インテルPCはなぜ安定しているのか?USBやWi-Fiなど、開発の歴史を聞く [Sponsored]

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 読者諸兄は「インテル」にどんなイメージをお持ちだろうか? 多くの人にとってインテルと言えば、PCの心臓部であるCPUを製造している半導体メーカーというイメージだろう。しかし、インテルが提供しているのはCPUだけではない。Wi-Fiや、USB、Thunderboltなどの周辺機器を接続するコントローラまで一気通貫に提供しているのがインテルだ。

 そして、そういったPCのプラットフォーム全体で見たとき、インテルプラットフォームは競合製品よりも安定していると評価するユーザーが多いのも事実だ。では、なぜインテルプラットフォームは安定しているのか?

 このたび、インテル株式会社執行役員常務 第二技術本部 本部長の土岐英秋氏と、第二技術本部部長 工学博士の安生健一朗氏という、インテルプラットフォームの歴史を熟知する2人に「なぜインテルプラットフォームは安定しているのか?」という直球の問いを投げてみた。以下のインタビューを読んでいただくことで、その回答を知ることができる。

インテルのプラットフォームが安定しているのは市場規模と毎世代進化させているから

インテル株式会社執行役員常務 第二技術本部 本部長の土岐英秋氏

Q:なぜインテルプラットフォームは安定しているとユーザーに受け止められていると考えていますか?

土岐氏:大きく2つのことが影響していると考えています。1つはインテルプラットフォームの市場規模が大きいこと、そしてもう1つがプラットフォームを毎世代進化させていることです。

 インテルプラットフォームはPC市場において多くのお客様にご利用頂いております。このため、使っていただくエンドユーザーの数は膨大で、そのため製品を作っていただけるパートナー企業も非常に多いというスパイラルが今も昔も安定をもたらしているのだと考えています。

 弊社ではリファレンスデザインを作成、それをプラットフォームとして展開しており、それを元にOEMメーカーや周辺機器メーカーがハードウェアを設計する形になっている。

 そうした中で、弊社も各種製品の互換性などをできるだけチェックしていますが、周辺コンポーネントなどに関してはパートナー企業で評価いただくのが一般的です。そこで発覚した課題を弊社の技術サポートが吸い上げ、弊社開発者向け窓口や評価チーム、デバッグチームといったリソースを活用してさらに検証し、顧客へフィードバックする形になっています。

 その項目は非常に膨大ですが、それをできるだけ丁寧に対応しています。それが安定したプラットフォームを実現できている最大の要因だと考えています。

 もう1つは、そうしたフィードバックを顧客に戻すだけでなく、次世代プラットフォームにも反映していっていることです。1つ前の世代で分かった課題と解決方法を、新しい世代のプラットフォームのリファレンスデザインに反映しています。それを何度も何度も回していくことで、1つ1つ問題をつぶしていき、プラットフォーム全体の安定度が増していくわけです。

 互換性検証というのは本当に地道な作業です。弊社がGPUビジネスを始めたばかりの頃、モニターごとに映りが違うという指摘を顧客からいただきました。あるモニターではノイズが出て、別のモニターでは出ないといった問題を1つ1つつぶしていく必要がありました。

安生氏:そうした時、まずそのモニターをどこから手に入れるかが問題になります。そして対象となるPCを入手して、状況を再現し、何が原因なのかを探して、ファームウェアの改善やチップの細かな修正などで対応することになります。100回に1回に起きるレベルの問題についても、改善すべくしっかりサポートすることでプラットフォーム全体の安定性が上がっているのだと考えます。

インテル株式会社第二技術本部部長 工学博士の安生健一朗氏

土岐氏:USBも当初は互換性を実現するのが大変でした。我々も顧客メーカーもたゆまぬ努力をして、問題を1つ1つ解消してきた結果、今のように挿せば動くという状況になったわけです。結果的にそれは弊社だけでなく、競合他社でもあるAMDさんやAppleさんも含んだ業界全体にメリットをもたらした側面はあると思っています。

Q:USBについて、バージョン1.0から振り返って、インテルは規格開発や普及に向け、どのような活動を行なってきたのか教えてください。

土岐氏:当時USBを導入するにあたって最大の課題はプラグアンドプレイ(PnP)の実現でした。PnPが実現されるまでは、周辺機器側に用意されている物理スイッチなどを利用して、IRQやDMAのポート番号を手動で設定していました。しかし、PCがPnP BIOSをサポートし、そうしたリソースの割り当てを自動で行なえるようにするPnPの取り組みが1990年代の後半に行なわれました。

