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昨年6月、アパレルブランドのイビー(Eby)は新しいチャネルをテストすることにした。Amazonである。同社は2018年に創設された女性用下着企業で、前年に600万ドル(約7億8000万円)のシリーズAを調達し、大幅にビジネスを拡大しようとしていた。
「ブランドとして、顧客がいる場所で顧客と接するようにしたい」と、共同創設者のレナータ・ブラック氏は語る。この論理はブランドが行うあらゆる販売やマーケティングの決定について、企業家の主張の裏付けになってきたが、Amazonでは特に真実味がある。2019年の時点で、米国の人口の60%近くがプライム(Prime)アカウントを保有している。
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Amazonでアパレルの返品率が高い理由
Amazonは現在、イビーの中でもっとも急速に成長しているチャネルのひとつで、最初の6カ月で50万ドル(約6500万円)の売上を生み出した。しかし、ブラック氏にとって経済状況は厳しいものとなった。同氏は次のように述べている。「Amazonの問題は、Amazonだと利益が上がらないことだ。たとえば、100万ドル(約1億3000万円)を売り上げても、おそらく利益は10万ドル(約1300万円)にしかならないだろう」。
利益率がこのように悪い大きな理由のひとつは返品だ。イビーのD2Cサイトにおける平均返品率は2%だ。ホリデーにはこれが3%に上昇する。しかし、Amazonでの返品率は15%から18%にものぼる。
これらの比率は例外的なものではない。いくつものブランドや代理店が、Amazonでのアパレル商品の返品率は、ほかのカテゴリーと比べてもっとも高いと述べている。これはおそらく、Amazonで返品が簡単に行えることと、ほとんどのAmazonの買い物客が商品を購入するときのマインドセットによるものだろう。すなわち、買い物客は2サイズ分の商品を簡単に購入し、サイズが合うかどうか確認した後、合わないほうを返品するという行為を簡単に行える。このことと、手数料の高さが相まって、アパレルブランドがAmazonで事業を行うことはますます困難となっている。
手数料が収益を圧迫
フルフィルメントby Amazonを使用するアパレルブランドは、ほかのカテゴリーと比べて大きなフルフィルメント手数料を払っている。たとえば、アパレル以外の商品では、重量が12オンス(約340グラム)から16オンス(約454グラム)なら、フルフィルメント手数料は品目ごとに3.98ドル(約517円)だが、アパレルでは4.36ドル(約567円)だ。代理店のエンビジョンホライズンズ(Envision Horizons)の創業者でCEOを務めるローラ・マイヤー氏によると、アパレルブランドの紹介手数料は販売した各品目の17%で、ほかのカテゴリーでは通常15%だ。そして、Amazonがフルフィルメント不能、すなわち返品された商品を再販売できないと判断した場合、ブランドはさらに処理手数料を請求されることが多い。マイヤー氏自身も、Amazonでアパレルを販売しているが、フルフィルメント不能の在庫について手数料を徴収され、その不良在庫は同氏の自宅に配送され、廃品となることが頻繁にあるという。
事態をさらに厄介なものにしているのは、年頭のAmazonの返品ポリシーが、通常と異なることだ。マイヤー氏によれば、Amazonは年末年始に通常の30日間という窓口期間を適用せず、10月11日から12月25日までに購入した商品であれば、1月末まで返品を認めている。このため、アパレルブランドは第1四半期に多くの返品を受け取り、ホリデーのあとでは特にビジネスが激しい影響を受ける。アドビ(Adobe)によると、昨年のホリデーの返品は前年比で63%も増増加したというから、今年は特に大きな問題だ。。
アパレルブランドが第4四半期に抱える苦悩はそればかりではない。Amazonはホリデーを通して、商品の割引を行って売上を促進するようブランドに催促する。しかし、これによって返品率も必然的に高まる。「セールを行い、広告への支払いを行い、さらに高くなった手数料を支払い、ようやく販売した商品が返品されれば、損失しか残らない」と、マイヤー氏は語る。アパレルブランドはほかのカテゴリーよりも返品が多い。マイヤー氏のクライアントから得られたデータでは、家具の平均返品率は6%、美容品やパーソナルケア用品では1.85%前後なのに対して、アパレルやソフトラインでは平均16.5%にのぼる。
