寿命の長さは「遺伝子の長さ」によって決まるかもしれない

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ヒト、マウス、ラット、メダカから採取したさまざまな体組織のデータを人工知能で解析した研究により、老化の過程で起きる分子レベルの変化の大半は、遺伝子の長さで説明ができることが分かりました。この発見により、加齢を遅らせたり逆行させたりする治療が開発される可能性があると期待されています。

Aging is associated with a systemic length-associated transcriptome imbalance | Nature Aging
https://doi.org/10.1038/s43587-022-00317-6

Aging is driven by unbalanced genes – Northwestern Now
https://news.northwestern.edu/stories/2022/12/aging-is-driven-by-unbalanced-genes/

今回、老化のメカニズムに迫る研究を報告したノースウェスタン大学のトーマス・ストーガー氏らの研究チームは、まず生後4カ月、9カ月、12カ月、18カ月、24カ月のマウスからサンプルを採取して分析にかけました。その結果、生後4カ月と9カ月のサンプルの間で、すでに遺伝子の長さの中央値が変化していることが分かりました。これは、老化につながる遺伝子の長さの変化が、ごく初期から発生していることを意味しています。

研究チームがさらに生後6カ月~24カ月のラットや、生後5週間~29週間までのメダカのサンプルを調べたところ、マウスで見つかった変化は年齢が上がるにつれてより顕著になっていくことが確かめられました。これについてストーガー氏は、「私たちの細胞は若いうちは遺伝子活性のアンバランスにも対抗できますが、ある時を境に対抗ができなくなってしまうようです」と述べました。


動物実験で老化には遺伝子の長さが関係していることを突き止めた研究チームは、次に人間の老化に焦点を当てました。そして、30~49歳、50~69歳、70歳以上のヒトの遺伝子の変化を調べたところ、遺伝子の長さに応じた遺伝子活性の変化が中年期に発生していることが分かりました。

研究チームによると、遺伝子を解析したマウスはDNAが同じクローンマウスで、性別や育った実験室も同じだったのに比べて、被験者らは年齢も性別もまちまちだったのでデータとしてはより有効性が高いとのこと。そして人間での解析でも、老化に関する遺伝子のパターンには一貫性が見られました。

今回の発見では、遺伝子の長さが老化に関連していることが分かりましたが、これは遺伝子が長ければいいという意味ではありません。そもそも遺伝子の長さとは遺伝子に含まれるヌクレオチドの数に基づいており、このヌクレオチドから合成されたアミノ酸でタンパク質が作られます。従って、長い遺伝子からは大きなタンパク質が、短い遺伝子からは小さいタンパク質ができますが、細胞のホメオスタシスの維持には大小のタンパク質がバランスよく存在する必要があるとのこと。つまり、老化はこのバランスが崩れた時に起きることになります。


老化に関連する特定の遺伝子を見つけるという一般的な生物学的アプローチとは異なり、遺伝子全体に目を向けた今回の研究は、遺伝学に全く新しい観点を与え、神経変性疾患など老化に伴うさまざまな問題の解明にも役立つかもしれないと、ストーガー氏は位置づけています。

例えば、高齢になるとけがの治りが遅くなったり、病気が長引いたりする理由も、今回の研究で説明がつく可能性があります。つまり、高齢者の細胞は外部的なダメージだけでなく遺伝子のアンバランスにも対処しなければならないため、回復が遅くなるという見立てです。

ストーガー氏らの研究チームは、今回の発見が老化を遅らせたり老化を逆転させたりする治療薬の開発につながる可能性があると、期待を寄せています。なぜなら、老化に伴うさまざまな疾患に対する現行の治療法は、ある意味で対症療法的なものであって、根本的な原因である老化そのものを対象とすることができないからです。

論文の共著者であるルイス・アマラル氏は「例えば発熱にはいろいろな原因があります。感染症なら抗生物質が必要ですし、虫垂炎なら手術が必要です。これと同じで、遺伝子活性のアンバランスさという問題の根源を修正できれば、下流にあるさまざまな問題にも対処できるでしょう」と話しました。

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