 日本のインテルでも国内でプラグフェストを行なうことになりました。ホテルの宴会場を貸し切って、各部屋にインテルとマイクロソフトのエンジニアがおり、インテルのリファレンスプラットフォームを置いておき、そこにデバイスメーカーが自社機器を持ち寄って接続検証、問題が起きたらすぐにコードを書き直して再トライする、そうしたことをやっていました。

 そうして得た成果がUSBの開発へとつながっていき、実は、日本のPCメーカーや周辺機器メーカーが世界に先駆けてUSB機器をリリースするに至ったのです。

インテルによるものではないが、2015年11月に開催された「Windows 95 20周年同窓会」での、PCMCIAカードを挿入し、プラグアンドプレイを実演する一幕

Q:そうしたUSBが、その後USB 2.0、USB 3.0を経て、今はUSB4へと進化しています。USB4についてインテル製品の優位性を教えてください。

安生氏:USB4はインテルが開発してきたThunderboltテクノロジがベースになっており、高速で安定した通信が可能であるという点が評価され、その仕様の多くの部分をUSBの仕様策定団体であるUSB Implementers Forum(USB-IF)に寄贈した形になっています。

 USB4とThunderboltテクノロジの大きな違いは、Thunderboltテクノロジはインテルのブランドであるため、対応を名乗るにはインテルが行なっているテストを通過して認証を取得する必要がある点です。

 USB4では、その仕様通りに作成して、USB-IFの互換性検査を通過すればUSB4互換を名乗ることが可能になります。業界標準としての相互接続性を重視しているのがUSB4の目指す方向性であり、Thunderboltの方はより高い品質を実現することを目指しています。インテルの最新世代のCPUは、いずれも最新世代のThunderbolt 4コントローラをCPUに内蔵しており、安定した高速な通信を実現できます。また、USB4としても利用できるのが優位点です。

Light Peakから進化。最新のThunderbolt 4からUSB4までつながる

Q:Thunderboltについてバージョン1.0から振り返って、インテルが規格開発や普及に向けてどのような活動を行なってきたのか教えてください。

安生氏:Thunderboltは、2009年にIntel Developer Forumで発表した開発コードネーム「Light Peak」がベースになっています。USB 3.0の高速版という位置付けでスタートしました。

 ただ、発表当初は現在のThunderboltとは異なり、物理伝送路として光ファイバーを想定しており、当時のUSBの最高速がUSB 3.0の5Gbpsであったのに対して、倍の10Gbpsをサポートするのが大きな特徴でした。

 そして正式名称を「Thunderbolt」としてスタートする段階でAppleにも参画いただき、伝送路として光ファイバーだけでなく、銅線も加え、より低価格でハイスピードの通信を行なえる新規格としてスタートしました。まずは、光ファイバーを伝送路とした製品はソニーから、銅線を伝送路とする製品はAppleから登場しました。

 2013年に転送速度を2倍の20GbpsにしたThunderbolt 3、2015年にはさらに2倍の40GbpsにしたThunderbolt 3をリリース。その時点で物理的端子としてUSB Type-C(USB-C)を利用するようになり、多くのPCメーカーで採用が進みました。

 2019年には第10世代インテルCoreプロセッサー(開発コードネーム: Ice Lake)で、CPUの中にThunderbolt 3のコントローラを統合。2021年には機能を増やした、次世代規格Thunderbolt 4が発表され、ノートPC向けの現行製品である第12世代インテルCoreプロセッサー、デスクトップPC向けの最新製品となる第13世代インテルCoreプロセッサーの2製品にコントローラが統合され、現在多くのノートPCやデスクトップPCがThunderbolt 4対応として販売されている状況です。

Q:Thunderboltについて、もともとはなかばインテルの専売特許的な規格でしたが、Thunderboltのプロトコル仕様をロイヤルティーフリーのライセンスとして公開したのはなぜでしょう。

土岐氏:私はUSBの仕様について業界の皆さんと議論する立場にはないので、あくまで日本のPCメーカーをサポートする立場という視点でお話しします。

 日本側から見ると、USB 3.0の規格策定の時にはとても時間がかかったように見えました。USB-IFは多くの企業が集まってオープンに議論するという形になっており、多くの参加者の利害を調整するのに時間がかかったのではないかというように外からは見えました。

 しかし、USB4の時には、すでに40Gbpsという転送速度を実現し、物理的な仕様も策定済みだったThunderboltの仕様をUSB-IFに受け取っていただけました。インテルは近年オープン性を重視しており、オープンソースコミュニティーに対して、ソフトウェアのコードを寄与するなどの活動を行なっており、オープンソースコミュニティーから大きな評価を受けています。

 それと同じようなことが、USB-IFでのUSB4の規格策定においても行なわれ、実際に動いている規格をオープンにすることで受け取っていただけたわけです。

 実のところ、最初のUSB 1.0規格の時もインテル側である程度つくった仕様をUSB-IFに渡してオープンな規格としてスタートした歴史的経緯もあり、それがUSB4で先祖返りしたと言ってもいいのかもしれません。