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すべてのアパレルブランドが、返品について同じ問題を抱えているわけではない。ベーシックアパレルブランドのオーガニックシグネチャーズ(Organic Signatures)の創業者であるオーレン・バーノイ氏は、商品のほとんどをAmazonで販売している。同社の返却率は8%から10%のあいだだが、同社の商品は早いスピードで売れるため、Amazonは返品を新品として再販売できる可能性が高い。「大部分はそのまま在庫に戻る」と、同氏は述べている。
しかし、同氏は、Amazonが返却された品物を十分に検査しているわけではないことに気づいた。そのため、その商品が以前に着られた、または異臭がすることに気づいた顧客から悪いレビューが投稿されている(更新情報:Amazonはこの記事の発行後に次の声明を米モダンリテールに送った:「Amazonに返却されたすべての商品は、当社のトレーニングを受けた作業員により、厳格なプロセスで慎重に検査される。その商品が、新品として再販売するための高い基準を満たしていれば、販売用に再度リストに載せられる。当社は顧客からのフィードバックを真剣に受け止め、検査プロセスの改善に常時取り組んでいる」)。
バーノイ氏は、Amazonの顧客は、ほかのチャネルの買い物客よりも返品が多いと語る。同社のShopify(ショッピファイ)サイトで商品を購入した顧客から、品物の返品方法の問い合わせはほとんど聞かれないと、同氏は述べる。マイヤー氏にとって、これはAmazonの販売チャネルの文化的な問題を示唆するものだ。「Amazonの顧客は注文と返品をはるかに軽く考えているようだ」と、同氏は述べている。
返品を減らすためにできること
そしてこれは、ブランドにとって事業に影響するだけでなく、さらに大きな意味がある。「大きな視点で考えれば、これらすべてがもたらす二酸化炭素排出量について、消費者への教育が必要だと感じる」と、マイヤー氏は述べている。最終的に商品が再販売されるとしても、フルフィルメントセンターから家庭へ配送し、またフルフィルメントセンターに戻して、再度配送する必要があるわけだ(幸運にも再返品されないとして)。
その結果、アパレルブランドは、この返品率の高さを考慮して、Amazonチャネルとどのように取り組むのがベストなのかということを再考しようとしている。マイヤー氏はAmazonをカタログの全商品を置くためのチャネルではなく、ブランドで最高の商品を紹介する場所として見ている。「もっとも売れている商品はAmazonに置くべきだ。多くのアパレル企業が犯している失敗は、Amazonを在庫処分用のチャネルと考えることだ」と、同氏は述べている。また同氏は、季節商品ではなく年間を通じて同じスタイルの商品をリストに記載することも推奨している。「Amazonのアルゴリズムは、新しいものではなく、以前からあるものを評価するのだ」と、同氏は述べる。
コンサルタンシー企業のブラックラベルアドバイザー(Black Label Advisor)の創業者であるジョン・エルダー氏も、商品についてのコミュニケーションを増やすことを勧めている。たとえばサイズの一覧表は「Amazonの出品者が適切な販売を行うために絶対不可欠だ」。アパレルは返品率がもっとも高いカテゴリーなのは変わらないが、商品がどのようにフィットするのかを明確に示さないブランドでは、さらに返品率が高くなると、同氏は述べる。「アパレルは冷酷だ」と、同氏は述べている。
Amazonの公約と合致する環境保護の観点
Amazonがいくつかの変更を加えることで、ブランド側の負担を軽減できると、同氏は見ている。「もしAmazonが、顧客が配送ラベルの手数料として7ドル(約910円)を支払う必要がある、といった制限を課せば、返品の多くは防げるだろう」と、同氏は語る。
また、マイヤー氏は、そのような変更が、同社にとってPR上の成功をもたらす可能性さえあると見ている。「Amazonには環境保護(green pledge)に関する公約を掲げており、これは、そのAmazonの公約にも一致する素晴らしいものだ」と、同氏は述べている。
それが行われるまで、衣料品はサードパーティーの出品者にとって困難な事業であり続けるだろう。イビーの創設者であるブラック氏によると、Amazonは「ひどい難題」を突きつけている。すなわち、同社は販売量の増加をけん引しているが、「それで実際にビジネスが推進されるわけではない」ということだ。そのため、同氏はSKUを厳選し、商品をバンドル化することで、AOV(平均注文金額)を増やす方法を模索している。
「これは新しいチャネルで、非常に良い成績をあげている。我々はそれを、さらに収益性の高いものにする方法を探す必要がある」と、同氏は述べている。
[原文:Amazon Briefing: Returns and fees are squeezing third-party apparel brands]
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via EBY