おでんの大根の、柔らかくてじゅわっと肉厚な感じ。そして、丸みのある形。あれを具材にハンバーガーを作ってみたらどうだろう。肉が胃に重い日にもちょうどいいハンバーガーになりそうだし、そもそも純粋にうまそうだ。
そこから発展し、おでんをあれこれバンズに挟んで食べてみるという試みを、とあるオンラインイベントでやってみたところ、これがとても楽しかった。
というわけで、おでんバーガー、あれこれ作ってみよう!
「おでんバーガーフェスティバル2022」と名づけます
この試み、「おでんバーガーフェスティバル2022」と名づけて、本気で取り組んでみることにした。
そこで簡単だが、レシピ制作のルールを決めておこう。
- バンズとおでんの組み合わせを考える。おでんは1種類でも、2種類以上使ってもOK。
- それに加え、レタス、トマト、チーズと、すべての調味料は自由に使用できる。
レシピは酒の穴のふたりにくわえ、漫画家のラズウェル細木先生、酒食系の企画を得意とするライターの泡☆盛子さん、担当編集の古賀さんという、3人の豪華ゲストたちにも考えてもらった。
シンプルなだけにセンスが問われそうなところ。それではいよいよ、「おでんバーガーフェスティバル2022」開幕!
バーガー感覚で食べてたら、だんだんもちになっていく
スズキナオ考案「もち巾着バーガー」
材料:もち巾着、バンズ、レタス、柚子胡椒
ナオ:
えーとまずは、まあ、無難ですが私のもち巾着から行きますか。
パリ:
はは。無難なのかな?
ナオ:
おでんバーガーに無難もなにもないか。
パリ:
けどまぁ、ネタのジューシーさという意味では期待値高いですよね。
ナオ:
ね。で、レシピなんですが、パンにもち巾着を挟んで、柚子胡椒をちょっとアクセントにしたいんです。
パリ:
柚子胡椒、よさそう。
ナオ:
レタスも使っていいんですよね。どうしよう、レタスは入れたほうがいいかな?
パリ:
いや、知らない。
ナオ:
ははは。知らないですよね。誰も知らない。パリッコさんちなみに、バンズはどうしました?
パリ:
ハンバーガー専用のバンズってのは見つからなくて、スーパーでなるべく丸いパンを買ってきました。
ナオ:
私も小さいパンに切れ目を入れてバンズ代わりにしようかと。まずはパンにレタスをのせて。
パリ:
もうなんか変。で、もち巾着。
ナオ:
そうですそうです。
パリ:
こういうことですよね?
ナオ:
そうそう。ははは。湯気がすごい!
パリ:
これは笑えるな、すでに。
ナオ:
食べてみますね。
パリ:
食べましょう。ははは。なんだこれは。
ナオ:
うん、なにかが……もっと味がいるかな。
パリ:
いる感じ。想像よりはるかに薄味ですね。いちばん、柚子胡椒の味がする。
ナオ:
そうか、バーガーだと思って食べるには、おでんって味が繊細すぎるんだな。まずくはないんだけど。
パリ:
バーガー感覚で食べてたら、だんだんもちになってくるのはおもしろいですけどね。可能性はまだまだ感じるというか。
ナオ:
食感はおもしろいんだけど、味が薄いと。いやでも、「もち巾着バーガー」がこれなら、他も同じなんじゃないかな。
パリ:
やばいかも。
ナオ:
でも、なんか少し味を足せばいいんだと思うんですよ。
歯が悪くても食べられるフィレオフィッシュ
パリッコ考案「はんぺんタルタルバーガー」
材料:ハンペン、バンズ、レタス、チーズ、タルタルソース
パリ:
あ! じゃあそれこそ、次の僕のいってもいいですか? はんぺんをメインに、チーズとタルタルソースを足そうと思ってるんで、ひょっとしたらあるかも。
ナオ:
それは期待できる。
パリ:
パンにレタスを敷いて、チーズをのせて、ここまではハンバーガーですよね。
ナオ:
このまま食べたいところだが。
パリ:
はんぺんをのせます。僕の、ちょうど丸いはんぺんなんで、かなりバーガー感がありますよ。そこに思いっきりタルタルを。
パリ:
これほら、「ドムドムハンバーガー」の新商品と言われたら信じません?
