大手エージェンシー、クライアントへの Web3 教育に注力:「これが正しい選択なのか、まさに賭けが行われている」

DIGIDAY

Web3。その分散型アプリケーションの採用を推進するべく、エージェンシー各社はクライアントと従業員に向けた教育とメトリクスを最優先に取り組んでいる。

電通から広告世界第3位のピュブリシス(Publicis)まで多くの関係企業が、暗号資産、非代替性トークン、メタバースプラットフォーム、ゲームなどさまざまな分野で、自社製品の拡充やテストを行うためのWeb3専門の部署を設置している。小売、自動車、金融、医薬品開発製造サービスは特に注目の分野だ。現在、エージェンシーはクライアントとのWeb3ビジネスのチャンスを見据え、双方がそれに備えるためのロードマップと安全基準を作成している。

Web3、つまり分散型インターネットというビジョンが実際に何をもたらすのか、そこに参加するにはどうすればよいのかを、いまだ理解できずに苦労している消費者がいかに多いかを考えれば、こうした動きは理にかなっている。消費者インサイトを扱う企業トルーナ(Toluna)によると、人々はWeb3がメインストリーム化することに期待と興味を寄せているが、その言葉の意味を正確に理解している人はわずか24%だった。またそのうちで、Web3の概念が「しっかり理解できている」人は1%にすぎず、71%は「部分的に理解している」、27%は「あまり理解できていない」と答えている。

Web3センターを新たに開設

電通などの大手企業は、教育とガバナンスに取り組み始めている。11月3日、同社はメディア企業デクリプト・メディア(Decrypt Media)と提携を結び、従業員とクライアント向けの教育プログラムを提供するためのWeb3センター・オブ・エクセレンス(Web3 Center of Excellence)を初めて立ち上げると発表した。このセンターの焦点となる3つの柱は、教育パートナーシップ、新しい技術とプラットフォームを網羅した実験的試み、そしてガバナンスで、これはブランドと消費者の安全、知的財産、クリエイターの所有権に関するものである。

Web3でのチャンスを探ろうと、ゲームやその他のサービスを通じて試行しているエージェンシー持ち株会社のひとつが電通だ。たとえば、クライアントのビール醸造会社ハイネケン(Heineken)とともに、VR(仮想現実)プラットフォームのディセントラランド(Decentraland)上でバーチャルビールを醸造するという実験的試みを開始した。電通インターナショナルのグローバルソリューション担当プレジデントのジェフ・グリーンスプーン氏にとって、今の状況は、Web3をめぐる報道のヘッドラインから「一歩引いて」みることでより理解を深め、今後こうしたテクノロジーがもたらすかもしれない変化に備えるための大切な時期である。

グリーンスプーン氏はDIGIDAYに対し、「今後10年間にWeb3への転換と変革が起こると信じるのであれば、そのためのインフラを構築し始める必要がある。今だけの一時的な大騒ぎではない」と話している。「単に、先端テクノロジーとか、最新のエクスペリエンスが生み出せる技術、というだけのものではないのだ」という。

電通はWeb3センターを活用して、メディア、クリエイティブ、カスタマーエクスペリエンス・マネジメントの分野で働く世界各地の約6万人の職員に対し、Web3に関するトレーニングを提供するバーチャルラーニング・プログラムを試験的に運用する予定だ。11月第1週に開設された内部プラットフォームには、ケーススタディやプレイブックから深く掘り下げるためのハックやランチミーティングで学ぶプログラムなど、20種以上の学習教材が用意されている。またクライアント向けに、NFTやメタバース戦略についてのトレーニングとサポートも提供されており、その多くはパートナーであるメタ(Meta)、米半導体大手のエヌビディア(Nvidia)、ゲーミングプラットフォームを提供するロブロックス(Roblox)などのNFTスタジオやプロデューサーによって制作されたものだ。

クライアント向け教育の提供

ピュブリシス・メディア(Publicis Media)もまた、ニューヨークにある旗艦店を再現したバーチャルストアをディセントラランド内にオープンし、すでにメタバースの世界に足を踏み入れているサムスン(Samsung)など、いくつかののクライアントと協働している。ピュブリシスはこれまで、リニアTVや広告付きまたは広告なしの環境を超えて手を広げるため、プロダクションやWeb3およびAPXコンテンツベンチャーを構築してきた。ピュブリシス・メディアの最高コンテンツ責任者であるエリック・レビン氏によれば、同社ではWeb3について、この盛り上がりのあとは「後退期間」に入ると予測しているという。

レビン氏はさらに、2021年にFacebookの親会社がブランド名称をメタに変更した際、ピュブリシスにはクライアントからメタバースに関する要望が殺到したとも話している。同社はこれにクライアント向け教育の提供で応え、メタバースに有意義なかたちで参入するための最良の実践モデルを作り出した。またクライアントだけでなく自社チームに対してもこうしたプレゼンテーションを100以上も実施した。

