心身の癒しへの需要が増加? ウェルネス イベントに変動:クリスタルやチャクラと陰謀説が混在

DIGIDAY

ロサンゼルスで2月第2週の週末、コンシャスライフエキスポ(Conscious Life Expo)が開催された。参加者は、オーラ撮影、占星術、タロットカードのリーディング、チャクラ調整、シャーマン、クリスタル、植物ベースのスキンケア、ビーガンスムージー、ガイドつき瞑想などを体験できた。このエキスポがインスタグラム映えするグープ(Goop)サミットやヨガブランドのインフルエンサーイベントようなものだと考えているなら、それは間違いである。

2月10日〜12日の会場となったヒルトン・ロサンゼルス・エアポートでのエキスポでは、流れるようなローブやタイダイ、花冠をまとった「リベラルな」格好の参加者と、「ファウチ医師を逮捕せよ」と書かれたシャツを着て、MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)スタイルのワクチン反対メッセージの帽子をかぶった参加者とが入り混じっていた。入場者は自分のコレクション用にジャスミンの香りのフェイスオイルや新しいアメジストを購入すると同時に、処方箋のいらないイベルメクチン、スマホ用ステッカー、5Gから「身を守る」と宣伝された宝石を入手することもできた。このエキスポに極右と陰謀論者の要素が存在していることは、パンデミックによる社会の大変動以来、ウェルネスの世界で台頭しつつある詐欺と急進主義の共生を示している。

グープのウェルネスサミットよりも15年早くから開催されているこのエキスポには、主催者によると今年は推定1.2万人が来場したという。長年、このエキスポには市場性のある主流のものから風変わりなものまでウェルネスとスピリチュアル関連のありとあらゆるイベントが満載で、その喧騒ぶりは毎年恒例である。メインフロアにあるブースのひとつでは、ライトが点滅する歯医者にあるような椅子に座ると幻覚剤と同じ効果を得られると宣伝されていた。金属製のピラミッド構造の下に座ると、担当者いわく「周波数入力デバイス」が「高調波電磁周波数」を発するというものもあった。エイリアンのポスターが貼られたあるブースでは、「スターカウンシル」と書かれた帽子をかぶった担当者が棺のような箱を前にして、それは「波」を使った「癒しの部屋」であると謳っていた。

陰謀論に傾倒していた「ラビットホール」シリーズ

ウェルネスの商品やサービスのほかに、今年のプログラムには主催者が「ラビットホール(Rabbit Hole)」と名付けた一連の講演が週末に行われたが、それは陰謀論に大きく傾倒していた。そのクライマックスは、新型コロナウイルス感染症についての偽情報のためにソーシャルプラットフォームから禁止された『プランデミック(Plandemic)』(訳注:計画されたパンデミックの意)映画の第3部のプレミア上映だった。

また、デイヴィッド・「アボカド」・ウルフと名乗るバイオダイナミック農家は、自分の「ラビットホール」講義で健康と政治に関する幅広いトピックについての陰謀的な論を展開した。とりとめのない1時間半の講演からほんの一握りのポイントを挙げると、ウルフ氏は『プランデミック』についてわめきちらし、自分は7歳から反ワクチン派であると胸を張って主張し、ファウチ医師士をCCPのエージェントと呼んだ(証拠なし)。また、「彼ら」(誰だかは定義されなかった)が「注射」を通じて「人類を一掃」しようとしていると述べた(これも証拠なし)。同氏の「注射を打たれた」人への推奨事項には「ナノボットの5G通信を妨害する」と主張するヨウ素の摂取や、イベルメクチン、ケルセチン、ヒドロキシクロロキンを順番に繰り返して摂取すること、コーヒーと紅茶に自分の尿を混ぜてそれで浣腸することなどが含まれていた。これらの推奨事項は科学的な証拠なしに提示されていたが、それは彼が科学界は「宗教」のように振る舞っていると批判しているからだった。同氏はまた、この講義を利用して活性炭やカカオ配合の自分の製品ラインを売り込んだ。

ウルフ氏やほかの講演者の多くは政党による政治的分裂に反対すると公言してはいるものの、ウルフ氏はトランプ流の極右の論点を受け入れている。たとえば、彼は「悪の勢力はずっと我々の投票システムを打倒しようとしてきた」という根拠のない信念を共有し、その例として「ドミニオン社(Dominion)の投票機」を挙げた(ドミニオン社は現在、自社の投票機に関する虚偽の主張に関する名誉毀損でFOXニュースを訴えている)。ウルフ氏はまた、「メディアが」固執している「ウクライナのナラティブ」を批判した。