ナオ:
まあ、真っ白いバーガーって感じですね。
パリ:
食べてみましょう。うわっ食べづらいな!
ナオ:
はは。ひとつめの感想がそれ。食べてみます。あ、お、もう少しタルタルの味がいるなー。でも美味しい。
パリ:
おでん単体で食べるより魚の風味が強まる気がする。
ナオ:
私のほうは鍋でけっこう長い時間煮込んだからか、はんぺんがあまり主張しなくて、レタスとチーズの方が目立つぐらいで、でもやっぱりタルタルがいいですね!
パリ:
ふわっとしててね。
ナオ:
うん。ふわふわ食感。
パリ:
歯が悪くても食べられるフィレオフィッシュとも言えるかもしれない。いや、しかしあれだな、今「フィレオフィッシュ」という単語を発したら、猛烈にあの美味しさがよみがえりました。せめてこのはんぺんがフライになってたらなって思いますね。フィレオフィッシュってやっぱりすごいんだな〜。
ナオ:
だしとタルタルっていう味の方向性はすごく好きでした。ただ単にパンにおでんを挟んでも、パンのぶんだけ味がぼんやりしてしまうので、そこをタルタルなりなんなりで補うという。
パリ:
だからもう、完成されたハンバーガーの肉をおでんだねに置き換えるくらいの感じだと美味しいのかもしれないですね。ソースとかマスタードをきっちり使って。
むしろ存在感が消えている
古賀及子考案「ハニーマスタード昆布バーガー」
材料:昆布、バンズ、レタス、ハム、ハニーマスタード
パリ:
とすると、古賀さんのレシピは美味しいかもしれないですよ。ちなみに、我々のもとに届いたレシピがこちら。
「せっかくのフェスティバルなので、昆布を表舞台に立たせてやりたいです……。『レタス、ハム、昆布、ハニーマスタード』。これでどうでしょう!!
ハニーマスタードが面倒ですみません……はちみつ、マスタード、しょうゆ、マヨネーズでできます!」
ナオ:
やってみましょう。でもこんぶなんだよな。
パリ:
ははは。あとさ、一応用意したけど、ハム使っていいなんて誰か言いましたっけ?
ナオ:
はは。確かに。ハム好きとしてはこれはズルい。
パリ:
情熱が先行してる様子がよくわかります。特別に、ありとしましょう。だから、言ったら昆布はもう、だしがわりみたいな感じですよね。
ナオ:
昆布はこのルールをクリアするためだけに呼ばれてる。
パリ:
パンにレタス、ハム。この時点で美味しいサンドイッチなんだよな。なのにそこに昆布をのせる。
ナオ:
ははは。また見た目がおもしろい。
パリ:
いや、これ古賀さん狂ってますね。よし、いってみるか。ふふ……あぁ、理解が追いつかないな。
ナオ:
……いや待てよ。いいかも。
パリ:
まったくまずくはないですね。和風ハムサンドみたいなことなのかな?
ナオ:
確かに。この昆布が合ってないとかっていうことはぜんぜんないですよね。むしろ存在感が消えている。じゃあまあ、なくてもいいか。
パリ:
はは。そうなんだよな〜。
ナオ:
パンとレタスとハムとマスタードソースでもう美味しいですよね。
玉子サンドにはない“だし”の風味
泡☆盛子考案「たまポテバーガー」
材料:玉子、ジャガイモ、からし、バンズ
パリ:
我々の飲み友達で、お酒や食関連にはめっぽう強いライターの泡☆盛子さんは、ご連絡したらそっこうでふたつのレシピを考えてくれました。
「ぜひやってみたいのは、沖縄おでんに欠かせないてびち(豚足)と、くたくたに煮た青菜(レタス、空芯菜など)です。単体でも、合わせてもうまいはず! パンには和辛子を塗りたいですねー。あ、和辛子単体よりもマーガリンに練り込んだ方がいいかも!
