パブリッシャーの広告チームにとって、2022年のホリデーシーズンは見通しがそれほど明るくない。広告主が2022年の予算未消化分をいつ、どこで使うのか決めかねているようだからだ。パブリッシャーは、プログラマティックのターンキー型ディスプレイ広告を増やす方向に舵をとり、恩恵を受けている一方で、広告キャンペーンの展開に関しては、スピードも質も、これまでの当たり前よりも高いレベルを求められている。
ボックスメディア(VoX Media)の四半期セルスルー率は、予算投入が遅かった影響を受けていないものの、第4四半期の結果がわかるのは通常よりも遅くなる予定だ。「11月と12月にどうなるのかは、9月・10月ではなく、10月・11月にならないとわからない」とボックスメディアの最高収益責任者(CRO)であるライアン・ポーレー氏は話す。
主なポイント
- 第4四半期広告予算消化には広告主の迷いが見られるが、パブリッシャーのプログラマティック広告と直販のディスプレイ広告といった事業は、そのばらつきの恩恵を受けている。
- あるメディアの役員曰く、「この四半期は今まで経験したことがないほど過酷」。
- 広告インベントリーの増加は、パブリッシャーにとって、長いリードタイムが必要ないターンキー型広告キャンペーンの売上を伸ばすためのソリューションのひとつ。
これまでになく短い営業サイクル
今回のテーマでインタビューしたパブリッシャーは誰もが、この2カ月、営業サイクルが実質的に半減していると声を揃える。平均で、90日から6週間に短縮しており、ポーレー氏によれば、新型コロナのパンデミックを彷彿させるという。とくに直販のディスプレイ広告や動画広告のようなターンキー型広告スポットの場合には、準備期間がさらに短いものもある。
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グローバルメディア企業のインサイダー(Insider)でCROを担うマギー・ミルナモー氏は、具体的に広告主の名称は明かさなかったが、「10月上旬に提案依頼書(RFP)を送りつけ、その週のうちに広告を流したい、遅くても2週間後には始めたいと言い出した顧客は1社、2社ではない。それに、これまでも付き合いのある顧客でも、四半期ごとに計画を出している」と話す。
インサイダーでは、キャンペーン期間も通常より短く、これまでは2、3カ月もしくは複数四半期にわたって流していたキャンペーンが、今期では2週間から4週間しか時間の余裕がない。
パブリッシャーのプログマティックは好調
メディアバイイングに特化したエージェンシー、メディア・トゥ・インタラクティブ(Media Two Interactive)のCEOセス・ハーグレイブ氏によれば、同社の顧客は四半期の初頭ですぐに結果の出る広告も選ぶが、プログラマティックのプライベートマーケットプレイスとプログラマティックの確実なディールを利用した、プログラマティック広告も好んで選ぶという。これは、政治広告の関係で、利用可能なコネクテッドTV(CTV)とストリーミングのインベントリーの量が激減しており、残ったスポットのCPMが高騰しているからだ。
広告費の使われ方から判断する限り、ハーグレイブ氏は「パブリッシャーは概ね、現状の恩恵を受けているはずだ」と話す。しかしながら、この状況が続くのも、米国中間選挙までのあと1週間程度だろうと同氏はいう。選挙が終われば、CTVはこれまでのマーケティングミックスに戻ると予測される。
IPG傘下のエージェンシー、UMワールドワイド(UM Worldwide)の米国担当最高マーケットプレイス責任者であるステイシー・スチュワート氏が10月25日のDIGIDAY Podcastでインタビューに答え、今のところ、顧客のなかには予定していたプロジェクトの予算を削減し、すぐに収益をもたらす可能性の高いローワーファネルのオプションを増やそうとする企業もあると話した。
「広告予算の大半は用途が決まっている。使われるのは柔軟性の高い広告だ。いずれにせよこの時点では、予算の大半は用途がすでに決まっている」とスチュワート氏。
一方、すべてのパブリッシャーが2022年の残りの予算争奪戦に参加しているわけではない。たとえば、ベッチェスメディア(Betches Media)は今年2022年に成長を見せており(CROのデビッド・シュピーゲル氏によると、収益全体で前年比40%増)、この第4四半期は、営業で1ドルでも多く絞り出さなければならないという状況ではない。実際、2023年の長期キャンペーンに着手する余裕もあり、そうなると、今後の取り組みは第4四半期の数字に反映されない。
「予算が25万ドル(約3500万円)以上ある顧客の場合、更新料は、顧客全体のベースラインを超えるどころかその倍になる。私はCROなので、収益の長期戦略として、取引額の大きな顧客を中心にしたいといつも考えている」
比較的安価な広告インベントリーが増加
米DIGIDAYが今回話を聞いたほとんどのパブリッシャーは、この第4四半期は売れ残った広告インベントリーが多いことを気にしていないと話したが、パブリッシャーのなかには、これから年末までの約2カ月で購入可能なターンキー型広告スペースの量を増やしているところもある。
匿名が条件で話してくれたパブリッシャー役員によると、同社のニュースレターは広告数と種類を増やすだけでなく、ポッドキャストのエピソードごとに単発から2回、もしくは3回広告が入るミッドロール広告のスポット数も増やしたという。
「私たちはニュースレター重視の企業に注目し、ニュースレターをいかにして無駄なく活用し尽くしているのかをチェックしている。なかには、とても参考になるものもある」と同役員は話す。つまり今後は、マストヘッド広告の利用やネイティブ広告の融合に加えて、有料プレースメント広告などスポンサー広告スポットを伴う商品レコメンデーションモジュールも選択肢に加わることになる。
「翌年のスケールアップを図ることが極めて重要」
新興メディアのアクシオス(Axios)は11月2日、インサイダーがこれまで有料記事(ペイウォール)を執筆してきたライターのうち、60人に無料記事を書かせる予定だと報道した。こうして、トラフィックを増やし、広告を売るためのインベントリーをさらに生み出していくという。インサイダーのCROミルナモー氏はDIGIDAYに、今回の決断は広告事業を重視したものではなく、サブスク事業の戦略的な一手だと話した。購読契約につなげられないコンテンツや有料記事などの収益を増加する方法を模索しているという。
「何百万人もの人たちに、こうした記事を読んでもらうことは不可能だ」とミルナモー氏。だからこそ、これは「広告を増やす取り組みではなく、翌年のスケールアップを図ることであり、わが社にとってはそれが極めて重要だった」という。
ボックスメディアでは、広告スロットをウェブページやポッドキャストに追加したり、広告リロードの頻度を増やしたりしてできあがったインベントリーは、今四半期の年末に向けた予算獲得戦略の一環ではないとしている。その一方で、同社CROのポーレー氏によれば、収益チームは編集チームやECチームと密接に連携を取り、通常の準備期間よりも早いスピードで、ギフトガイドやホリデーパッケージのスポンサーシップを売り込んでいるという。
「たとえばホリデーギフトのガイドスポンサーシップで、1週間半後にローンチしなければならないキャンペーンの話がくることもあり得る。その場合重要なのは、厳しい納期にあわせて皆で取り組むことだ」とポーレー氏。「話が決まったときには、キャンペーン開始まであまり時間がない可能性があるため、これまでよりも少しばかり準備を前倒しして進めている」という。
[原文:Media Briefing: How publishers plan to attract in-quarter ad spending]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)