VUCA時代の事業変革に必要な「プロデュース力」:電通とDIがタッグを組んだ理由

DIGIDAY

「VUCA」と呼ばれる、予測不可能で不確実性の高い社会へのシフトが加速度的に進むいま、ブランドを取り巻く環境は、より複雑かつ多様になった。ブランドにとって、持続的成長に向けた事業変革は不可欠ではあるが、先行きが不透明であるがゆえ、万能なソリューションやメソッドはもはや存在しないのだ。

その状況下で、VUCA時代に適したビジネスプロデュースを行うべく、独自のケイパビリティを持って、顧客課題に向き合っているのが、マーケティング・コミュニケーションを担う電通と、戦略コンサルティングと投資を行うドリームインキュベータ(DI)だ。

2021年5月に業務提携した両社は現在、課題発見から事業創発、サービス開発・設計まで、バリューチェーン全体において顧客と並走することで、顧客企業の事業変革を進めている。パートナーである両社と、そして顧客とが、いわば「仲間」になることによって、価値創造の最大化が実現し得るという。

森氏と、ドリームインキュベータ執行役員の野邊義博氏は、11月1・2日に開催された、国内の有力ブランドが集うDIGIDAY[日本版]主催のビジネスカンファレンス「DIGIDAY BRAND LEADERS」に登壇。「VUCA時代の変革のために必要なことは?」と題したセッションで、両社それぞれが持つ資源をどのように掛け合わせ、持続的成長に向けた事業変革のためのソリューションを生み出しているのかについて語った。

本稿では、DIGIDAY BRAND LEADERSでのセッションとその後のインタビューを通じ、両社が実践する「VUCA時代に適したコンサルティング」について紐解いていく。

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VUCA時代を乗り越えるファクター

多くの読者にとって、電通は日本最大の広告会社であり、売上規模だけを見ても世界で五指に入るメガエージェンシーである。しかし、近年の電通はその認識と少し違ってきている。

企業や顧客の課題に対して、多角的なアプローチからグロースさせるためのソリューションを提供する企業へと変貌を遂げているのだ。電通の森氏は、現在の同社における立ち位置を「Integrated Growth Partner(IGP)」であると説明する。

「電通は、顧客企業と社会の持続的成長にコミットするパートナーとして、複雑化・高度化する企業課題から本質的な課題を発見し、独自の総合型ソリューション『Integrated Growth Solutions』を提供している」。


電通は単なる広告会社ではなく「顧客企業と社会の持続的成長にコミットするパートナー」であると話す森氏

現在は、事業全体の変革である「BX(Business Experience)」の支援から、顧客体験の変革である「CX(Customer Experience Transformation)」、広告の高度化・効率化である「AX(Advertise Transformation)」、そして「DX(Digital Transformation)」まで、統合的に課題解決に導く組織体へと、大きく変化しつつあるのだ。

それを強力に後押しするパートナーが、ドリームインキュベータだ。戦略コンサルティング企業とクリエイティブを重視するエージェンシーは、「サイエンスとアート」という志向性の違いから相性が悪いと指摘されることもあるが、「実は電通と、我々は性格が似ている(笑)」とドリームインキュベータの野邊氏は語る。

現在両社は、VUCAの荒波に漕ぎ出している多くの企業をサポートしている。目指すのは、「顧客の成長を通じて、日本経済と社会の持続的成長にコミットする」ことだ。そのためには変革が必要不可欠であるが、それには3つのポイントがあると野邊氏は話す。

1つ目が「健康と気力」。2つ目が「仕掛けていく姿勢」。そして3つ目が「仲間づくり」だ。


VUCAの時代においては、「テクニカルなスキルよりも人間力が求められる」と話す野邊氏

「大きくまとめると『人間性』や『人間力』のような力の重要性が高まっている。すでにナレッジはコモディティ化し、人材の流動性も高まっており、結局、事業変革のリーダーとして、誰が、どう実行するかが重要になっている。仕事柄、経営者の方々とお話しする機会が多いが、キレイな絵はあるけれど実行がうまくいかない、という悩みを伺うことも多い。不確実な状況下では、リーダーがどんな挑戦や意思決定をしても批判が社内外のあらゆるところから噴出する。ますますVUCAな時代になっていくからこそ、社会も社員も不安になっていく。さまざまなことの基盤として、リーダーが健康で前向きである必要がある」と野邊氏は語った。「そして、不確実で、不安で、難しいからこそ、諦めるのではなく、変化を起こす側に回り、仕掛け続けていくことが重要。1社でできることは限られてくるため、社内外の仲間を集め、一緒に挑戦していく必要がある」。

加えて森氏は、両社が協業する背景について、「何が最適解かわからないから時代だからこそ、より多くの答えを生み出せるよう、あらゆるナレッジを集める必要があった」とし、パートナーであるドリームインキュベータ、そして顧客とが、いわば「仲間」になることによって、価値創造の最大化が実現し得ることを強調した。

コンサルティング領域においても発揮される電通の「プロデュース力」

(左から)電通の森氏、ドリームインキュベータの野邊氏、電通ビジネスデザインスクエアの渕氏

セッションの後、電通の森氏、ドリームインキュベータの野邊氏、さらに電通ビジネスデザインスクエア BXディレクターの渕暁彦氏を迎え、より詳細な話を聞いた。そもそも、なぜ電通がコンサルティング領域の業務に手を広げているのか。そして、VUCAの時代になぜ「人間力」が、ビジネスにおける差別化を生むのか。

まず、電通にはこれまでのビジネスから、数千社とも言われるクライアントとの取引実績がある。加えて同社は長年にわたり、市場、いわば顧客に対するマーケティング全体へのサービス提供を行ってきた。

つまり、顧客に対してブランド価値を高め、よりよいイメージを作るにはどうすればいいか、という視点に立ってきた。それは特定のブランドを好む消費者になりきり、没入し、とことん考え抜く力といっても過言ではない。さらに、ただ迎合するだけではなく、第三者視点から前提となる「問い」をも疑っていく。その視点があるからこそ、コンサルティング領域においても、新しい「価値創造」という結果を導き出せるのだ。

実際、戦略コンサルティングでは、上流の戦略策定や効率化などを得意としているが、企業のToDoリストの上位に入る「新規事業」などについては、「正直なところ、それでうまくいっているかどうかというと、疑問符がつく」と森氏は疑問を呈す。「今、企業はサービスやプロダクトがコモディティ化していて、差別化しづらい状況にある。電通はマーケットや顧客目線に立つことが得意なので、現在起こっている課題を抽出できる。そこから未来の機会や需要を構想し、アプローチできる」。

森氏は電通の強みについて、さらにもうひとつのポイントを挙げる。

「我々はこれまで、マーケティング、デザイン、クリエイティビティといった強みを育んできたが、本当に強みなのは『プロデュース力』だ」。

電通は長年に亘り、数多くのクライアントに対して、さまざまなクリエイターと組み、タスクフォース的なプロジェクトを立ち上げ、課題に向き合ってきた。つまり、その課題を解決に導く「ナレッジを持つ人」を集め、特定のアプローチやフレームワークにこだわらず、チーミングし、ソリューションを提供してきた。つまり「プロデュース力」こそが、電通の本当の強みといえる。

新しい価値を生み出し、顧客のトップラインを伸ばす

電通は、顧客視点やプロデュース力を、ケイパビリティとしている。一方で、戦略コンサルティングのように、VUCAな時代における社会情勢を背景とした戦略策定や、特定の課題を解決できる優秀なボードメンバーを投入できる人材ネットワークの力は、不足していると自認する。

しかし、電通は自社のケイパビリティだけでコンサルティング領域を攻めていくとは、毛頭考えていない。あくまで顧客の課題に対して、最適なパートナーと手を結び、最高のソリューションを提供するのが目的だからだ。そのパートナーこそが、ドリームインキュベータである。セッションにおいて、「2社は似ている」と語った野邊氏だが、なぜ両社はシナジーを生み出せると考えているのか。

「我々の強みもビジネスプロデュースで、新しい価値を生み出し、顧客のトップラインを伸ばすことに対して、バリューを提供している。それに対して重要なのは、両社とも『余計なこと』『無駄なこと』でもたくさんトライして、たくさんの失敗を経験してきた点。電通もドリームインキュベータも、とにかくやってみる、動いてみる、という点で、似たカルチャーを持っている」。

顧客の課題に、常に同じものはない。つまり、新しい「価値創造」にはこれまでのノウハウやアセットだけでは通用しない状況になっている。そういった時代だからこそ、電通とドリームインキュベータの強みを活かせば、多くの顧客課題に応えられると自信を持っている。

ただ、同じ目線に立ちながらも、顧客へのアプローチは少しちがう。電通は、生活者の態度変容やパーセプションを捉えることを得意とする。一方で、ドリームインキュベータは主に社会課題などのメタな視点から、それが企業にどう影響するのかを考察する。

電通とドリームインキュベータによる顧客へのアプローチ。電通は生活者インサイト(図右側)から、ドリームインキュベータは社会課題など事業テーマ視点(図左側)から考察し価値創造を図る

社会課題は人のパーセプションを変え、企業の事業活動に対して中長期的に影響を与える。そういった違ったアプローチから戦略を立案し、センスメイクできるからこそ、双方のシナジーが生まれているのだろう。

VUCA時代の変革のために必要なことは?

現在両社は、VUCAの荒波に漕ぎ出している多くの企業をサポートする。目指すのは、「顧客の成長を通じて、日本経済と社会の持続的成長にコミットする」こと。それには変革が必要不可欠だ。セッションにおいて、その波を乗り越えるには3つのポイントが必要だと野邊氏は語ったが、真意を改めて聞いた。

野邊氏は、「企業を取り巻く事業環境は、内部及び外部ともに、今世紀始まって以来もっともVUCAな時代に突入している。中国やロシアといった国家の動向も不確実だし、気候変動問題や供給サイドの混乱、急速に進む働き方や組織の変化など、考えることは山積みな状況」といい、さらに、「企業経営において、株主の存在感が非常に高まっている。そのために、新規事業よりも既存事業の強化のほうにベクトルが向かいがち。しかし、新しい価値を生み出すには、本業とズレたことや、新規性のあるチャレンジをしないといけない」と話した。

電通の渕氏も、同様の景色を見ている。これまで企業の課題に対峙してきたが、企業のベクトルが変わってきたと、感じている。数年前は「非連続な成長」を目指すのが潮流だったが、現在は自分たちが保有するブランドや顧客などの「資産」を理解し、強みを活かして、隣接領域に「染み出す」ような成長をする企業が増えているという。

「野邊さんが指す『人間力』を言い換えると、生活者や顧客視点にもっとフォーカスするという意味にも捉えることができる。だからこそ、生活者視点で社会課題を捉え直し、バックキャストして新たな事業領域に染み出していくことの重要性が増していると感じる。『どの隣接領域に染み出すべきか』『領域をどう探索し特定するか』を、生活者視点を加味してサポートするのは、両社が仲間になった最大のシナジーであり、我々の価値だと考えている」。

両社の事業変革の推進力は、企業にとって大きな力となるに違いない。

森 直樹
株式会社電通
BXクリエーティブセンター エクスペリエンスデザイン部部長/クリエーティブディレクター/事業開発ディレクター

2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業及びイノベーション支援を手がける。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silverほか)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。「ad:tech Tokyo」公式スピーカーほか講演多数。

野邊義博
株式会社ドリームインキュベータ
執行役員

消費財/建設・住宅/メディア・コンテンツ/電機/自動車・自動車部品/素材・化学/総合商社/電力/石油等、様々な大手企業のビジネスプロデュース支援を手掛けると共に、中期経営計画策定や主力事業の再成長戦略の策定、技術の事業性評価や投資判断評価、営業組織改革、経営幹部候補育成等、様々な戦略コンサルティングPJも幅広く担当。DIのブランド・マーケティング活動の統括も兼務。

渕 暁彦
株式会社電通
ビジネスデザインスクエア 変革パートナーズ第1グループ部長
BXディレクター

BX領域を中心とした事業コンサルティング及びプロデュース業務に従事。BXアーキテクチャの設計、事業戦略・実行プランの策定などのコンサルティングと、価値創造プロセスの改革、業務基盤・事業推進スキーム構築などのプロデュースを行う。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(海達亮弥)
Photo by 原祥子(森直樹氏、野邊義博氏)

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