「このようなミーティングを重ねるなかで、この業界はあっという間にゼロから100まで拡大してしまったのだということが明らかになった。そしてクライアントも消費者も、自分たちに理解可能なやり方で手を引いてもらうことを求めているのだとわかった」。そうレビン氏は語っている。「当初この業界は複雑すぎて、大半の人にとってあまりに高い障壁だった。だからわれわれは一歩戻って、どうやってするのか、なぜするのかということを、示さねばならなかった」。

同氏によれば、現時点でWeb3の使用状況とメトリックはソーシャルエンゲージメントに絞られているという。Web3のコンテンツやエクスペリエンスや商取引は、いずれは技術の進歩とともにより統合されたものになっていくだろう。すでに多くのVR用ヘッドセットや、その他のMR(複合現実)やゲームのデバイスが、消費者の手元に届けられている。

「だがわれわれのパートナーと話をしてみると、Web3は彼らのロードマップのなかに非常に明確に描かれているのだ」とレビン氏はいう。「わが社が独自にメタバーススタックを構築してきた理由のひとつはそこだ。われわれがその世界で意味のあるエクスペリエンスを作り上げていくなかで、クライアントと消費者にとって考えうるすべてのシナリオが想定できているかを確認するためだ」。

また、ピュブリシスはクライアント向け教育のためにさまざまなWeb3リソースも開発してきており、それらはこの業界に参入して日が浅いクライアントと「既成の枠を超えたい」と期待するクライアントの両方の目的に合うように作られていると、レビン氏は語っている。そして、「クリエイター、アーティスト、ディベロッパーにとって潜在的なチャンスは明るい材料になる」と述べ、ピュブリシスは今後さらにエンターテインメントにおけるエクスペリエンスに力を入れていくと付け加えた。

メタバースのゴール地点に照準

ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)のインタラクティブエージェンシーで、ピュブリシス・メディアとは兄弟会社となるレイザーフィッシュ(Razorfish)は、最近、メタバースでの没入型エクスペリエンスや製品の創作、試作、実行を含むWeb3サービスの提供を拡充した。レイザーフィッシュのCEOであるジョシュ・カンポ氏は、今すでにこれを試用しているブランドは、今後利用が拡大するにつれて優位に立つことができるだろうと話している。

「メタバースがまだ草創期にある今こそ、ブランドは試行・学習・実験の場としてこれを活用するときだ」とカンポ氏は語っている。「今後数年でメタバースの利用が広がったときには、ブランドエクスペリエンスを生み出すための最良の道筋をすでに確立できているので、インパクトのある形で消費者にリーチすることができるだろう」という。

ほかのメディアやクリエイティブエージェンシーも同じようにクライアントと協力し、Web3で何を目指すのか――NFRを通じたトランザクションに重きを置くのか、メタバース上のより広範な目標を目指すのか――を見極めようとしている。フルサービスのMRを手がけるエージェンシーであるトリガーXR(Trigger XR)によれば、同社のクライアントは、ブランドとパフォーマンスマーケティングを組み合わせることができたり、既存の顧客にメタバース上の追加的価値を与えられたりといった、全面的な小売のエクスペリエンスを模索しているという。

だが、トリガーXRの創設者でCEOのジェイソン・イム氏は、「彼らが知るべきは、NFTとブロックチェーンは取引の中心をなすプログラムにのみ使用されているということだ」と話している。「ブロックチェーンでゲートが設定された行先やNFTは、利用者に抵抗感を生じやすいので、従来のマーケティングキャンペーンには勧められない。一般消費者にとっては到底越えがたい高い障壁である場合が多いからだ」という。

プロモーションやマーケティングキャンペーンのためにメタバースを利用したソリューションには投資する価値があると、イム氏は強く主張する。統計調査データを提供するプラットフォームであるスタティスタ(Statista)によると、AR(拡張現実)やその他のメタバースのコンポーネントを使って、ブランドは物理的な資産とデジタル資産を構築でき、世界中の約66億台ものスマートフォンにリーチできる可能性があるという。

「メタバースでの没入型エクスペリエンスではエンゲージメント時間がはるかに長くなるが、それでも投資価値を生み出すには、ロブロックスのような、大規模なオーディエンスとエンゲージメント数を持つプラットフォームが必要になるだろう」と同氏は話している。

まさに「賭け」のようなもの

だが、Web3の話となると、巨大企業でさえもいまだに参入を躊躇している。電通のグリーンスプーン氏によれば、結局のところ、分散型の概念やWeb3プラットフォームはまだ実証されていないものが多いのだという。だがそれでもこの分野は新興業界であり、電通もほかの企業も、没入型エクスペリエンスやテクノロジーとクライアントが求めるものとのあいだでバランスをとりながら、賭けを続けていくだろう。

「われわれは、Web3を試しそこから学ぶために正しい選択ができているか、確かめる必要がある」とグリーンスプーン氏は語っている。「今まさに賭けは行われており、これからも続けていくつもりだ。だが同時に、今後われわれは長期にわたってハイブリッドの世界に生きることになるだろうとも認識している。Web2.0からWeb3へと、一夜にしてすべてが切り替わるわけではないのだから」。

[原文:Agencies focus on educating clients about Web3 as their demand grows
Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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