Q:最新Thunderbolt 4について、インテル製品/プラットフォームの優位性を教えてほしい

安生氏:先ほども言った通り、USB4とThunderbolt 4の最大の違いは、弊社での認証を受けているかどうかという点にあります。Thunderbolt 4では弊社が実施するより厳しいテストを受けていただき、そこで問題ないと判定された製品にだけ「Thunderbolt」のブランドを名乗れる仕組みになっています。

 なお、Thunderbolt 3の世代ではDMA転送でセキュリティの問題が発生しましたが、Thunderbolt 4では、インテル側でUEIF BIOSを修正するなどして回避作を提供させていただくなどプラットフォームレベルでの対応を行なっています。

 また、すでに次世代のThunderboltに関しても開発を進めており、弊社が9月にイスラエルで行なったイベントでは、転送速度80Gbpsを実現するデモを行ないました。

Centrinoでは、かなり無理をしてWi-Fiを標準搭載

Q:Wi-Fiについて、インテルプラットフォームに取り込んだCentrino以降、インテルは規格開発や普及に向け、どのような活動を行なってきたのでしょうか。

土岐氏:それについてはまず、Centrino Mobile Technology(以降、Centrino)が発表される前夜のPC市場の動向をお話しする必要があります。Centrinoが発表される前、ノートPCは、バッテリを搭載することで、ACアダプタという線から解放されていましたが、ネットワークに関してはまだ有線のEthernetという状況になっていました。

 性能で言えば、今でもそうであるようにデスクトップPCの方が高く、ノートPCに関しては性能より機動性が重視され、ネットワークもワイヤレスにという声が高まっていました。

 2002年にCentrinoというプラットフォームを導入するにあたり、弊社はPentium Mという低消費電力で高性能なCPUを投入しました。それにより、バッテリ駆動時間は飛躍的に延び、ノートPCはより薄く、軽くが可能になりました。同時に、Centrinoの一部としてWi-Fiを導入することを決定しました。

 Centrino以前も、PCカード(PCMCIA)という拡張カードを利用したり、USBを利用したりすることで、ノートPCにWi-Fi機能を後付けすることは可能でした。しかし、それらはまだまだ高価だったりして、一部の先進的ユーザーのみが使うレベルにとどまっていました。

 それに対して、Centrinoでは標準機能としてWi-Fiを取り込んだので、Wi-Fiアクセスポイントを用意いただければ、買ってすぐ無線を使えます。結果、飛躍的にWi-Fiの認知度向上や普及が進みました。

 Centrinoから20年がたち、今やWi-FiなしでノートPCを使う人はいなくなっています。それもこれもCentrinoでかなり無理をしつつもWi-Fiを導入したからです。当時のPCメーカーには苦労をおかけしましたが、結果的に業界の発展に寄与したと言えるのではないかと考えています。

Q:最新Wi-Fi 6Eについて、インテル製品(プラットフォーム)の優位性を教えてください。

安生氏:Wi-Fi 6Eは、新しく6GHzの電波帯域に対応し、2.4GHzや5GHzに対して、すいている帯域を利用するので、安定して高速に通信することが可能になっています。

 しかし、この6GHzをWi-Fiの帯域として利用できるかどうかは、各国の電波政策などによっても異なっています。米国ではすでに対応が済んでいましたが、日本では2022年9月に総務省の認可が下り、国内でも利用できるようになりました。

 インテルでは、世界各国の規制当局と密接な取り組みを行なっており、地道に6GHz帯の利用許可を1つずつ取り、認証試験を行なってきました。もちろん新しい帯域を利用するには、対応した新しいアクセスポイントが必要になるため、そちらの機器メーカーとも歩調を合わせながらやってきました。

 そういった中、日本でも2022年中には認可が下りることは見えていたので、認可が下り次第UEFIファームウェアやドライバをアップデートすることで、出荷時には対応できていなかった6GHz帯へ対応できるようにすべく、取り組みを行なっていたのです。

 難しいのは、電波規制は各国で異なっており、同じ6GHz帯でも利用できる周波数帯が微妙に違っていたり、認可されるタイミングも違っていました。このため、インテルでは、ダイナミックレギュラトリーシステム(DRS)と呼ばれる仕組みを、最新のWi-Fiモジュールに採用しました。

 これは同じハードウェアでも、ファームウェアの変更で各国の規制に対応できるようにする仕組みです。昔は国や地域ごとに異なるハードウェアを用意していましたが、今は1つのモジュールで世界各国どこの国にも対応でき、PCメーカーがUEFIファームウェア/ドライバのアップデート、規制情報の電子表示などを行なうことなどで、新しく認可が下りた帯域に対しても動的に対応することが可能になっています。