このような考えのなかには暴力に結びつき、命の損失につながったものもある。たとえば、右翼の「不正投票」陰謀論は、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を引き起こし、5人が死亡した。(前米国下院議長だった)ナンシー・ペロシ氏の夫を攻撃した男は「不正選挙」に関する陰謀論を信じていたし、ニューメキシコ州議会選挙で敗北したが、その選挙は「不正に操作された」と語った共和党の1候補者は、4人の男に金を払って複数の民主党議員の家に銃弾を撃ち込んだ。その際10歳の少女の部屋に銃弾が撃ち込まれている。また、5Gと投票機に関する陰謀論は2020年のナッシュビル車両爆発事件の動機になったといわれている。

エキスポの共同主催者のひとりであるマイケル・サトヴァ氏はこれに異議を唱え、イベントのプログラムと極右とのあいだには「明らかにはっきりした違いがある」と主張した。「なぜなら、危険な陰謀説は、非常に反ユダヤ主義的であり、世界的エリートのユダヤ人たちと結びついているキリスト教の観点から来ているからだ」。

ウルフ氏は講演のなかで、オーストリアの神秘思想家、ルドルフ・シュタイナー氏を頻繁に引用した。学術研究によると、シュタイナーの著作は「支配的」な「アーリア人種」という思想で反ユダヤ主義をはっきり受け入れており、これは後にナチスに取り入れられたものである

「ラビットホール」ルームのほかの講演者には、オリバー・ストーン監督の息子であるショーン・ストーン氏がいた。同氏は、Qアノン(QAnon)の陰謀論者が使ったフレーズである「大覚醒」というタイトルの講演を行った。この会場にはプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)の後継者であるフォスター・ギャンブル氏も登壇した。彼のウェブサイトでは極右の白人至上主義者ステファン・モリニュー氏の引用が目立っている。

販売されていた商品群

ウェルネスと美容にフォーカスしているブランドについては、天然成分を謳うものからニューエイジ的な製品の販売まで小規模な事業者である傾向が見られた。シャンピオン(Champione)というスキンケアブランドの創業者であるヴァイオレット・ミレヴァ氏は、満月のあいだだけ製品を製造していると述べ、「製品に最大のパワーが取り込まれるように満月のときに調合している。水のもっとも強い引力は磁気的に最強だ」と説明する。また、EMF(超電圧)から保護するために製品はディスクの上でチャージされていると語っている。

メインストリーム寄りの美容ラベルによるブースも数カ所あった。ターゲット(Target)、ブルーマーキュリー(Bluemercury)、リボルブ(Revlove)などの小売業者で販売されている日焼け止めブランド、ウンサンコスメティックス(Unsun Cosmetics)もブースを出展していた。コメントを求めたが、同社の創業者からは対応がなかった。また、ヴォーグ誌やヴァニティ・フェア誌でLEDデバイスが取り上げられたことのあるエレヴァレスキン(Elevare Skin)や、トリュフを原料にしたビバリーヒルズの高級スキンケアブランド、トリュフォワーレ(Truffoire)も出展していた。

ブースやイベントの料金

物理的な製品を販売するブースのほかにも、どの出展者も15〜500ドル(約2000円〜6.7万円)で、マッサージやチャクラヒーリング、チャネリングコンサルテーション、タロットや占星術のリーディングなどのサービスを提供してビジネスを行っていた。ほとんどの講演にはセールストークが組み込まれており、講演者の多くが自分の健康補助食品やハーブ製品について語っていた。ヘナアーティストのレヌ・ラル氏によると、ブースのレンタル費は年々上がっており、今年は1200〜2500ドル(約16.1万〜33.5万円)だったという。ラル氏は18年間毎年参加しているが、今年は「宗教団体」の参加が多いことに気づいたという。

サトゥバ氏によると、今年のエキスポのビジネスは全体的に活況だったという。このエキスポは多くのフォロワーを抱える講演者らによってウエストハリウッドのビルボードやソーシャルメディア上で宣伝された。サトゥバ氏は、「ニューエイジ(New Age)」ギフトショップチェーンを経営した後、2002年にエキスポを設立した父親のロバート・クイックシルバー氏と共にエキスポの運営に携わっている。週末の3日間のパスは99ドル(約1.3万円)と、1000ドル(約13万円)を超えるグープサミットよりもずっと廉価だ。しかし、ラビットホールルームの全イベントを含む特別講演のチケットは1枚10〜85ドル(約1300円〜1.1万円)。また、350ドル(約4.7万円)の交霊会や20ドル(約2700円)の「テスラバイオチャージングルーム(Tesla Biocharging Room)」での施術などほかにもチケットが必要なさまざまな体験が提供された。

変わり者から投資家などさまざまな参加者たち

家庭用キノコ栽培機器ブランド、マッシューン(Mushine)の共同設立者、マイク・ブラックナー氏によると、エキスポにいたのは単なる変わり者だけではなかったという。

