2023年の CES、エージェンシーが注目したトピックは?:メタバース、ポッドキャスト、サステナビリティの取り組みと可能性

DIGIDAY

1月8日に閉幕したCESで議論されたトピックは、サステナビリティ、新たなポッドキャストチャネル、そしてメタバースだった(CESの1日目のハイライトについてまとめた記事はこちら)。

テクノロジーとガジェットの祭典として知られるCESだが、今年は音声デバイス、動画デバイス、空間デバイス、そして没入型ギアへの注目が、例年と比べてやや高かったようだ。パンデミックが職場や社会活動に後戻りできない変化をもたらすなか、企業がコミュニケーションやバーチャル、動画への取り組みを優先し、そのためのツールの利用を増やすのも当然だろう。

話題の中心はメタバースとWeb3

予想されていたように、今年のCESでは、Web3やメタバースといったテクノロジーやその活用を最大の目玉とする製品やプログラムがいくつか見られた。米DIGIDAYが取材したエージェンシーやメディア幹部によれば、過去のCESと比べて、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)関連の製品が多かったという。

エージェンシーがメタバースとWeb3のユースケースについて検討を続けているのはこうした現状のためだと、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)傘下のインタラクティブエージェンシーであるレーザーフィッシュ(Razorfish)でCEOを務めるジョシュ・カンポ氏は話す。近年、エージェンシーはメタバースが何なのかを理解しようとしていたが、今のクライアントとエージェンシーは実験の前に、実用的な用途に目を向けていると、同氏は指摘した。経済の先行きが見通せない状況で企業が慎重になっていることを考えれば、もっともな話だ。

「今や話題は、(メタバースで)何かクールなことをしようという段階から先に進んでいる」と、カンポ氏はDIGIDAYに対して述べている。

ただし、メタバースが発展するまでにはまだ長い道のりがある。また、この種のデバイスやテクノロジーのなかには、価格の高さから消費者がすぐに飛びつこうとしないものもあると、同氏は指摘する。しかも、ヘッドセットやVRデバイスの多くは「まだまだ洗練されていない」と付け加えた。

画像提供:電通

とはいえ、ARやVRとはとくに関係のないメタバース戦略に取り組んでいる企業もある。メタバースではARやVRを使用するものだという誤解が広まっているが、仮想プラットフォームのなかには、インターネットにつながったブラウザさえあれば利用できるものもある。ヘッドセットは、没入感を得るためのオプションに過ぎない。

電通のメタバースステーション

その一例が、電通が生産性プラットフォームのヘッドオフィス・ドット・スペース(HeadOffice.Space)上に構築したメタバースキャンパス「電通NXTスペース(Dentsu NXT Space)」だ。CESで発表されたこのメタバースでは、新しい建物やエリアが次々と建設され、更新されている。これは電通がメタバースのテストの一環として行っている取り組みで、同社はこのメタバースを活用してクライアントのテストやリサーチを支援している。

画像提供:電通

電通でソリューションおよびイノベーション担当バイスプレジデントを務めるバル・バカンテ氏によれば、NXTスペースは今も拡大中で、同社は今年の「サウス・バイ・サウスウェスト(South by Southwest)」イベントに向けて新たなVR機能を開発しているという。

電通は昨年11月にも、ヘッドオフィス・スペースに「ムーン・バレー(Moon Valley)」という仮想世界を構築し、「マイクロソフト・リテール・エデュケーション・センター(Microsoft Retail Education Center)」と「リンクトイン・ラウンジ(LinkedIn Lounge)」を新たに新設している。マイクロソフトはNXTスペースのローンチパートナーで、このプラットフォーム内で使われているツールの多くは同社の製品だ。

このショールームは、クライアントが簡単にツールを利用できるように設計されている。たとえば、電通のメタバースショールームやリテールラボを訪れた消費者は、仮想アイテムをスキャンするだけで商品の詳細を確認し、その商品を現実世界に届けてもらえる。

