地方取材恒例の「タクシーでお勧めグルメを聞く」というシリーズ。今回私は広島に来ているが、久しぶりにやってみることに。広島といえばお好み焼き。
しかし、お好み焼きは春に「みっちゃん」を食べている。ということで、今回はあえて「お好み焼きではないもの」を攻めることに。さっそくタクシーの多いスポットにて運転手たちに問い合わせてみたところ……えっ、それってどういう……?
・無い
「無いよ」
「無いですねぇ」
「ちょっとわかりません」
「お好み焼き以外で? うーん……」
10台ほど聞いて回ったが、返ってくるのは一様に「無い」という返答……! もっとあるだろ広島民!! 牡蠣とか牛とか魚がよォ!!!
いやまあ、私もPRの仕事で県の担当職員から聞いて知ったわけだが……広島県さん、県が推してる名産品を県外にPRするのもいいですが、その前に県民の間での存在感が薄い可能性ありますよ?
・条件緩和
無いんじゃ仕方が無い。条件を緩和して、お好み焼きもアリで。日々市内を走り回るタクシーの運転手たちなら、きっと何か穴場的なウマいお好み焼き屋を知っているかもしれない。
お好み焼き屋をOKにしたら、秒で「それならあります」と。お好み焼きしか人権無いんかここは。
どこに行くのか聞くと「お好み村」という場所だという。観光客はとりあえずそこですよみたいなノリである。
・微妙
しかし美味しいんですか? と聞くと、急速に不穏な展開に突入した。
運転手「うーん、美味しいとは思いますよ?」
妙に歯切れが悪い。
私「もしかして食べたことは……無い?」
運転手「いやぁ、観光客の方がよく行かれる場所ですからねぇ」
私「……」
運転手「……」
急速に漂い始める微妙な空気。えっ、行ったことないというか、何か微妙そうな店勧められてる?
私「ちなみに、運転手さんが通われているお好み焼き屋はあるんですか?」
運転手「それはありますよ。家の近くにね。美味しい店があるんです」
私「えっ、じゃあそっちに連れて行って下さいよ」
運転手「実は私、家が北の方でして。ちょっと遠いんですよね」
私「なるほど?」
運転手「あっ、もう着きますよ」
私「えっ」
こうして微妙さが極まった感じのまま到着。ぶっちゃけ歩いて来ても良かった距離だった。
「お好み村」とは、ビルの中に複数のお好み焼き屋が何件も入っている的な感じのスポット。とりあえず全てのフロアを散策してみたが、かなりガラ空きである。
何件かお客さんが入っている店もあったが、会話内容的に100% 外からの観光客だ。地元民の利用客はいなかったと断言できる。
んーーーーーーーーーー、これは駄目だ。このままここで食っても、広島民から冷笑される糞記事になる気配しかしない。
何かもっとこう、知られざるお好み焼き事情が隠されている気配がする。こうして、ネタを一旦保留して東京に戻ったのが2022年の3月のこと。
・再調査
そして10月。再び広島に降り立った私は、このお好み焼き問題に再度取り組むことに。
タクシーの運転手以外にも、具体的にどこの誰かは大人の事情で伏せるが、広島事情に関する詳しさや出身のバックグラウンド等、全てにおいて広島レベルがガチな複数の業界人にお好み焼き事情について聞き込みを行った。
今回もまずは、お好み焼き屋でどこに行くべきかと聞くところからスタート。すると、3月に乗ったタクシーの運転手同様に、6割方「お好み村」を勧められた。残りは「みっちゃん」とか、その他の観光サイトに載っている有名店だ。
では、実際にそれらの店で食ったことがあるのか? 自分は食いに行くのか? と問うと、100%返ってくるのが、自分ではほぼ行かないという答え。なんなら行ったことが無いケースも多数。
最初のタクシーの運転手と全く同じである。どうやら、あの運転手が微妙に塩対応だったわけではなさそうだ。きっとこれが、この問答になった場合の広島民の標準的ムーヴなのだろう。
ごく少数ではあるが、「お好み村」に行ったことがある広島民を見つけることができた。聞くと、 “普通に美味しい” のは間違いないとのこと。ただしちょっと高いそう。
そして、”普通に美味しい” のは確かだが、やはり地元民はまず行かないという。行ったことが無い地元民が多くても、それは全くおかしくないとか。
ウマいなら行くやろ? 遠慮してウマいって言ってるんじゃないんか!? ええんやで? 匿名だし、マズいと思ってるならマズいって言っても……と追及するも、マズいということは無いという。
さらに言うと、元祖な店の1つ「みっちゃん」も「お好み村」ほどではないが、似たような立ち位置だという意見すら聞かれた。
私が行ったときは行列ができていたが、「観光客じゃないですかね?」という感じ。聞き取りを行った広島民のうち、市内に勤めるガチ広島民の1人に至っては「みっちゃんは食べたこと無い」と。マジかよ……!
・真相
いよいよ深まる広島のお好み焼き事情の謎。ウマいと思う店でも食べには行かない。元祖で、実際に行列ができている店にも行かない。じゃあお前ら、どこでお好み焼き食っとるんじゃ!?
もしかして広島県民は、実はお好み焼きなど食ってないのでは? そんな疑惑すら湧いてきたところで、ついに真相に近いと思しき情報がもたらされた。
その広島民によると、広島には観光客が思っている以上にお好み焼き屋が多いという。「ラーメン屋は見つからないが、お好み焼き屋はその辺にある」という発言も。
それは市内に限ったことではなく、周辺のエリアでもその通りなのだという。どこもちゃんとウマいため、家の近くで自分の好みにぴったり合うお好み焼き屋を確保できるのだそう。
そんなに お好み焼き屋だらけなのかよ……。では、広島民の多くは家の近くに、いわば “マイお好み焼き屋” を有している……ということですか?
そう聞くと「そんな感じでもおかしくないですね」とのこと。そういえばタクシーの運転手も、家の近くにウマい店があると言っていた。
この広島民も、いつもは近所にあるお馴染みのウマい店に行くという。「わざわざ市内でお好み焼きを食わない」という発言も出た。
市内の店は観光客等で混んでいたり、高かったりするからだそう。そして、県外民にお勧めを聞かれた際に、有名店や「お好み村」を勧めるのは「近所のローカル店を出すのは違う気がするから」だそう。
それについてはわからなくもない。恐らく行きつけの店は小さい個人営業とかだろうしな。私も家の近所に行きつけの最強にウマいラーメン屋があるが、お勧めのラーメンを聞かれてその店を教えるのはなんか違う気がする。
それならショッピングモールにある、”普通に美味しい” 有名チェーンを教える。大規模なアンケートを行ったわけでは無いので確証は無い。しかし、これが私1人の調査で得られる最も真相に近い答えな気がする。
広島には、あまりにもお好み焼き屋が多く、だいたいがウマい。ゆえに広島民は、十人十色のマイお好み焼き屋を家の近所に有している……と。
そして自分じゃ行かない市内の店をお勧めするのは、近所のローカル店の名前を出すのは違う気がするから……と。
どれほどの お好み焼き屋密度があれば、そんな状態になるのか? 東京基準だと中々想像ができない。全ては広島のお好み焼きガチ度が思っていた以上にヤバいことに起因していた説。
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.