インフレ、金利の上昇、長引くサプライチェーン問題で景気が後退すると思われた暗い第4四半期に、エージェンシー持株会社の2022年の業績は、大方の予想を上回るものとなった。
すでに2022年の決算を発表している持株会社には、2月14日に業績を出したピュブリシス(Publicis)、IPG、オムニコム(Omnicom)、電通などがある。売上高は少なくとも横ばい(オムニコム)から20%増(ピュブリシス)、オーガニックグロースは4~10%増と、各社とも好調だった。メディアバイイングやプランニングのような従来のサービスがますます重要性を失っていくなかで、成長のかなりの部分を占めるのが、コンサルティングサービスやテクノロジーサポートの拡大である。
最近までグループエム(GroupM)のビジネス・インテリジェンス担当グローバルプレジデントを務めていた独立系アナリストのブライアン・ウィーザー氏は、「一般的に、エージェンシーは大手ブランドがパンデミックのあいだ、さまざまな形のマーケティング投資を続けたことによりかなり健全で、2022年もそれに変わりはなかった」と述べる。「インフレは一般的に広告を増やすものであり、広告から奪うものではない。実際の景気後退局面に入らない限りはそうであり、我々は実際にそれを経験していない」。同氏は一貫して、景気後退の心配は、人々が時代遅れのモデルに基づいて仮定しているため、ほとんど根拠がないと述べている。
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各持株会社の決算を、最新のものから順に見ていこう(記事執筆時には、WPP、ハバス・グループ[Havas Group]、スタグウェル[Stagwell]、S4キャピタル[S4 Capital]の2022年決算は発表されていない)。
電通
日本の持株会社が円建てで決算を発表した。2022年通期のオーガニックグロースは4.1%(地域別では米州が6.1%、ロシアを除く欧州・中東・アフリカ[EMEA]が9.7%)、調整後営業利益は13.5%増、オペレーティングマージンは18.4%増と、シンプルな体制が奏功している。売上総利益は14.4%増の1兆1170億円だった。
IPG
オーガニックグロースは7%に達し、純収益は95億ドル(約1兆2800億円、2021年比で3.7%増)、純利益は9億3800万ドル(約1260億円)だった。利益率は16.6%。IPGは、2023年がどのようなものになるかについて、いくつかの指針を示したが、それは実のところ保守的で、オーガニックの純売上高の伸びはわずか2~4%になると予測している。
最高経営責任者(CEO)であるフィリップ・クラコフスキー氏は、2022年の業績を発表するコメントのなかでこの点に触れている。「マクロ経済情勢は依然として不透明だ。マーケターは投資を続け、市場に身を置く必要性を確信するとともに、ある程度の警戒心を持って2023年に臨んでいる」。
オムニコム
142億9000万ドル(約1兆9250億円)の収益で9.4%の健全なオーガニックグロースを遂げたが、その収益額は2021年から横ばいだった。純利益は2021年から1億ドル(約134億8750億円)減少して13億ドル(約1750億円)となり、利益率(Operating Profit Margin)も15.4%から14.6%に低下している。CEOのジョン・レン氏は、2023年を見据えた実際の数字を提示しなかったが、同氏のコメントは先行きの不透明さを暗示している。
レン氏は次のように書いている。「我々は、昨年の重要な新規ビジネスの獲得に加え、創造性、デジタル技術、データを結集し、顧客のビジネス変革ニーズに対応したマーケティングソリューションを創出し、非常に強い態勢で2023年を迎えている。同時に、マクロ経済の見通しを注意深く追跡し、適切に対応するための準備を十分に整えている」。
ピュブリシス
2022年の決算はアナリストを驚かせた。持株会社の純収益が20%増の125億7200万ユーロ(約1兆7940億円)、オーガニックグロースが10.1%増だった。利益率(Operating margin rate)は18%。
ピュブリシス会長のアーサー・サドゥン氏は、コメントのなかで、オーガニックグロースの主な推進役として、イプシロン(Epsilon)とサピエント(Sapient)を挙げた。また、2023年の指針として、オーガニックグロース率は3~5%、利益率は17~18%程度に留まる地味な見通しを示した。
持株会社のIRマシーンに一石を投じる必要がある
アナリストのなかには、オーガニックグロースをそれほど重要視しない人もいる。たとえば、独立系アナリストのトム・トリスカリ氏は、オーガニックグロースはできるだけよく見えるように操作できる数字だと述べる。エージェンシーは、この数字を使って成長の全体的な平均値を測ろうとするが、一部の顧客からのビジネスの縮小を容易に隠すことができる一方で、支出を大幅に増やしたほかの顧客の成長に安住してしまうことにつながる。
トリスカリ氏は、自身のニュースレター「クオ・バディス(Quo Vadis)」の12月号で、「オーガニックグロースの表示方法は、価値創造の可能性を高めることを示すよりも、高度にコモディティ化したサービス提供のなかで、エージェンシーがどれだけ生きながらえているかを測るために提示されることが多いようだ」と書いている。
また、同氏は持株会社が予想以上に健全な成長を遂げているという点でウィーザー氏に同意し、その要因として、ITとコンサルティングサービスに重点を置いた新しいアプローチを挙げている。「メディアエージェンシーは、1ドル(のメディア費用)に対して、3ドルのサービスを売りたがるものだ」とトリスカリ氏はいい、「彼らはコストをうまく管理し、安定したマージンを出し、配当も出している」と補足した。
Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)