「風変わりな人から投資家までさまざま(な人々がここに)いるようだ。投資家がごろごろいたのに気づいた」とブラックナー氏。しかし、エキスポ全体については「一般的に言えばカルトっぽい」と述べ、「ここの講演者らは議論の余地のある科学の領域にいる」と語った。また、「自分はクリスタルヒーリングやエネルギーヒーリングなどには関心がない」そうだ。講演の政治的側面について彼の考えを尋ねたとき、ブラックナー氏は講演者と同感だった。「人々を真ん中で二分するものがある」かどうかには懐疑的だが、「彼らは不正選挙があったことを証明した」と述べた。

特に良いタイミングで取り上げられた話題にはUFOがあり、これはエキスポで多くの講演やパネルのテーマでもあった。この週末に米軍が3件のUFOを撃墜したという不安を煽るような報告があり、ホワイトハウスは「エイリアンの兆候はない」と述べたが、講演者の中にはエイリアンと何年も接触していると主張する人々が多くいた。参加者は追加で125ドル(約1.7万円)を支払えば、エキスポの特別な「ディスクロージャーランチ」イベントでUFOとエイリアン関連のプレゼンターと直接話をすることができた。

スターシード説を信じるインフルエンサー

参加者の多くはX世代と団塊世代のようだったが、若い観客を呼び込んだインフルエンサーらもいた。

週末にもっとも人気を集めた講演のひとつには、フォトジェニックでカリスマ的なインフルエンサー、エリザベス・エイプリル氏の講演があった。インスタルグラムで13.3万人のフォロワーを持つ同氏は、人間はさまざまな「種」のエイリアンのハイブリッドであるという「スターシード」説を固く信じている。この説は、首都の襲撃で見出しを飾った「Qアノンシャーマン」などの極右の人物らから信じられている。エイプリル氏の1時間半の講演会場は満員で、ほとんどがミレニアル世代とZ世代だった。参加者はワークシートに熱心に記入して、自分がどのような種類のエイリアンの子孫であるかを調べた。

サトゥバ氏は、スターシード関連の講演者たちは今年のエキスポの大きな目標であったミレニアル世代の取り込みに役立ったと述べている。彼は、周知のとおりミレニアル世代には神秘的な美学に夢中になっているのでこのようなコンテンツに惹かれるのだと説明する。

「ミレニアル世代にとって、(神秘的な美学への傾倒は)カルチャー的であり、イメージ的な感じになっている。あの世代は一定の方法でドレスアップしたりクリスタルを身に着けたり、タロットカードを持っていたりする。それが雰囲気の一部であり、彼らの個性の一部になっている」とサトゥバ氏。

スターシードの聴衆から共感されたもっとも人気のあるエイリアンは「プレアデス人」だった。エイプリル氏によると、金髪で青い目をした背の高い種だという。ベラ・ハディッド氏は2022年2月にインスタグラムで「プレアデス人」が書いたという詩をシェアしている

もっとも人気のないエイリアンは「レプティリアン」だった。これは、ヒラリー・クリントン氏をはじめとする多くの公人に対してQアノンや極右陰謀論者が持っている「トカゲ人」の考えに関連している。エイプリル氏は自分のインスタグラムで、エリザベス女王のようなエリートが「血とセックス」の儀式を行っていることについての投稿をしている。これはQアノン支持者のあいだで信じられていることのひとつで、反ユダヤ主義の考えに関連している。

このような代替的な信念体系はそれを信じている人の私生活に破綻を引き起こしているようだ。エイプリル氏は、講演で聴衆に「エネルギーの吸血鬼」について警告し、「自分からエネルギーを吸い取る人がいるなら、まずそのような人々を切り捨てるべきだ」と述べた。すると、エイリアン説を共有しない友人や家族を切り捨てるべきかについて聴衆から複数の質問が寄せられた。

「答えを求めて」エキスポに参加する人たち

エキスポに参加したネイサン氏という人は、「瞑想状態でコンタクト体験」をしたことがあると述べ、そのような考えにのめり込んだことで「自分に大きな変化が起き、結婚生活と人生を失うことになった」と語った。また、元妻からネイサン氏の友人のひとりと一緒に住むことになったと言われたばかりだったともいう。ネイサン氏は、この種のエキスポの参加者は「答えを見つけたい」から参加するのであり、「彼らは教会などの異なる情報源に行くかもしれないが、宗教からは何の答えも得られない」と述べた。

専門家から「壊れている」、「孤独の蔓延」、メンタルヘルスの危機と表現されている多くの課題を抱えた(米国の)ヘルスケアシステムにより、代替ヒーリングとウェルネスのイベントは米国内であらゆる年齢層を惹きつけるようになっている。参加者らは、メンタルと身体的なヒーリング、またはもっと実存的な問いへの答えを求めて、(抜け出せない迷路のような)ラビットホールに導かれていくのではなく、金を払うことによって求めている答えが得られるのを望んでいるようだ。

[原文:The Conscious Life Expo: Where crystals and chakras are a gateway to far-right conspiracies

LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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