【中銀カプセルタワービルの中の人】最後のマンスリーカプセルを過ごした6人の “月極宇宙箱舟娘” たち

ロケットニュース24

中銀カプセルタワービル。建築家・黒川紀章が設計したメタボリズム思想の建築で、カプセルを積み上げたような独特の外観が特徴だったが、惜しくも今年の10月頭に解体され、現在は再生され、美術館での展示や泊まれるカプセルとしての準備が進んでいる。

筆者はひょんなご縁で昨年7ヶ月間住んでいたのだが、私と一緒に期間限定でカプセル生活を過ごした愉快な仲間たちがいる。その名も “月極宇宙箱舟娘” 。カプセル住人枠への10倍の競争率を勝ち抜いた猛者たちである。

・期間限定のマンスリーカプセル

「カプセルで実際に生活してみたい!」という熱い要望に応えた、1ヶ月間限定で住める大人気企画 “マンスリーカプセル” 。2018年にはじまり、のべ200名以上が利用。最後の2021年3月の29期へは、カプセル8枠に応募者が殺到し、競争率は10倍以上に!

あまりにも多かったのと、退去まで少し時間ができたということで、おまけの30期を作成。カプセルオーナーの前田さんいわく、「応募者の9割は女性から。本来は厳正な抽選ですが、カプセルへの想いを書かれている方が若干優位になった気がします。あくまでも抽選なんでw」とのこと。


・幸運のマンスリーカプセル30期

かくいう私も30期に加えられたのだが、私は応募ではなく別仕事の取材がきっかけであり、エグい競争率とは無縁の、棚からぼたもち枠だった。ラッキー!

さてここで、その激しい倍率をそれぞれのカプセル愛で勝ち抜き、しかも延長が重なって結果7ヶ月間住むことができた、30期のスーパーラッキーガールたちを紹介しよう。



・信頼と実績、しっかりものの “おかも” さん

みんなが頼りにしまくってる おかもさんは広島出身のWebディレクター。ガウディが好きでスペイン語の勉強をしており、フェス好きのランナーでもある。とてもしっかりしていて、やらかしたりしない信頼と実績の持ち主である。

キャンピングカーとかコンパクトなスペースにいろんなものが秘められているのが好きで、カプセル生活により、あえてチマっとした空間を自宅にも作りたくなったという。

おかもさんのカプセルはとにかく雨漏りが半端ない。ベッドの真横を水が落ちるのだが、本人は全く動じない。2021年7月の大雨でビル中が水浸しになる大惨事があったのだが、その時も自分のカプセルの雨漏りは物ともせず、他の雨漏りを録音するという強者だ。

おかも「7ヶ月にも及ぶと思ってなかったけど、振り返ると濃い時間。屋上でシャボン玉したり、フルーツポンチ食べたり。コロナ禍で銀座を楽しめないと思っていたけど、住人との交流や、通っている銭湯のおばちゃんと顔馴染みになったりして、とても楽しかった。トイレの水を流すたびに変な音が出るようになってもカプセルは愛おしい」


・みんなの憩いの食堂、フードライター “ふくい” さん

キッチンがなく火気厳禁というサバイバルな中銀カプセルタワービルで、貴重な手料理をふるまってくれたのが、自称くいしんぼうの ふくいさん。ネットや書籍に食べ物やお酒のことを書いているライターである。

ふくいさんのカプセルは、竣工当初からのオリジナルカプセルと違い、リノベーションしてある。そして丸窓以外にも開く窓があり、換気ができるとみんなの羨望の的だった。

ふくいカプセルは「ふくい亭」と呼ばれ、電気鍋やホットプレートでカレー、豚汁、餃子やたこ焼きなど、さまざまな料理を作ってくれた。カプセル生活を豊かにしてくれた恩人である。お酒が好きで、よく一緒にへべれけになった飲み仲間でもある。

ふくい「孤独な生活を楽しむつもりが、蓋を開けたら全然違っていて、感慨深かった。大人になってここまで他人と生活することはほとんどなく、すごく新鮮で、それを見逃さないために借り続けた感じがある。学生時代に青春をやってないので、これが青春的な何かだったと思う」


・aiboを愛する突撃娘 “わたち” ちゃん

メディア系の仕事をしている わたちちゃんは、愛犬aiboと一緒に2つのカプセルを経験。最初に住んだのは、無印良品とコラボした無印カプセル。ネズミがうるさかったため、延長のタイミングで別のカプセルに引っ越したが、引っ越し先のカプセルはトイレを直す作業中に水びたしになり、後々語り継がれる事件となった。

もともと建築や美術好きの母親が中銀カプセルタワービルを好きだったこともあり応募したが、いざ当選すると当の母親はドン引き。だが わたちちゃんは職場に近くて便利と、入居を決意。

タイトルにある通りの突撃娘で、驚くべき行動力により、いつも何かしらのイベントを企画してくれる。カプセル仲間で十條湯の貸し切り入浴を楽しめたのも彼女のおかげ。また、私と一緒にいろいろやらかすことも多く、オーナー前田さんの信頼と実績をほぼ失いつつある。

わたち「銀座はもともと母親とよく遊びに来ていた馴染みの場所。ウエストとか博品館とか。そこに戻ってきた気がして楽しかった。1番の思い出はなんといっても、カプセル水びたし事件!」


・建築愛がすごい、職人 “いまり” ちゃん

建設会社で設備系の仕事を担当している いまりちゃん。伝説のピンクカプセル復活の際、隊長として大活躍してくれた。職人気質というかクリエイターなる才能を発揮して、様々な作品を制作した。

代表作は丸窓サイズのクロスステッチ “編み戸” 。丸窓にクロスを貼り、2ヶ月かけて中銀カプセルタワービルを刺繍。出来栄えも素晴らしいのだが、なにがすごいってこれが初めてのクロスステッチだったこと!

いまりちゃんは大のゴキブリ嫌いで、よく私も退治におもむいたのだが、中でもちょっと素敵なエピソードがある。

ある夜、ゴキブリが出てカプセル住人にSOSを求めた いまりちゃん。駆けつけてくれた わたちちゃんと奥山さんとで、姿を消したゴキブリが出るのを、夜通し語り合いながら待ったが結局出ず。

ホテルに泊まると言い出す いまりちゃんを、わたちちゃんは自分のカプセルに泊まらせたという。なんとも修学旅行のような一晩で、何故その夜、自分がカプセルにいなかったか悔やまれる。

いまり「濃くて一瞬で、貴重な経験ばかり。作るわくわくが戻ってきた。周りの評価を気にせず、ただ作りたいように作って、それを周りが後押ししてくれる。小学生に戻った気分。そう思えるきっかけになるデザインが、中銀カプセルタワービルにはあちらこちらに散りばめられている気がする。そして、なんだかんだ自分は建築が好きなんだなって再確認できた」


・ラスボス “さちこ”

最後に紹介するのが、私たちがラスボスと呼んでいる さちこ。ちなみにこのあだ名も、サブちゃんとの二択で、小林幸子より命名した。想像のななめうえを行く行動で、いつも私たちを飽きさせない。私や わたちちゃんなんか足元にも及ばない、いろんな意味でのラスボスなのである。

さちこは都内在住の主婦で二児の母。元々建築系の仕事をしていて好きだったのもあり、とりあえず応募してみると、まさかの当選メールにオレオレ詐欺だと思ったという。

平日昼間の息抜きや、土日に子供と一緒に泊まったりとカプセルライフを楽しんだ。いろんなカプセルを楽しみたいと、さちこも2つのカプセルを経験している。

さちこ「コロナ禍でなかなか外出できない時期だったので、子供たちとのキャンプのようで楽しかった。住人との交流は、家族が2つあるようで面白かったし、自分が2人いたらもっとカプセルを満喫できたのになぁ」


・月極宇宙箱舟娘

全員が口をそろえる応募の理由は、「最後のチャンスだから」。そして見事に当選し、決して安くはない家賃を払い続け、それぞれのカプセルはあれど、ほぼ毎週、誰かのカプセルに集まり、一緒にご飯を食べる。

スイーツを買う日は、誰がカプセルにいるかLINEグループで確認する。銭湯の行き帰りですれ違う。1人でいたい時は、自分のカプセルで過ごす。そんな女子寮のような日々を過ごした。おそらくみんながいなかったらこんなに延長しなかっただろう。

カプセル退去後はみんなで 月極宇宙箱舟娘 という名前で活動もしている。Twitterで発信したり、10月には銀座一丁目にある歴史ある奥野ビルにて「回る~meguru~展」なる、中銀カプセルタワービルでの暮らしと奥野ビルを絡めた展示もした。

中銀カプセルタワービルがなかったら出会わなかった仲間たち。大人になって、こんな濃厚で、しかもすっぴんをさらしまくるコミュニティができると正直思ってなかったが、最後のマンスリーカプセルメンバーとして、共に過ごした記憶と記録を、形が変わっても紡いでいきたいと思う。

参考リンク:月極宇宙箱舟娘○中銀カプセルタワービル
執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

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