もっと一般的(全国的)な方がよければ、おでんの玉子とじゃがいもを合わせてマッシュするたまポテバーガーもいけそうです。これはマッシュしたとこに辛子練り込みですね」
ナオ:
ひとつめは、沖縄出身の泡さんらしい「沖縄おでんバーガー」という感じですね。
パリ:
めちゃくちゃ美味しそうだけど、全国的にまねしやすいほうがいいだろうということで、今回はふたつめのほうを作らせてもらおうかと。
ナオ:
でもあれだな、おでんのじゃがいもと玉子をマッシュしたくない!
パリ:
はは。なぜかいけないことをしてる気分になる。構成は完全にポテトサラダなのにね。
ナオ:
でも、本当だ。おでんポテサラですね。
パリ:
これをパンに挟むと、もう玉子サンドですよ。
ナオ:
急に違和感が消えますね。お、うまい。
パリ:
あっさりしてるけど、美味しいですね。ふつうの玉子サンドにはないだしの風味に、ほんのりとからしのアクセントも効いて。
ナオ:
これ、ベースとして相当いい。柚子胡椒も合いそうですよね。
パリ:
合いそう合いそう! っていうか、ちょっとだけパサっとしてるじゃないですか。だからもう、マヨネーズも混ぜちゃっていいですかね? 柚子胡椒もいっちゃおうかな。勝手なことしてるけど。
パリ:
いやー、これ最強なんじゃないの? うまいうまい!
ナオ:
レタスのシャキッと感を加えてもいいでしょうね。
パリ:
うんうん。加えてみよう。あ! レタスうまい。
ナオ:
もうこれをレタスに巻いてそのまま食べようかな。パンいらなくなってきた。うん、めっちゃいいな。
パリ:
ははは。もうおなかいっぱいなんですよね。しかしこれ、家でおでんをいっぱい作った日に、じゃがいもと玉子をひとつずつ取っておけば、すぐに一品追加で作れますね。
ナオ:
本当ですね。味つけも工夫できそうだし。
意味が全然わからない
ラズウェル細木考案「ちくわぶバーガー」
材料:ちくわぶ、バンズ
パリ:
じゃあ最後に、ラズウェル先生のアイデアを試してみますか。
ナオ:
そうしましょう。
パリ:
ただ、このレシピだけちょっと例外的で。というのも、先日ラズ先生に飲みの席でお会いした時に「こんどおでんでバーガーを作るっていう企画を考えてまして、ちなみになにかアイデアありますかね?」って聞いて、その場で考えてもらったんです。
ナオ:
ほほう。
パリ:
だけど、酒の場のノリだから、「う〜ん、なにがいちばんバカバカしいかな〜……ちくわぶ!」っていう。
ナオ:
おもしろさオンリー。
パリ:
だから、「他にも調味料とか野菜とかも使っていいんですよ?」って聞いても、「いや、パンにちくわぶを挟む。それだけ!」って。
ナオ:
はは! かたくなに。つまり、ただちくわぶをパンに挟めばいいわけですね。
パリ:
ですね。ちくわぶは本当に好きだから、こんなことしていいのかなっていう気がしてくるけど。
ナオ:
そもそも大阪では、ちくわぶって見かけることがないんですよ。
パリ:
らしいですね。
ナオ:
よくテレビのネタになったりしてるぐらい。街頭インタビューで聞いても「ちくわぶ? なにそれ」みたいな。なので今回こっちでは用意できないかもと思ってたんですけど、スーパーに行ったら意外にもありましたよ。
パリ:
おお、よかった。
ナオ:
もしかしたらここ数年で認知度が上がったんですかね。2軒回ったスーパーのどちらにもありました。で、せっかく見つけたそれをパンに挟むと。
パリ:
わはは。
パリ:
さすがラズ先生っていうか、見た目はダントツにバカですね。誰が作ってもちゃんとバカな見た目になる。
ナオ:
ははは。まったくなんだかわからない食べもの。
パリ:
食べてみます。うわ〜、なんだこれ!
