実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生えてきたとの報告、光にも反応

GIGAZINE


by Elke Gabriel

培養した脳に眼杯と呼ばれる器官を備えた原始的な目を形成させることに成功したとの論文が、2021年8月17日に発表されました。人の脳を研究するために実験室内で作られたミニチュアサイズの脳と目には、光に反応する神経組織の活動などが確認されたことから、今後は網膜疾患の研究や医療用の網膜の製造に役立つと期待されています。

Human brain organoids assemble functionally integrated bilateral optic vesicles: Cell Stem Cell
https://www.cell.com/cell-stem-cell/pdfExtended/S1934-5909(21)00295-2

Brain organoids develop optic cups that respo | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/925127

Scientists Grew Stem Cell ‘Mini Brains’. Then, The Brains Sort-of Developed Eyes
https://www.sciencealert.com/scientists-used-stem-cells-to-make-mini-brains-they-grew-rudimentary-eyes

Mini Brains Grown From Stem Cells Developed Light-Sensitive, Eye-Like Features | Smart News | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/mini-brains-grown-stem-cells-developed-eyes-can-sense-light-180978478/

人間のiPS細胞を用いて実験室内で作られた脳は「脳オルガノイド」と呼ばれており、過去の研究では豆粒サイズの脳オルガノイドから胎児のような脳波を検出することにも成功しています。

皮膚の細胞から培養した極小サイズの脳から赤ちゃんの脳波に似た信号が検出される – GIGAZINE


こうした脳オルガノイドは極めて単純な構造をしているため「意識が芽生えることはない」とされている一方、人間の脳細胞からできた生きた組織であることから、脳神経が発達するメカニズムの解明や脳の疾病のモデル化、薬物の試験などに役立てられています。

かねてから眼杯や眼胞などの原始的な目の組織の発達について研究していたドイツ・デュッセルドルフ大学病院のジェイ・ゴパラクリシュナン氏らの研究チームは、「目の組織を直接培養するのではなく、脳オルガノイドから目を発生させてはどうか」と考案し、まず4人のドナー由来のiPS細胞を準備しました。

そして、以前開発した「幹細胞を神経組織に変化させる技術」を応用し、培養液にビタミンAの一種である酢酸レチノールを加えて、視神経の一種である視神経乳頭を持つ脳オルガノイドを作成しました。

by Gabriel et al., Cell Stem Cell, 2021

この脳オルガノイドを培養した結果、合計314個のうち72%で視神経乳頭を形成させることに成功。早いものは作成から30日で眼胞を形成させ、60日後には成熟した視神経乳頭を持つようになりました。この脳オルガノイドの発達速度は、ヒトの胎児における眼球の発達時期とちょうど一致しているとのことです。

研究チームが作成した脳オルガノイドはさまざまな種類の網膜細胞を備えており、水晶体や角膜といった組織のほか、光に反応して活動する神経細胞のネットワークも確認されました。研究チームは、視神経乳頭の培養自体は以前から行われてきたものの、脳オルガノイドから視神経乳頭を生じさせた研究はこれが初めてとしています。

by Gabriel et al., Cell Stem Cell, 2021

ゴパラクリシュナン氏は、今回の研究結果について、「哺乳類の脳では、網膜神経節細胞の神経線維が伸びて脳と接続することが分かっていましたが、そのことがin vitro、つまり実験室内の研究で示されたのはこれが最初です」と話しています。

研究チームは今後、視神経乳頭を長期保存する技術を開発し、網膜疾病のメカニズムを解明する研究に役立てる方針とのことです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました