や橋、交通網に規制をかけているようなものだ」とマサーチ氏は語った。「まずはデフのドライブシャフトの話をしよう。それが何なのかを理解し、そこから順に取り組みを進めていこう。自動車の問題が、実はフォードのピントというモデルの爆発事故なのであれば、交通網全体に対する取り組みに着手する前に、まずは安全設計について話し合うべきだ。取り組みは順に進めていかなければならない」。
[原文:How Supreme Court cases related to Google, Twitter could shape the future of content and advertising]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)