「我々は(クライアントと)共にビジョンを検討し、優先順位を決定することにしている。彼らが求めている体験の種類に応じて、構築する体験を慎重に検討しているのだ」と、バカンテ氏は語った。

進化の可能性を秘めるポッドキャスト

CESで1月6日に開催された「Cスペース(C Space)」では、マーケターとエージェンシーがポッドキャストとオーディオの進化について取り上げ、これらのプラットフォームが広告とテクノロジーの未来にどう対応していくのかを議論した。電通で米国担当エグゼクティブバイスプレジデント兼メディアパートナーシップ責任者を務めるサラ・ストリンガー氏は、ラジオ放送を手がけるシリウスXM(SiriusXM)の幹部らと対談し、ポッドキャストがこの数年で数十億ドル規模の業界に成長する上で電通が果たした役割について話をした。

多くのエージェンシーと同じく、電通はさまざまな広告フォーマットやコンテンツクリエイターをテストし、クライアントがポッドキャストでまったく新しい活用方法や制作方法を見つけられるよう支援してきた。ストリンガー氏によれば、電通が5年かけて行ったアテンションエコノミーに関する調査で、音声は人々に想起を促す大きな要因のひとつであることがわかったという。つまり、曲やジングルなど音として認知されるものには、強い力があるというわけだ。

「ジングルなど音として認知されるものは、まさにその瞬間を人々の記憶に刻み込む。我々は、そのような形で関心が呼び戻されるのを目の当たりにしてきた」と、ストリンガー氏は話す。「私の考えでは、ポッドキャストがオーディオの世界にこのようなルネサンスをもたらしている背景には、人々が自分にとって関心の高いものに大きな情熱を感じているという事実がある。このおかげで、よりうまく取り組めるのだ」

ポッドキャストの未来については、スマートスピーカー、コネクテッドカー、空間オーディオの進化によって、さらに没入感の高いコンテンツや体験を提供できる可能性があると、同氏は考えている。また、音声とそれに合わせた動画コンテンツの組み合わせによって、ポッドキャストをよりインタラクティブにできることを例に挙げた。

「音声によるストーリーテリングがこの新しい没入型環境にもたらしうるインパクトの方向性について、私たちはまだ表面的な理解すらできていないと思う」と、ストリンガー氏はいう。「オーディオは成長を続けており、コネクテッドカーやスマートスピーカーはもちろん、スマートフォンでも大きな成長を遂げているところだ」

エージェンシーがサステナビリティに取り組む方法

CESでは、ロボティクスや農業におけるサステナビリティに向けた革新的な取り組みが紹介されただけでなく、エージェンシーも環境目標について独自の議論を展開した。WPPのメディア部門であるグループエム(GroupM)でCEOを務めるカーク・マクドナルド氏によれば、同社はサステナビリティに関して、パートナーや潜在顧客により多くの説明責任を果たすよう、非常に強く働きかける予定だという。「企業は具体的かつ公的な目標を設定すべきであり、そうした取り組みが説明責任を果たし、進捗度を測ることにつながる」と同氏は語った。

「基準を設けることが重要だ。なぜなら、測定しないものは管理できないからだ」と、マクドナルド氏はいう。「そして、取り組みを進めるためには、進捗度を測る指標について合意しなければならない。そのためには、我々全員が向き合って何を指標にするのかを定義し、進捗度を可視化する方法を決める必要がある」。

カーボンオフセットは解決策のひとつだが、それだけが重要なのではないと、同氏は話す。また、オフセットに焦点を当てすぎると、実質的には二酸化炭素排出量を削減していない企業が、コンプライアンスに準拠しているように見えてしまう可能性があると指摘した。

「我々がオフセットを重要だと考える理由は、それが厄介な領域に踏み込むための道筋になるはずだからだ」と、マクドナルド氏は話す。「これはワークフローの改善を可視化するための道筋であり、従来のビジネス慣行と照らし合わせながら、実際にビジネスを行う上で必要なことについて考えるための道筋なのだ」

[原文:At CES 2023, agencies outline progress and potential around the metaverse, podcasting and sustainability

Antoinette Siu(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)

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