働く側は快適でないことを受け入れ、企業側は柔軟性を持ち続けるべきだ」: オフィス復帰 を前にしたコピーライターの告白

DIGIDAY

オフィス勤務の再開は、このパンデミック期間を通していくつもの局面を経てきた。企業は、柔軟な働き方と復帰推進のバランスをとろうとしている。

しかし年明け早々には、エージェンシーやプラットフォームなど、企業の多くが数日はオフィス、数日は在宅というハイブリッド勤務であれ、あるいは完全なオフィス勤務であれ、何らかの形で強制的な復帰を求めようとしている。

匿名性を保障する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、あるコピーライターに、個人的には在宅勤務にメリットがあるにもかかわらず、オフィス回帰に前向きな理由について語ってもらった。

以下、読みやすさのために若干の編集を加えてある。

◆ ◆ ◆

――来年はオフィスに戻るつもりか?

私が勤めるエージェンシーのオフィス再開は1、月初めの予定だ。週3回は要出勤で、その3日間はオフィスに出てくることが義務づけられる。リモートワークは精神面や情緒面のウェルビーイングにはいいが、総じてエージェンシー内のアウトプットにどうしても悪影響が出る。

――どんなふうに?

例年のシーズンであれば、(際立った)仕事が5つや6つ、7つはある。ワイデン・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy)が作ったものや、TBWA、ドローガ5(Droga5)、どこか小規模なエージェンシー、あるいはグッドバイ・シルバースタイン&パートナーズ(Goodby Silverstein & Partners)が手がけたものなどだ。常に誰かがクールなものを生み出してはいるが、先鋭的な仕事はとても少ない。業界は下降ぎみだ。不況が迫るなか、広告にもまだ価値があると証明することで、誰もが自分の仕事を守ろうとするのではないだろうか。仕事の面では、オフィスに戻るのはいいことだと思うが、私には子どもがいるので、家を離れるのは気が進まない。だが仕事というのはそういうものだ。楽でないのが当たり前といえる。

――現在の厳しい経済状況がオフィス回帰に影響し、オフィスに戻りたい人が増えると思うか?

場合による。自然な反応としては、今の状況を警戒して、しぶしぶオフィスに戻り始めるというところだろう。一方で、エージェンシーにオフィス復帰を求められ、新しい仕事を探している人たちも知っている。しかし、誰もが働きたいと思うようなトップエージェンシーはどこも、こちらがそれを望むかどうかにかかわらず、ずっとオフィスにいてくれる人を求めている。そうした働き方から離れる選択をする人は、優先事項がほかにあるということだ。広告業界には、それが新たな基準になるような仕事をしたい人ばかりではない。リモート勤務が許される、静かなエージェンシーで働くことを選びたい、それが自分に合っているという人がいるのは十分に理解できる。私も子どものいる身であるため、人々がそうした決断を下すのはよくわかる。

――在宅勤務中も人々は休まず仕事をしていた。なぜ、エージェンシーはオフィスに人を戻したいのだろうか?

パンデミック前とパンデミック中の授賞式を見てみるとわかる。エージェンシーのアウトプットは明らかに落ちている。3カ月や6カ月ごとに優れた成果を出していたエージェンシーの多くが、今はペースを落としている。予算のせいだというかもしれないが、パンデミックが始まって3カ月後には市場にお金が戻っていた。私自身、パンデミックの初期には撮影に参加していた。これまでと違うタイプのクライアント、製薬会社や家庭用品など、パンデミックによって(人々の行動が変化したことで)恩恵を受けたクライアントも現れたが、アウトプットはその割に低調だった。

――その理由は?

業界として、我々はとても恵まれている。ほかのほとんどの業界は、すでにオフィスに戻っている。全員が在宅勤務をしている業界などほんのわずかだ。しかしそれが本当に会社のためになっているのだろうか? 朝食、昼食、夕食を作り、洗濯をし、パートナーと一緒に過ごすことができているが、自分は絶好調だといえるだろうか? 最近は目立った仕事をしていない。サイドプロジェクトに取り組む意欲もない。もしオフィスにいたら、環境的に(それを促されるので)何か仕事を見つけるだろう。朝起きて、日課をこなし、通勤すること、電車に乗ること、オフィスに行くこと、人に会うこと、それらすべてが刺激になる。人が何かを経験しているのを見ることは、仕事の糧になる。そういうとくに何をするでもないが、仕事について考えている時にこそ、最高のアイデアを思いつくものだ。(そこから得られるのが自分たちの求めるものかどうかは)時間が経てばわかる。半年後に仕事を振り返った時に。

――パンデミック以前のオフィス環境は、多くの人にとって厳しいものだった。リモートワークを続けたいと思う人の気持ちはよくわかるが。

米国の広告業界の環境は、本当に有害だった。ずっとオフィスにいなければならないような空気があって、それが大きなプレッシャーになっていた。再びオフィスで働くことに伴う弊害や、出社主義のような考え方があることは否定できない。しかし、だからといって家にいればいいというわけでもない。我々はただ仕事をこなしているだけだ。承認がもらえるからといって、できうるかぎりの最高の仕事を生み出しているというのではない。ただ、提出を求められた10個のアイデアを提出しているだけだ。

しかしオフィスでは、パートナーとランチに行ったときに、そこで目にするものが11個目のアイデアに影響を与えるかもしれない。この11個目のアイデアを発見することに意味がある。もっと働けということではなく、最高のアイデアは期待していないときにこそ生まれるということだ。ひとつの環境にとどまっていると、その環境から離れることがなく、脳がその環境からさまよいだすような刺激を受けることがない。

――リモートワークはチームワークに影響を及ぼしているか?

エージェンシーでは、チームスピリットが低下していることは否定できない。人々はお互いの近くにいることに慣れているが、エージェンシーがリモート化したことで、結びつきが薄れた。ブレインストーミングにも変化が生じている。たとえオフィスでなくても、じかに顔を合わせれば、同僚との関係も違ってくる。感情的な結びつきが違ってくる。この業界の人々はとても自己中心的だ。そうした壁を取り払わない限り、お互いの最高の能力を引き出すことはできないと思う。

――ハイブリッドな環境を整えることで、再びよりよい仕事ができるようになるか?

それは間違いない。ただし、あくまで仕事という観点で見た場合の話だ。個人としては、自宅で仕事をするのが一番いい。だからこそ、エージェンシーも数日オフィスで働き、数日は在宅というハイブリッド環境を提案しているのだろう。

――オフィス回帰に何を期待するか?

働く側は、快適でないことをもっと受け入れるようになるべきだと思う。そして、企業の側も柔軟性を持ち続けるべきだ。働く人のメンタルヘルスが向上すれば、誰にとっても仕事がしやすくなるのだから。

[原文:Confessions of a copywriter on creativity, returning to the office and ‘butts in seats mentality’

Kristina Monllos(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました