人工知能(AI)の研究は急激に進んでおり、人間のような精度で絵を描いたり文章を書いたりするモデルも登場しています。しかし、これらは「人工知能」という名前でありながら、実際は事前に人間が与えたデータセットを元にアルゴリズムを組んで、その通りに処理しているに過ぎず、独立した知性を持った真の人工知能とはいえません。この真の人工知能を生むためには、「アフォーダンス」が必要だという論文が発表されています。
Frontiers | How Organisms Come to Know the World: Fundamental Limits on Artificial General Intelligence
https://doi.org/10.3389/fevo.2021.806283
AIの研究は、アラン・チューリングが1950年に発表した論文「計算する機械と知性」の中で「機械は考えることができるか?」という問いを提起したところから始まり、驚異的な進歩を遂げてきました。今や自動で絵を描いたり人間と変わらない精度で対話ができたりしますが、これらはあくまでも狭い範囲に限定したアルゴリズムによる処理の結果であり、本当に知性が誕生しているわけではありません。
さまざまな物事に1つのAIモデルで対処するためには、複数の機能を接続・統合・調整できる計算システムである「汎用人工知能(AGI)」の探究が必要です。AGIは自ら分析したり創造したり実践したりでき、まさに知性の際立った特性を示すといえます。
AGIは人間の介入なしに、自律的に目標を設定して状況を改善しなければならず、コンテキストとタスクに従って合理的に道筋を選択し、価値のあるタスクと関連するコンテキストをたくさんの選択肢から選ばなければなりません。しかし、実際により高いレベルでタスクを解決しようとしても、現実の世界にはデジタルの世界とは異なり、不完全であいまいなもの、あるいは矛盾する情報が非常に多く、人間ですら日々混乱しています。
その中で、研究チームはAGIの研究には「アフォーダンス」が重要だと述べています。アフォーダンスとは、「与える、提供する」という意味を持つ言葉が由来になっており、環境が動物に対して与える意味のこと。例えば、広場に誰も座っていない椅子が置かれているのを見た時、私たちは「あれは座るものだ」と認識します。この認識がアフォーダンスです。
仮に真っ暗で何も見えない部屋にいる場合、人間はまず「家具にぶつかりながら、偶然電気のスイッチを見つけ、部屋を明るくして自分がいた場所を見る」という行動を行います。この「偶然見つけたスイッチで部屋を明るくして自分のいた場所を確認する」という行為は推論でも帰納でもなく「洞察」に当たります。数学者が難問をある種のひらめきから解決するのも、洞察になります。
こうした洞察力は人間があいまいさや矛盾に対応する能力であり、創造性の元でもあります。AGIに求められるのは、周囲の環境との相互作用から問題解決を導くことであり、この洞察力にはアフォーダンスが求められると研究チームは述べています。
例えば、AI搭載のロボットが何かの物体を手にした時に、それをどう使えるかの可能性をすべて事前にリストアップして学習させることは実質不可能であり、アルゴリズム的に扱うことはできません。すなわち、与えられたものの意味を受け取って応用できるのは生物(人間)だけであるということです。現行のAIやロボット工学のアルゴリズム研究フレームでは、アフォーダンスを識別して活用することができないため、AGIの開発は不可能だと研究チームは論じています。
研究チームは、アフォーダンスを応用できる生物的な振る舞いこそがAGIに必要であり、この議論が今後のAI研究や進化論だけではなく、科学哲学にも多様な影響を与えるだろうと述べています。
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