ナオ:
ははは。おもしろい。
パリ:
こんなおもしろいもの食ったことないですよ。意味が全然わからない。
ナオ:
なんか、禅問答っていうか。「食感とはなにか?」と問われているような。シャキッとさせない。ムニュにムニュを挟む。
パリ:
目隠しとかして「これはなんでしょう」って食べさせたら、発狂する人いるでしょうね。
ナオ:
わかんなすぎてね。ものすごいこわいなにかかなーとか。
パリ:
スイーツと勘違いする可能性すらある。
ナオ:
ちくわぶ自体がそもそも謎の多いものじゃないですか。それがパンに挟まってるんだもんな。これは、マスタードつけてみようかな。うんうん、味はより美味しくなるんですけど、歯ごたえがやっぱり未知過ぎる。
パリ:
マスタード味の謎の食べものっていう。でも、なかなかこういうものを食べる機会ってないじゃないですか。しかも、「おもしろいから試してみて?」って言われてやったわけじゃないから。いきなりやらされてるから。貴重な体験ですよね。
ナオ:
最前線に立ってますからね。
パリ:
いや、でもいいオチになりましたよ。
おでんバーガー考案はプログラミング
「青森おでんダレのこんにゃく&白滝バーガー」
パリ:
と、前の段落のところまででいったん取材は終わったんです。が、後日ですね、ラズウェル先生からまさかの「やっぱりちゃんと考えてみまました」というご連絡があり。
ナオ:
はは。家で我に返ったのかな。
パリ:
そもそも、こういうお題に対して答えるプロですもんね。しかも、日本屈指の。そのプロ魂に火をつけてしまった。そこでここからは、追加取材ぶんになります。届いたレシピがこちら。
ナオ:
なんと、イラストまで!
パリ:
豪華すぎますよね! しかも、ぜんぜん知らなかった「青森おでんの定番つけダレ」なんていうチョイスが、さすがとしか言えません。
パリ:
これ、試しにちょっと、そのままのこんにゃくにつけて食べてみたんですが、めちゃくちゃうまかった!
ナオ:
ね! 簡単だし。これだけでいい情報ですよ。
※より詳しいレシピはこちらのサイトなどでご確認ください。
パリ:
どうでした?
ナオ:
いや本当に美味しかったです。しょうがみそを塗ることによってこんにゃくが肉っぽくなる。
パリ:
ね。こんにゃくなのにここまで満足感が出るとは。弾力も、他の食材とのバランスとあいまってちょうどいいし。
ナオ:
手でつかんでいざ食べようと思った次の瞬間、こんにゃくがぶりんって飛び出したので、トマトの上に板こんを置くと滑るという点は注意してほしいですが。
パリ:
はは。スリップ注意!
ナオ:
白滝のほうも試したのですが、そっちはさらにしゃくっとした歯ごたえがよくて最高でした!
パリ:
うん。食感がものすごく複雑でね。だから極論、ハンバーガーの美味しさって、野菜やチーズが多層的に重なった美味しさなのかなと、身もふたもないことを思ったりもしました。メインの具材って、そのひとつでしかないというか。でもやっぱり、しょうがみそが効いてた。
ナオ:
味とか歯ごたえの要素の組み合わせをラズ先生がすごく考えてくれているのが伝わってきて、プログラミングみたいなところありますね。「これとこれでこれが発動する美味しさ」みたいな。
パリ:
あのちくわぶバーガー発案者とは思えない。
ナオ:
はは! 確かに。
予想以上にさまざまな発見と、未知の経験、意外な美味しさに出会う結果となった、第1回おでんバーガーフェスティバル。
今回の経験をふまえれば、さらなる絶品おでんバーガーレシピの考案も可能だろう。早くも、おでんバーガーフェスティバル2023の開催が楽しみだ。
ちなみに、スズキナオの翌日の昼食は「あまったおでんのこんにゃくたちとトマトと残りもののカレーを使って作ったラーメン」だったそう。パリッコ宛に送られてきたその写真と感想は、
ちなみに、冒頭で触れたオンラインイベントの動画はこちらのサイトに残っており、今からでも購入が可能(酒の穴、古賀さんの各書籍とのセットの他、動画単品もあり)。
スズキナオ、パリッコ、古賀さんの3人で2時間ほど、主にデイリーポータルZの記事がいつもどのように作られているかというような裏話を中心に話していますので、ご興味があればぜひ。