 弊社の最新製品では、日本でも認可前に出荷された製品はソフト的に6GHz帯は無効にされていましたが、すでにモジュール自体の6GHzの認証を取得しており、PCメーカーがファームウェアやドライバをアップデートすることでWi-Fi 6Eに対応可能になります。規制当局の認可を待って、そこから製品化を目指すとなると年単位で普及が遅れてしまうことになりますが、インテルはWi-Fi 6Eでそういう問題を回避できました。

 また、我々はWi-Fi 6Eの標準化プロセスにも積極的に関わっており、それがこうした対応を可能にする1つの理由になっています。近年弊社CEOのパット・ゲルシンガーが盛んにオープンであることを標榜していますが、それがこうした標準化の取り組みの中でも効いています。

 現在は、次の規格になるWi-Fi 7への取り組みを開始しています。Wi-Fi 7ではWi-Fi 6Eで対応が終わっている6GHzと、既存の2.4GHzや5GHzという複数の帯域をとりまとめて、さらなる高速化を実現できる予定で、2021年にBroadcomと共同でライブデモを行なうなど、開発を進めています。

インテルvProプラットフォームは管理者を助け、セキュリティを向上させる

Q:インテルvProプラットフォームは、どういった経緯で立ち上げたのでしょうか。

土岐氏:インテルvProプラットフォームが立ち上がる以前から、インテルはネットワーク製品を提供しており、ソリューションの1つとして遠隔からPCを操作するWoL(Wake on Lan)機能がすでに実装されていました。発表当時のインテルvProプラットフォームは、それを発展させたもので、現場にいなくてもネットワーク越しに電源オフの状態から電源を入れることなどを可能にしました。

 インテルvProプラットフォームに対応したマシンにはME(Management Engine)という組み込みコントローラが搭載されています。PC全体の電源が切れている状態でも、MEとネットワークだけは電源が入っており、パケットが送られてくると起動し、PCの電源を入れたり、逆に電源を切ったりできるようになっています。企業のPC管理者が使いやすいよう、ネットワーク越しにOSのパッチを当てたりする管理用ソフトウェアなどと合わせて提供するのが当初のインテルvProプラットフォームの基本設計でした。

 当初は有線LANだけをサポートしていましたが、現在ではWi-Fi経由での接続もサポートされるようになっています。それを実現するため、IPアドレスをデータベースに保存しておく仕組みが導入されたのですが、今ではクラウド経由でできるようEMA(Endpoint Management Assistant)というソフトウェアを提供しており、社員の自宅などファイアウォールの外側にあるノートPCまでも管理できるようになっています。

 また現在では、そうしたリモート管理機能に加えて、セキュリティ関連の機能も追加しています。BIOS改ざんを防止する機能なども搭載しており、より高いPCセキュリティを提供することが可能になっています。

 そのほか、インテルvProプラットフォーム向けに、SIPP(Stable Image Platform Program)というプログラムを提供しています。これは、IT管理者にとっては地味だけどなくてはならないプラットフォームになっています。具体的には、SIPPに対応したドライバを提供し、そのイメージを使って向こう12カ月間の動作保証をする仕組みです。

 これにより、SIPP対応のドライバを利用して、システムのイメージをビルドすれば、特定のドライバやハードウェアを探す必要がなくなり、かつ安定して動作します。たとえば、同じPCであっても、途中で利用しているコンポーネントがリビジョンアップするということはよくありますが、SIPPドライバを使っていれば、そうした違いをドライバが吸収して動作します。型番やマシンごとにイメージを分ける必要がなくなり、IT管理者の手間を大きく削減できます。

高いレベルの開発力と、それをオープンソースとしてコミュニティに還元するプロセスが安定性をもたらす

 以上の通り、インテルはUSBやWi-Fiなど、いまではPC以外の各種機器においても必須となった機能/規格について、牽引的立場でその開発、普及に努めてきた。

 もちろんそれは、自社にとってもメリットがあるからではあるが、業界のリーダーであるという自負や責任感のもと、持ち前の開発力を発揮しつつ開発に取り組み、その一部はオープンソースとしてコミュニティに還元するプロセスを経て、安定性を確保してきた。また、それにより、エンドユーザーだけではなく、競合他社を含む市場全体にも大きなメリットをもたらしたことが分かっていただけたと思う。

 そのように巨大なエコシステムを築き上げ、ユーザー/パートナーを通じて得られたフィードバックを元に、プラットフォームの世代を重ねるとともに改善も積み上げてきたことで、「インテルPCは安定している」という一種の共通認識が生まれるまでに至ったのである。

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