ファッションブランドは店舗戦略を全面見直し中。店内での試着体験の向上も【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

新たな消費者習慣とビジネスニーズに対応するため、ファッションブランドはパンデミック前の店舗戦略を全面的に見直している。

迫り来る不況にもかかわらず、買い物客が熱心に店に戻ってくるにつれて、ブランドは実店舗の役割を更新している。共通の目標は、より多くの顧客だけでなく、従業員も惹きつけ、店舗をマーケティングおよびロジスティクスツールとしてさらに活用することだ。ブランドはそれを達成すべく、大都市の旗艦店を優先することをやめ、従業員を「スペシャリスト」や「スタイリスト」に昇格させ、店舗の在庫をeコマースチャネルと共有し、利益を上げることに加えて顧客を獲得する能力で店舗の成功を評価するようになっている。

モールから撤退し、ローカライズされた小規模店舗を展開

創業42年のエクスプレス(Express)は、長らくショッピングモールブランドとして知られていたが、ティム・バクスター氏がCEOに就任し、エクスプレスウェイ・フォワード戦略を打ち出したことで、2020年初頭から店舗改革モードにある。それ以降、全店舗の合理化および最適化計画を大きく前進させてきた。2021年末までには、不採算店100店舗を閉鎖するという目標を達成している。バクスター氏によれば、そのほとんどは「低層のモール店舗」だったが、マンハッタンにある3店舗も含まれており、ニューヨークのタイムズスクエア店とシカゴのミシガンアベニュー店を残すのみとなった。閉鎖した店舗は当時契約更新の時期だったとバクスター氏は述べている。

それ以来エクスプレスは、人通りの多い場所に品揃えをローカライズした小規模な店舗を中心とする、エクスプレスエディット(Express Edit)と呼ばれる新たな店舗モデルを展開している。9月には、ニューヨークのソーホー地区とフラットアイアンの近くにエクスプレスエディットを2店舗オープンし、10月14日にはボストンのにぎやかなニューベリーストリートにも1店舗オープンした。11月中旬までには、フィラデルフィアのウォールナットストリートに1店舗、マイアミに2店舗をオープンする予定で、合計11店舗のエクスプレスエディットを展開する。

バクスター氏によると、エクスプレスエディットの店舗は、「近隣住民のために特別に選ばれた、オピニオンメーカーのような場所」に設置されている。たとえば、ボストン店は、ラルフローレン(Ralph Lauren)、H&M、セフォラ(Sephora)の店舗からすぐの場所にあり、ソーホー店は、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)、ルルレモン(Lululemon)、アリツィア(Aritzia)などの小売店に囲まれている。

「現代的な男性や女性なら、あの(ソーホーの)ブロックで買い物をしている」と、彼は語った。

新規店舗には多額の投資を行わない

エクスプレスにとって、目標は店舗数を減らすことではなく、より業績のよい店舗を持つことであり、新しいエクスプレスエディットの店舗は閉店した店舗を相殺することになるだろう。

「長らくニューヨークでは、広大なスペースを持つというトレンドがあった」とバクスター氏は言う。「しかし、ニューヨークでの我々の新しいフォーマットは、はるかに小さなフォーマットだ。途方もない費用をかけることなく、マンハッタンで失われた売上のいくらかを取り戻すことができるはずだ」。

エクスプレスが過去に行ったように既存の店舗の根本的な改装や「建築家を雇って特別な店舗デザインを考案させる」ために多額の投資をするのではなく、新店舗には意図的に「途方もない額の資本を使わない」ようにしていると、バクスター氏は述べた。各店舗は、共通の什器などのディテールで一貫したルック&フィールがある。さらに店舗を広範囲に変更することは、近隣地域の雰囲気に店を合わせるという同社の意図に相反することになるという。

8000平方フィート(約743平方メートル)というエクスプレスのソーホー店は、4000平方フィート(約372平方メートル)の典型的なエクスプレスエデイット店よりは大きいものの、「マンハッタンではまだ小さい」と彼は述べた。

店舗を単なる販売チャネルとみなす時代は終わった

先週Glossyポッドキャストのエピソードを収録中に、アンタックイット(Untuckit)の創業者クリス・リッコボーノ氏も、ニューヨークのような大都市に大型店舗を持つことがお金を奪っている件についてコメントしている。「大都市では人がいないため、当社の店舗は苦戦している」と彼は話した。「シカゴ、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストンのダウンタウンでは、多くの場合、地域が悪い方向に変わってしまっている。立ち直るまでには時間がかかるだろう」。

