大手パブリッシャーで進む、アドテクベンダー排除の動き:失うことのマイナスは最小限

DIGIDAY

いつかパブリッシャーがアドテクベンダーを使わなくなるかもしれないという「仮定」は、かつて笑えるほど実現から遠いものだった。そのような考えに言及されることがあるとすると、主にパブリッシャーたちに有利な条件を確保するための交渉の戦略であった。現在では、この考えは単なる交渉フレーズではなく、明確な意味を持って議論されている。

たとえばブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)がそうだ。数年前までは、同社のようなパブリッシャーが、コンテンツレコメンデーションのアドテクベンダー経由で得ていた収益を捨てることなどは考えられなかったし、ましてや公然とその考え(ベンダーが不要だと)を言及することなど有り得なかっただろう。

しかし、それがまさに10月初めに起きた。同社はアドウィーク(AdWeek)に対し、タブーラ(Taboola)を廃止したことを明らかにした。ブルームバーグ・メディアは、同社のサイトから広告を通してトラフィックをリダイレクトさせることと引き換えに多額の収益を得ていた。

低品質な広告を排除し、より読者に寄り添う

「『オーディエンスファースト』の精神をサポートし、信頼できるブランドパートナーが世界で最も影響力のあるリーダー的存在になるための最適な環境を構築する、現代的なデジタル体験の開発に大きな一歩を踏み出すことを最近、決定した」と、ブルームバーグ・メディアのCEOスコット・ヘブンス氏は10月24日ブログに投稿した。「ユーザーのためのよりよいエコシステムを作りたい。広告の量と広告がリクエストされるスペースを減らすことで、コンテンツの消費が容易になり、プラットフォームの速度を向上させる」。

その理論的根拠は、タブーラのような低品質の広告を扱うベンダーを除外することで、より多くの購読者を獲得し、維持することである。広告にあまり依存していない一部のパブリッシャーたちにとっては、これはシンプルなことだ。パブリッシャーによっては、広告に依存するあまり、消費者にとってベストではないと理解していてもアドテクベンダーと提携しなければならない。依存していないパブリッシャーという存在はもちろん希少だが、数は増えている。

「コンテンツレコメンデーションを展開するベンダーに関して、我々は(利用を停止するための)独自のプロダクトを構築している」と、ヨーロッパのとあるパブリッシャーのデジタルディレクターのひとりが、匿名を条件に米DIGIDAYに語ってくれた。この件は繊細な内容であるため、匿名を希望した。「(ベンダーが提供する)低品質の広告を扱うことができなくなったので、サードパーティを切り捨てた」。

「夢のような性能」は、本当に夢だった

これらは明確に計算された戦術だ。一部のパブリッシャーにとって、タブーラのようなベンダーはかつてほどの収益源となっていない。結果として、それらを失うことのマイナス面は最小限である。ここに問題の核心がある。こういったアドテクの仲介業者のなかには非常に重要なものもある。しかし、業界が持つ不透明性につけ込んで入り込んできた企業もたくさんある。パブリッシャーにとっての問題は、自分達のサイトから利益を得ているベンダーたちが、本当にパブリッシャー、そして願わくば広告主にちゃんと価値を還元していることをどのように保証するか、にある。すなわち、ベンダーが自分達にとって補完的か競争的かを判断することである。

「バイサイドとセルサイドの両方に対応する企業を利用したかったため、ブランドセーフティベンダーとの提携を打ち切った。実際のところ、注目していたのはバイサイドのみだったのだが」と、匿名を条件にあるニュースパブリッシャーのデジタル責任者は述べた。このアドテクベンダーの名前が推測できる危険性を考慮して、匿名を希望した。

少し前までは、この状況は違った展開を見せていただろう。ブランドセーフティベンダーを切り捨てるという選択肢はパブリッシャーたちにはなかった。パブリッシャーたちが正確な指標やブランドの安全性に関するシグナルを提供できるとはマーケターたちも信じていなかった時代だ。ブランドセーフティベンダーは基本的に広告主の代理人であった。

現在、その影響力は一部のパブリッシャーに戻ってきている。これらのパブリッシャーに関しては、ファーストパーティのデータに基づいて精選されたオーディエンスを提供しているため、マーケターもますます頼るようになっている。

メディアコンサルタント会社ADZストラテジーズ(ADZ Strategies)の創業者、アレッサンドロ・デ・ザンシュ氏は「販売するプロダクトが広告枠ではなくメディアである、という前提に基づいてビジネスを調整する高品質なパブリッシャーの数は増えている」と述べた。これが起こると、パブリッシャーとアドテックベンダーとの連携のダイナミクスが変わる。彼ら(質の高いパブリッシャー)はこれらの企業により大きな影響力を持つことができる。アドテクベンダーによってパブリッシャーに売られてきた「夢のような性能」は、実際は本当に夢であった、とパブリッシャーたちは気付きつつある。そのため、アドテック企業たちを取り巻く事態の深刻さが増している。

「一度設定して、あとは放っておく」に日々は終わり

この状況がパブリッシャーにとってどのようなものであっても、本格的なアドテク廃止とはならないだろう。(アドテクベンダー経由の収益は)儲かる事業であることに違いはないからだ。起きているのは、パブリッシャーがコントロールできないベンダーを淘汰しているという事態だ。

公平を期すために言えば、何年にもわたってそのようなことをしてきたパブリッシャーたちもいる。しかし、それ以外の企業にとっては、こうした努力は常にメディア事業運営の厳しい現実において大きな変化を及ぼさない小さな非生産的な取り組みに見えた。

隠れて発生しているコストに注意しなければ、収益のギャップを埋めるのに役立つパートナー(つまりアドテクベンダー)と提携した方がいいと思えるからだ。これが、これまでのパブリッシャーのやり方だった。しかし今は異なる。

「一度設定して、あとは放っておく」で済んだ日々はもはや、一部のパブリッシャーにとっては遠い過去の話だ。彼らは、ファーストパーティのデータを行使できるプレミアムなオーディエンスを持っていることを示すために、できる限りのことをする必要がある。そのため、広告ビジネスに対してより多くのコントロールを獲得しなければならない。多くの場合、それはオープンマーケットプレイスとその一部であるベンダーへの露出を管理することを意味する。

自ら動き始めたパブリッシャーたち

このような取り組みを行なっているパブリッシャーは増えている。たとえば、フランスのニュースパブリッシャーであるル・モンド(Le Monde)は、昨年夏に独自の同意管理プラットフォームを構築したほか、広告主のデータ管理プラットフォームを兼ねた購読者向けの顧客データプラットフォームも用意している。

別のパブリッシャー幹部は、DIGIDAYに対し、自社のDSPにすべての広告在庫を収めることを検討していると語った。ボックス・メディア(Vox Media)とミニット・メディア(Minute Media)は今年初めに独自のSSPを構築した。

DPGメディア(DPG Media)には独自のトレーディングデスクがある。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やハースト(Hearst)、ビジネスインサイダー(Business Insider)のドットダッシュ(Dotdash)などは言うに及ばず、長年にわたって在庫を再販するアドテクベンダーとの関係を断ち切った企業もいくつかある。

[原文:Why some of the largest publishers are breaking up with ad tech middlemen

Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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