NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの社長に、2022年10月1日付けで就任した檜山太郎氏が、初めての単独インタビューに応じた。東芝でdynabookを始めとするPC事業に関わり、2017年からは日本マイクロソフトに移り、コンシューマ事業およびコマーシャルパートナービジネスを統括。執行役員常務として、同社クラウド事業の成長を牽引した。NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンで、檜山社長の経験はどう生かされるのか。そして、どんな企業を目指すのか。
5年ぶりにPCメーカーに復帰
――2022年10月にNECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの社長に就任して、約2カ月半を経過しました。
檜山氏(以下、敬称略) PCメーカーに戻ったという点では、その雰囲気には、懐かしさを感じる部分があります(笑)。先日、NEC PCの米沢事業場に行ってきました。日本マイクロソフト時代にも、パートナーという立場で訪問したことはありましたが、社長の立場で訪れるのは、やはり心構えが違いますので、質問する内容も、生産管理コストの効率化や、生産工程に関する細かい工夫に関する部分など、かなり踏み込んだ形になりました。
競争力を持つためにさまざまな工夫をしていることを改めて感じましたし、ユーザーのことを考えたモノづくりを行なっていること、ITを活用して社会を変えようという意識を持っていることも伝わってきました。
生産工程や管理方法も、私が日本マイクロソフト時代に訪問した際とは大きく変化していましたし、日々変化に取り組むというモノづくり現場の強い意思を改めて感じ、個人的には、とてもうれしく思いました。
NECレノボ・ジャパングループは、国内で生まれ、日本のユーザーに育てていただいたNEC PC。日本で生まれ、世界に飛びだしていったThinkPad。海外で生まれ、日本に入ってきたLenovoというように、それぞれに異なった生い立ちを持った複数のブランドがあります。それぞれの特徴を生かしたいと思っています。
――PCメーカーに戻りたいという気持ちがあったのですか。
檜山 日本マイクロソフトにもSurfaceというPCがありますが、やはり、ソフトウェアやプラットフォームの事業が中心です。ハードウェアとソフトウェアでは、粗利率が大きく異なりますし、目標設定の考え方、経営スタイルも大きく異なります。
ただ、日本マイクロソフト時代には、日本の産業界のDXを推進することに対して、強い思いを持って、仕事に取り組むことができましたし、日本マイクロソフトだからできることも多く体験することもできました。
クラウドを活用することで、DXが進展するということは共通の理解となり、そこに日本マイクロソフトが果たす役割は極めて大きなものです。
しかし、その一方で、デジタルの恩恵をもっと受けてもらうためには、そのインターフェイスとなる部分が重要であることを改めて強く感じ、DXをより浸透させるには、PCなどのデバイスが重要であり、そこでなにか貢献ができないかという思いがより強くなりました。
そうした中でご縁をいただき、今回NECパーソナルコンピュータおよびレノボ・ジャパンの社長に就くことになりました。日本で最もシェアが高いPCメーカーですから、その実績とノウハウを活用し、喜んで使ってもらえるデバイスを提供することで、日本の企業のクラウド化、DX化を推進していきたいと思っています。
――企業のDXを、より推進するためのデバイスが、市場には足りないと感じていたのですか。
檜山 それは、確かに感じていた部分でもありました。海外では、PCが日々の生活の中に溶け込んで使われており、行政手続きや免許の更新、医療、教育などでも、当然のようにしてPCを利用しています。
コロナ禍でも、あらゆることがスムーズに動いたのは、デジタルを活用する環境が整い、そのためのデバイスが普及していたからです。日本でも、コロナ禍によってテレワークは普及しましたが、会社の仕事が家でもできるようになったという水準であり、業務改革や社会の変革というところまではつながりにくかったと感じています。
この課題を解決するためには、入口となるデバイスにおいて、どんな使い勝手を提供できるのか、どんな優位性があるのかということを訴求していくことが大切であり、そこに国内トップメーカーが果たす役割があると思っています。
――「檜山モデル」と呼ぶような、作りたいデバイスのイメージは、すでにできあがっているのですか。
檜山 実は、東芝時代からずっと描いているものがあります(笑)。ただ、日本マイクロソフトでの経験を経て、目指すデバイスの姿は大きく変化しています。
かつては、デバイスだけでユーザビリティを創出することができると考えていましたが、デバイスをうまく活用するためのシステム、アプリケーション、ソリューションと組み合わせることが大切だということを強く感じています。
ハードウェアメーカー1社でできることには限界もあります。さまざまなパートナー企業との共創することによって、より最適なデバイスにたどり着くのではないでしょうか。
それを実現できるための要素が、NECレノボ・ジャパングループの中にはあると思っています。横浜・みなとみらいの大和研究所、山形県米沢市の米沢事業場、群馬県太田市の群馬事業場には、優れた開発チーム、生産チーム、サービスチームがいます。国内にこれらの拠点を活用することで、より使い勝手に優れ、より優位性を持ったデバイスを、日本の市場投入できると信じています。