しかしバクスター氏もリッコボーノ氏も、店舗のもつパワーを引き続き全面的に信頼していると強調した。「今後50年、100年、200年と続くブランドであるためには、店舗が必要だ」とリッコボーノ氏は言う。「利益の観点からみて店舗が何をするかということだけではない。我々も店から出荷しているし、店舗はマーケティングにもなっている。実店舗は終わったと言う人がいるたびに、笑ってしまう」。

店舗を単なる販売チャネルとみなす時代は終わった。バクスター氏は、小売業でよく言われる「4つの壁による利益」という基準は、エクスプレスの店舗にもまだ適用されるが、店舗は「もっと高い目的のためにある」と述べている。これには、エクスプレスのライフスタイルを伝えること、ブランドのコミュニティが集まる場所に存在すること、顧客を獲得することなどが含まれる。エクスプレスエディットの買い物客の約半数は、初めてエクスプレスを利用する顧客であり、エクスプレスの顧客の大半は、最初に店頭で買い物をしている。「顧客獲得単価を考えると(当社の店舗は)信じられないほどの投資だ」と彼は言う。一方、オンラインでの顧客獲得単価は高止まりしている。

店内での試着体験や顧客サービスの向上

エクスプレスの店舗は広告塔であると同時に、ソーシャルコンテンツを盛り上げている。同社のアメリカン・ドリーム・モール、ペンシルバニア州キング・オブ・プラッシア、ダラスの店舗では、試着室の外にあるベルベットの壁の横に置かれた大きなバンケット席をインスタグラマーたちが活用している。すべてのエクスプレスの店舗では最近、より快適に座ってくつろげる場所を設けるようになった。

試着室に関していえば、店内での試着体験を向上させることが、エクスプレスの優先事項だ。新しく改装した店舗の試着室には、別のスタイルが必要なときに店員に知らせるためのコールボタンが設置されている。また、照明の設定もカスタマイズでき、買い物客は「昼間の光」または「クラブで」その服を着用した様子を確認することができるとバクスター氏は言う。希望に応じて店員主導のスタイリングセッションが受けられるように、広めの試着室も1、2室設置されている。スペースが許す限り、試着室のエリアにレジを設置し、急いでいる顧客に迅速に対応できるようにしている。

エクスプレスの店員は、一流のカスタマーサービスを提供すると同時に、スタイリングのサポートにも力を入れている。各店員に「万能型」になるよう指示するのではなく、エクスプレスでは店員たちにそれぞれ特定の役割を持たせている。たとえば「スタイリスト」の店員もいれば、完全にオペレーションを専門とする従業員もいる。バクスター氏は、同社の店員をインフルエンサーにたとえ、エクスプレスの店舗には「カーダシアンレベルのフォロワー」がいて、年間1億2000万人の顧客が訪れると指摘した。

アンソロポロジー(Anthropologie)のグローバルCEOトリシア・スミス氏は、「いつもやってきたのと同じような方法で、店舗に人員を配置することはできない」と同意を示した。アンソロポロジーは、店舗に専任で交代制の「オムニ・フルフィルメントチーム」を導入している。この考えは、売り場で接客する従業員が、オンライン注文の発送など、新しいオムニチャネルのToDoに気を取られないようにするためだ。

リッコボーノ氏によると、アンタックイットのオムニチャネル機能で、現在では店頭在庫の約20%がオンライン顧客に発送されるようになったという。

最近、店舗のアップデートを発表した他のファッション企業には、Jジル(J.Jill)TJXビクトリアズシークレット(Victoria’s Secret)などがある。

デジタルと実店舗の両方に注力

エクスプレスの店の収益が、少なくともパンデミック前の水準に戻ったと報告したバクスター氏と同様に、デザイナーのニリ・ロータン氏も今週、自身の名を冠したブランドであるニューヨークの単独店舗に「勢いがある」と話す。これはパンデミック以降、人々が「自分を甘やかして気ままにやりたい」と思っていることに起因していると彼女は考えている。一方、パンデミック中に急増したeコマースビジネスは減少傾向にある、とバクスター氏は指摘した。

バクスター氏は、店舗への駆け込み需要が定着するかどうかを疑問視している。エクスプレスはデジタルと実店舗の両方の販売を優先させる方針のまま、2024年までに10億ドル(約1492億円)のeコマース需要を促進するという目標を維持すると彼は話す。両チャネルに注力すれば、将来的な小売業の大改革に備えて対応できる。さらに彼は「当社の最高の顧客は、複数のチャネルで買い物をしてくれる顧客だ」とも述べている。

エクスプレスの2022年第2四半期の業績は、売上高が46万5000ドル(約6940万円)で、前年同期比2%増となった。エクスプレスの店舗とeコマースによる比較小売売上は横ばいで、小売店舗は6%増、eコマース需要は6%減となっている。

[原文:Fashion Briefing: The great store refresh is on]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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