アディダス、このブランドが気になる読者も多いだろう。
IPG傘下のメディアエージェンシーUMが発表した最近の調査で、社会的意識の高いブランドは、同じ価値観を持つメディアに広告を出していると、消費者の購買意欲がはるかに高くなることが明らかになった。逆にいうと、誠実性、公平性、持続可能性といった特質を重視しないブランドが、それを重視するメディアに広告を出したところで消費者の購買意欲は高まらない。
この10月第3週に開催されたAdvertising Weekで、UMがフューチャー・インパクト(Future Impact)を発表した。今回の調査では、生活用品ブランド(UMの顧客以外のブランドも含む)やメディアパートナー、社会的な価値観を持つ消費者を無作為に集め、そこから被験者5000人を抽出し、意識調査を実施した。その後、組み合わせをモデル化し、結果の予測、決断をもたらす原因の分析、シミュレーションツールの作成に取り組んだ。このシミュレーションツールを利用すると、要因の変更が可能になり、社会的な価値観の増減で消費者の購買意欲がどのように影響を受けるのかがわかる。
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調査結果の重要なポイントは以下のとおり 。
- 社会的意識の高いブランドが、同じ価値観を持つメディアパートナーに広告をだしている場合、消費者の購買意欲は2倍以上に。
- ブランドが誠実性、公平性、持続可能性の3つの価値観をすべて体現している場合、消費者の購買意欲は75%上昇。
- 誠実性と持続可能性という価値観を支持し、同じ2つの価値観を示すメディアに広告を出すブランドは、消費者の購買意欲が最も効率的に上昇。
- 社会的責任の数値が低いブランドは、数値が自社よりも高いメディアパートナーに広告を出すだけでは結果が伸びない。結果を伸ばしたいのであれば、ブランド自らビジネスを進化させ、社会的価値に対して真摯に取り組むことが不可欠。
取り組みのフェーズ2は、依然として初期段階だが、UMでは今回の調査結果を自社のメディアバイイング・プランニングのプロセスに取り入れることを目的としている。たとえば、データスタックに組み込む方法やグローバルに展開する方法も その一部だ。
このたび、UMでリサーチ・アナリティクス担当シニアバイスプレジデントを務めるディノ・ミティディス氏に、今回の調査のきっかけやそこから導き出された結果、さらには今後のフェーズで何を目指すのか、話を聞いた。
分量と読みやすさを考慮して、このインタビューには編集を加えている。
◆ ◆ ◆
――「社会的責任のあるメディアに広告を出す社会的意識の高い広告主」というテーマに関して。はじめからこのテーマに着目しようと考えたのか、それとも、ほかの件で気になったため、着目することにしたのか? あるいは、顧客から要請があったのか?
そもそも私たちが取り組んでいた問いは、「消費者は責任あることが重要だと感じているのか」だった。本当にそこまで重要なのか? 当時、「責任」はいろいろな方法で測定されていた。どの結果も、回答は同じだ。「はい、消費者は重要だと考えています」。しかし、どうも釈然としなかった。その回答が、ビジネスではどのような意味があるのかわからなかったからだ。広告主やパートナーのメディア、もしくはその両方が、責任ある態度を取らない場合、果たして消費者は違う選択をするのだろうか。
その問いに答えるため、私たちはこの調査を始めた。本来の設計はPoC(概念実証)だった。当時、こういったメディアプランニングツールを作るつもりではなかったのだが、現在ではツールに進化を遂げたといっていいだろう――これはメディアプランニングにおける意思決定の過程に必要なものだ。当初の研究調査のおかげで得られた知見である。
――「広告主とメディアが似たような社会的意識を示している場合、購買意欲が2倍になる」というコンセプトをしっかりと証明されたようだが。
広告主が広告を出すメディアパートナーが、広告主の基準をはるかに上回る大きなインパクトを与えるとは予想だにしなかった。広告業界にしてみれば、広告の場所を変えるだけで、それ以外は一切変えなくても購買の動向に影響を与えられるのだから、うれしい驚きだ。メディアパートナーが責任ある企業であるという違いだけで、そのほかはまったく同じでも、消費者の変化と購買意欲が確認できるはずだ 。
ただし、注意しなければならないことがひとつある。現時点では、「どこが責任ある企業なのか」「どこが責任ある企業ではないのか」「規模はどの程度なのか」を見極められる適切な方法、客観的な方法がない。それが、私たちがフェーズ2に向けて取り組もうとしている課題であり、メディアパートナーを徹底的に調べる方法を模索している 。消費者は、客観的な方法がないという現状を忘れてはならない。
フェーズ2が完了し、 購買意欲に上昇傾向が見られれば、メディアパートナーには「注視するのは2つではなく、1つだけでよい」と発破をかけられる。メディアがすでに責任ある企業ならば、自社が責任ある企業だと消費者にアピールさえすればよいからだ。もし責任ある企業でないのなら、社会における責任を高めてから、消費者に周知すればよい。
――なるほど、フェーズ2でこのコンセプトをメディアバイイングとメディアプランニングに取り入れるはそういう理由なのか。ちなみに、これはUMもしくはIPGの顧客に限定されたものになるのか?
まだフェーズ2の最初のインタビューを始めたばかりなので、これから大きく変わっていくはずだ。とはいえ、第1の目的は、ブランドよりも、メディアパートナーについてよく理解することだ。私たちのメディアパートナーすべてをしっかりと理解しなければならない。大手もそうだが、規模の小さなメディアパートナーも決して見過ごせない。というのも、小規模なパートナーのなかには、規模が基準に達していなくても、社会的意識のスコアが比較的高いところがあり、そういうメディアパートナーは影響力があるからだ。
その一方で、顧客の消費者ベースに特化したものにすることが第2の目的だ。今回のデータセットを弊社のデータスタックに加えれば、私たちが顧客のマーケティング対象として選んだオーディエンスに対して、どうすればメディアパートナーが彼らの心をつかめるのか理解できるようになる。たとえば、このアプローチを利用すると、各顧客にとって最も価値があると判断されたオーディエンス用に、メディアパートナーの個別ランキングを用意できる。私たちが今実際に取り組んでいるのがまさにそれだ。
――何か特に驚くようなことは?
予測していなかったことはいくつかあるが、今回の調査では、責任ある行動として6種類のメトリクスを捉えており、それを誠実性(たとえば「偽りがない」)・公平性・持続可能性という3つのグループに分けた。そこから分かったのは、広告主やメディアパートナーが、そのうちのひとつだけに固執している場合、購買意欲の傾向は私たちが予測していたほど見られなかった。しかし、3つのグループの2つもしくは3つすべてで改善が見られ始めた途端、購買意欲が大きく伸び始めた。なぜこの結果が出たのか原因を突き止めることはできなかったが、消費者は私たちが考えている以上に賢いということだろう。おそらく間違いない。
[原文:Brands, want better purchase intent? Advertise on media that share your values]
Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)