Amazon、「動画広告が簡単に作れる」新ツール開発:TikTokへの予算流出を食い止めるねらいも

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

Amazonは、自社の中核のeコマースビジネスが停滞するなか、好況の広告ビジネスを成長させるため、新しい動画広告ツールに賭けている。

Amazonは10月26日、同社のunBoxed 2022カンファレンスで、さらに多くの広告主が動画広告を試してもらうための新しい広告ツールを公開した。これには、売り手が動画広告のクリエイティブを簡単に制作できるようにする、新しいスポンサーディスプレイ広告の動画クリエイティブ(Sponsored Display Video Creative)が含まれている。さらに、eコマース大手である同社は、動画広告のテンプレート作成ツールである動画ビルダー(Video Builder)のパブリックベータ版プログラムの拡張も開始した。売り手は動画ビルダーを使い、すぐに使用できるカスタマイズ可能なテンプレートによって、スポンサーブランド広告やスポンサーディスプレイ広告のキャンペーン用動画を10分以内で追加コストなしに制作できると、Amazonは説明している。

広告主の動画作成をより簡単に

Amazonは数年前から、動画広告を次第に重視するようになり、デスクトップや商品の詳細ページなど、エコシステムのより多くの分野で動画広告を使用するようになった。現在の同社の目標は、広告主が動画を簡単に作成できるようにすることだ。広告の専門家は、動画広告は、ブランドが動画を使って行えるストーリーテリングの種類の性質上、多くの場合にコンバージョン率とクリックスルー率が高くなることを認めている。しかし、これらのツールが導入されたのは、同社にとって重要な時期でもある。新商品を見つけるのにTikTokを利用する人々が増えており、これらのツールは、広告資金がバイラルな動画プラットフォームに流れ込むことをAmazonが食い止めるための方法になり得る。

米国アドバタイジング・セールス(U.S. Advertising Sales)のバイスプレジデントを務めるタナー・エルトン氏は、米モダンリテールとの対談で次のように述べた。「この事実から、動画広告が当社の広告主すべてに利用可能になることは、誰にでも理解してもらえると思う。これまではコストやアセット開発の難しさなどから、多くの広告主にとって課題となっていた動画クリエイティブを、Amazonのオーディエンスによって実現できるのだ」。

Amazon Adsは、ストリーミングTV広告ソリューションの新しい機能改良もベータテスト中で、従来型のリニアなテレビキャンペーンと比較して、自社のストリーミングTVによる広告に、どれだけ新しい異なるリーチがあるかを測定できるよう、各ブランドにインクリメンタル世帯リーチ指標を与えている。

上述のスポンサーディスプレイ広告のほかに、Amazonの既存の動画広告機能にはスポンサーブランド広告やスポンサーディスプレイ広告、ストリーミングTVの広告が含まれる。そしてAmazonは現在、これらの新しい動画機能を、自社のメディア商品全体にわたって統合しようとしている。同社はすでにいくつかの強力な動画プラットフォームを所有しており、特にビデオゲームのストリーミングサイトであるTwitchは、同社が2014年に現金9億5000万ドル(約1430億円)で買収したものである。

「同社は、消費者が動画コンテンツを消費するときに目を引きたいと考えている。そして、同社がこれまで開発してきたプラットフォームすべてで使用できる広告スイートを開発するのは、同社にとって自然なことだ」と、成長マーケティング企業のアカディア(Acadia)で小売マーケットプレイスサービスのシニア有料メディアマネージャーを務めるロス・ウォーカー氏は述べる。

検索特化型からの転換

Amazonは過去数年間で、デジタル広告の世界でFacebookとGoogleに次ぐ業界3位の地位を固めてきた。同社の広告ビジネスは、そのマーケットプレイスの成功と、テック競合他社にはアクセスできない貴重な顧客データから、恩恵を受けてきた。

新しいスポンサーディスプレイ広告の動画クリエイティブや動画ビルダー・ツール(Video Builder Tools)で同社が作り上げようとしているのは新しいメディアではなく、広告主が動画を簡単に作り出せるようにするための道具だ。

Amazonのエルトン氏は、昨年のプライムデー(Prime Day)のデータを引用し、スポンサーディスプレイ広告について、キャンペーンでの広告の費用対効果が16%増加し、関連オーディエンスへのリーチも3倍に増加したことに言及している。また同氏は、ワイゾール(Wyzowl)によるサードパーティー調査で、顧客の70%以上は購入を決定するときに動画の影響を受けたと回答したことも指摘している。そして、顧客の86%は、自分たちの購入の行動に動画が直接的な影響を及ぼしたと回答した。

ブランドが動画エディターやビデオグラファーに出資することなしに動画の広告を作成できることは利点だが、同じフォーマットのコンテンツを何回も見せると顧客がブランド疲れを起こす恐れがあるとウォーカー氏は警告する。「テンプレート化された動画ビルダーを使用すると、当然同じコンテンツ、同じスライドショーを何度も繰り返し見せることになる。顧客はすぐに、このような広告に注目しなくなるだろう」と同氏は述べる。

ウォーカー氏は、動画ビルダーが「少々遅かった」と感じているが、「各ブランドが動画のコンテンツを望んでいる」ことから、依然としてホワイトスペースを埋めることになると見ている。

新しい測定ツールについて、「ほとんどのブランドはAmazonでストリーミングTV広告を実施していないため、有益ではないだろう」と同氏は述べている。

パターン(Pattern)で広告担当アソシエートディレクターを務めるチャンドラー・プライス氏によれば、Amazonの最新ツールは、これまで検索に特化してきた同社の広告戦略の転化を示している。パターンは収益においてAmazon最大の売り手のひとつだ。

「Amazonの広告は伝統的に強く検索グリッドに特化しており、積極的にショッピングを行っている消費者の前に広告を提示できるよう、適切な場所とタイミングを重視していた。ある意味で、動画はこの方向性からの転換であると私は考えている。動画はストーリーテリングの配置の要素が強く、これまで同社から目にしてきたのとは多少異なる広告への方向性だ」と、プライス氏は述べている。

「減速は考えられない」

Amazonは最新の四半期について、広告部門の利益が18%増加し、87億5000万ドル(約1兆3000億円)に達したと報じた。一方で、同社のオンライン店舗からの収益は第2四半期末の時点で4%減少し、508億ドル(約7兆5200億円)になった。昨年Amazonは広告で310億ドル(約4兆5900億円)の収益を達成した

「人々が動画に注目されるべき理由は、突き詰めれば、我々が確認したエンゲージメントの程度に集約される。動画のエンゲージメント率は高く、これは消費者を別の方法でサポートするためのインフラを増築していることを意味すると、私は考えている」とプライス氏は述べる。

最終的には、Amazon Adsが全体的にイノベーションを続けていくことで、ベンダーも動画広告においてイノベーションを経験し続けるだろうと、エルトン氏は語る。「この分野の成長が近い将来に減速するとは考えられない」と、同氏は付け加えている。

[原文:Amazon Briefing: Amazon is doubling down on its video advertising offerings]

VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

Source

タイトルとURLをコピーしました