ただ、これを「檜山モデル」と呼ぶことはないと思いますが(笑)。日本のDXをより推進できるようなデバイスを投入したいですね。
たとえば、レノボは、国内のAndroidタブレット市場で圧倒的なシェアを持っており、ある流通業では、レノボのタブレットとクラウドサービスを組み合わせて、業務に最適化したソリューションを提供しています。これは新たなデバイスの姿だと言えます。
また、日本では、データを活用し、生活の質を高めるといった使い方が遅れていることを感じます。クラウド活用の先には、データ活用があります。レノボは、そこに向けても最適なソリューションの実現を支援することで、日本の産業界の発展に貢献したいと思っています。
NECというPCブランドは、高い技術力とともに、地方都市でも絶大な信頼感がありますから、地方都市でのDX、中堅中小企業の業務改革などに最適なデバイスとして、ソリューションを組み合わせた提案ができるのではないかと思っています。
市場を見渡しますと「ユーザー視点」という掛け声は多く聞かれるのですが、結果としてあまり「ユーザー視点」にはなっていないものが散見されます。地方都市や中堅中小企業が、PCを使えていない要因もそこにあるのではないでしょうか。
NECレノボ・ジャパングループは、デジタルの接点を担うデバイスを開発、生産している企業であり、国内ではトップシェアです。つまり、デジタルの接点にいる人たちの声を最も多く聞ける立場にあります。この強みを積極的に生かしたいですね。
NECレノボ・ジャパンの強みは総合力
――NECレノボ・ジャパングループに入って、どんなことを感じましたか。
檜山 レノボグループ全体では、「ポケットからクラウドまで」というように、モトローラによるスマホ、レノボおよびNECブランドによるタブレットやPC、さらにはサーバーやエッジデバイス、会議システムまでラインナップしています。
また、国内に製品開発、生産、サービスの拠点を持っています。こうした総合力を持っているPCメーカーはありません。これを生かすだけでなく、そこにソリューションを組み合わせていくことが、これからのNECレノボ・ジャパングループの強みになります。
対外的に打ち出せるようなスローガンやメッセージはまだ決めていないのですが、今後の方向性を示すものを発信したいと思っています。
一方で、NECレノボ・ジャパングループは、カバーする市場が広く、それぞれに最適化した組織があることこと、M&Aによってさまざまな文化があることも特徴の1つです。
ダイバーシティ(多様性)の文化を生かして、さまざまなものを創出する環境を作らなくてはならないと感じています。社内では、One Lenovoという言葉を使っていますが、それを具現化するように、パートナー企業や顧客に対して、統合した製品やサービスを提供することで、検証済みの製品を組み合わせ、品質レベルを高め、セキュリティレベルも高めることができるといった提案が可能です。
NECレノボ・ジャパングループが持つ仕組みを生かし、パートナーと連携しながら、なにを実現するか、どう使えるかといったことを明確に示したいですね。いまは、ここまでできる広範囲にカバーでき、総合力を発揮できるPCメーカーがなくなってきたと感じます。NECレノボ・ジャパンであれば、それが実現できます。
――レノボグループのヤンチン・ヤン会長兼CEOからはどんなことを言われましたか。
檜山 先日、直接話をする機会がありました。レノボグループとしては、日本市場を重視し、これまでにも多くの投資をしています。複数のブランドをそれぞれに成長させることが、私への期待であり、NEC、レノボ、ThinkPadによる相乗効果を1+1+1=3ではなく、4や5にすることを目指していきます。
――檜山さんのこれまでの経験は、どんな形で生かすことができますか。
檜山 東芝時代にはPCメーカーとしてのハードウェア事業の経験とともに、欧州や米国といった海外勤務が長く、日本マイクロソフトでは、ソフトウェアおよびプラットフォームの企業において、コンシューマ事業とコマーシャル事業を担当しました。
つまり、ハードウェアとソフトウェアの経験があり、国内と海外勤務の経験があり、コンシューマとコマーシャルの経験があります。こうした経験をしている人が少ないということを聞いてびっくりしました。
しかし、これがいまのNECレノボ・ジャパングループに求められている経験であり、それを果たすことができる人材が少ないのであれば、ハードとソフト、国内と海外、コンシューマとコマーシャルを知っているからこそ、どんな経営ができるのか、なにを創出できるのか、どんな付加価値を出すことができるのかといったことを、しっかりと意識して、経営に取り組んでいきたいと思っています。
ThinkPadのキーボードに衝撃を受ける
――一方で、日本マイクロソフト時代には、Windows搭載PCを開発、販売するPCメーカーは、PC市場を拡大するためのパートナーであり、檜山さん自身、連携の旗振り役を務めていたわけです。今度は一転して、各社とはライバルの立場になりますね。
檜山 正直、やりにくさはあります(笑)。PCという1つの製品を売るという点では、競合ですからね。NEC PC、レノボ・ジャパンの社長として、国内でシェア争いをしている日本HPやデルとも競わなくてはなりませんし、私が在籍していた日本マイクロソフトのSurfaceや、東芝から分離独立したDynabookにもしっかりと勝たなくてはなりません。
