多くの動物が「遊び」に興じると知られていますが、基本的には脳の大きな哺乳類や鳥類などが遊び行動をみせると考えられてきました。しかし、動物行動学の学術誌であるAnimal Behaviourに掲載された論文によると、人間などの脳の大きな動物だけでなく、ミツバチも遊び行動をみせることが明らかになっています。
Do bumble bees play? – ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347222002366
Bees like to roll little wooden balls as a form of play, study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/12/bees-like-to-roll-little-wooden-balls-as-a-form-of-play-study-finds/
遊びという行動は通常、大まかに3つのカテゴリに分類することができるそうです。1つ目は「社交的な遊び」で、動物同士の遊び心のある交流がこれに含まれます。2つ目は「運動遊び」で、ランニングやジャンプといった、特定の目的に関連付けられていない激しい持続的な動作がこれに該当するとのこと。3つ目が「物遊び」で、物をおもちゃとして遊ぶことです。
2017年に発表された研究では、報酬(エサ)を受け取るために小さな木製ボールを転がすようにミツバチを訓練することが可能であることが示されました。この研究では、エサの置かれた実験場とミツバチの暮らす巣箱をつなぐトンネル上に木製ボールを置き、実験場と巣箱を往復する際に、ミツバチがボールの上を歩いたり、ボールを転がしたりしたことが観察されています。
また、明らかな報酬や利益がない場合でも、ミツバチがボールを転がすことがあると観察されました。そこで、同研究に参加したロンドン大学クイーン・メアリー校の生物行動科学者であるラーズ・チッタカ氏らは、「ミツバチによる木製ボールを転がす行為が本物の遊び行動なのか否か」を検証するための調査をスタートさせたそうです。
生物が遊び行動に従事していることを実証するための実験を設計することは非常に困難です。生物にその行動を楽しんでいるかどうかを聞くことはできないため、基本的には5つの基準を満たす場合にその生物が遊びを楽しんでいることが実証できたとする模様。
その5つの基準は以下の通り。
1:食べ物を手に入れたり配偶者を引き付けたり避難所を見つけたりするための行動ではない
2:何らかの報酬に関連付けられたものではなく、自発的に行われ、それ自体にやりがいがある行動である
3:遊び行動は食べ物を探したり交尾しようとしたりするときに実行される行動とは異なる
4:一度限りの出来事と習慣的な行動を区別するため、遊び行動は繰り返し行われるべきではあるものの、遊びは型にはまったものではない
5:檻に入れられた動物園の動物でよくみられるペーシングやウォーキングなどのストレス関連行動と区別するため、遊びは「被験体がリラックスしている時に開始されるべきである」
これらの基準を踏まえ、研究チームは45匹のミツバチを使って実験を実施。実験では、エサのあるエリアと巣箱が別々に用意されており、2つは2本の通路でつながれています。片方の通路は何も置かれておらず、もうひとつの通路には色付きの木製ボールが置かれていました。実験の結果、45匹のミツバチのうち37匹がエサを食べた後もボールを転がしたそうです。また、個々のミツバチは実験期間中に1回から117回もボールを転がしたことが観測されています。
これが遊びに該当するかを判断するために、研究チームは2つ目の実験を行っています。この実験では1つ目の実験には参加していない別の42匹のミツバチと、ボールが置かれていない部屋とボールの置かれた部屋を用意。2つの部屋は明確に色分けされており、しばらく経過したのち、ボールを取り除きました。すると、ミツバチはボールが置かれていた方の色の部屋を強く好むことが判明しました。
さらに3つ目の実験では、若いミツバチが年配のミツバチよりもボールを転がす頻度が高く、オスのミツバチはメスのミツバチよりも長時間ボールを転がす傾向にあることも明らかになっています。
これらの実験から、ミツバチが遊び行動の5つの基準を満たしているとして、「ミツバチは木製ボールをコロコロ転がして遊ぶ」と研究チームは結論付けています。研究チームは「今回の研究結果は、昆虫の心が私たちが想像するよりもはるかに洗練されていることを強く示しています」と述べ、今回の研究が昆虫に対する認識を改める機会になると語りました。
この記事のタイトルとURLをコピーする