それぞれのPCにも魂を入れてやってきましたから、商品対商品という意味では、いろいろと葛藤もありますが、レノボ、NEC PCの強みを生かして、他社との違いを訴求していきたいですね。ユーザー視点のPCや、ユーザーの役に立つPCをしっかりと届けていきます。ただ、日本の産業界をどう発展させるかという点では、各社と立場は同じだと思っています。
――ちなみに、いま使っているPCはなんですか(笑)
檜山 いまはThinkPad X1シリーズを使っています。キーボードの良さに衝撃を受けていますよ(笑)
One Lenovoを推進、パートナー戦略も強化
――今後、NECレノボ・ジャパングループでは、どんなところに力を注いでいきますか。
檜山 まだ2カ月強なので、すべてを把握して、そこに対して具体的な施策を打ち出せてはいません。しかし、いくつかの取り組みはすでに考えています。
1つは、ユーザビリティを高めたデバイスやソリーションを、どう届けるかということです。既存の販売ルートだけでなく、まだ十分に開拓ができていない販売ルートに対してもアプローチを行ない、より多くの人たちに使ってもらう環境を作っていきます。
デバイスだけでなく、サービス、ソリューションを組み合わせて提供し、より幅広い分野をカバーし、これまで手が届いていないさまざまなお客様にも訴求をしていきたいですね。
現在、「Lenovo 360」と呼ぶ販売パートナー向けの取り組みを開始しています。私自身、この取り組みに深く関与しながら、ソリューションパートナーとの連携強化や、新たなパートナーとの関係構築を進め、ハードウェア製品だけの視点ではなく、さまざまなシナリオに基づいた提案を一緒になって行っていくつもりです。
――サーバー事業を担うレノボ・エンタープライズ・ソリューションズや、サービス事業を担当するソリューション&サービス・グループ(SSG)との連携はどう考えていますか。
檜山 One Lenovoとして、連携を強化し、二人三脚でやっていくことになります。外から見ると、縦割りの組織体のように見えるかもしれませんが、中に入ってみるとそうした壁はかなり低くなっており、さらに壁はなくなっていくと思います。
組織体制よりも、現場の体制が先行して変化していることを感じます。これを一枚岩にしっかりとまとめていくことに力を注いでいきます。特に、SSGは、レノボグループにおける今後の成長領域であり、重要な領域です。ここでも、新たなパートナーとの連携を強化していくことになります。
――ちなみに、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズのジョン・ロボトム社長も、日本マイクロソフト出身ですね。
檜山 日本マイクロソフトでは、一緒に経営会議に出ていました。また、一緒の会社になるとは思わなかったね、と笑い話をしています。
ゲーミングPCに力を注ぐ
――NECレノボ・ジャパンでは、PC分野において、ハイブリッドワーク、ゲーミングPC、そして、GIGAスクール構想をきっかけにした教育分野に力を注いできました。この取り組みは今後も継続しますか。
檜山 ゲーミングPCは、ハイブリッドワーク同様に「いつでも、どこで、誰とでも」という言葉が当てはまるようになってきました。
ゲーミングPCに対する需要は旺盛であり、引き続き注力領域に捉えています。また、ハイブリッドワークに対する需要も止まることはないと考えています。
コロナ禍のピーク時に比べると勢いは鈍化していますが、この需要は継続していくことになるでしょうか。日本のハイブリッドワークに最適化した製品を継続的に提供していくことが大切だと考えています。
一方で、GIGAスクール構想は、2020年度からの需要は一巡したわけですが、すべてのPCメーカーに共通しているのは、短期間に、大量のデバイスを配備し、その利用を開始するにはどうするかというように、オペレーションが優先されたところがあったという点です。
それに対して、今後の課題となってくるのは、教育での使い勝手をいかに良くするかといった点に加えて、効率的な運用や管理、コンテンツの整備、現場で指導する際のノウハウの提供といったことが重要になると思っています。
また、高校での導入や、一部の私立小中学校では、BYODによる導入が推進されているケースもあり、こうした動きは、家庭内において1人1台のPC環境を促進することにつながるとも言えます。
一方、シニア層に対しても、安心のブランドであることを生かした提案を強化したいと思っていますし、これまで以上に、若い世代に届くような取り組みも大切です。どんな使われ方や、購入のされ方をしているのかをしっかりと捉え、もっと使いたいと思ってもらえるための仕掛けを強化していきます。
――今後、NECレノボ・ジャパングループはどんな企業になることを目指しますか。
檜山 日本におけるレノボのブランドを、さらに高めていきたいと考えています。その土台となるのは、信頼できるブランドであり、ワクワクするブランドであり、安心して使えるフランドであり、また使ってみたいと思ってもらえるブランドであることです。
それは、PCを使いたいということでなく、なにかをやりたいというときに、使いたいと思ってもらえるPCであるということです。2023年4月から、新年度が始まりますので、その時点ではより明確な方針を示したいと思っています。
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