最近話題となっているスキンケアサブカテゴリーは、オーバーザカウンター(以下OTC)である。
ビューティブランドのOTC市場への進出の背景
酒皶、乾癬、湿疹用のOTC製品は従来とは異なるOTCスキンケアブランドからますます注目されている。そのようなブランドは、現時点ではユーセリン(Eucerin)、セラヴィ(CeraVe)、アビーノ(Aveeno)のようなレガシーブランドに支配されているこの一大カテゴリーを革新するチャンスだと考えている。ジョシーマラン(Josie Maran)、ジ・インキーリスト(The Inkey List)、バブル(Bubble)、リップケアブランドのイオス(Eos)などのプレステージブランドやマステージブランドは、2020年以降OTC分野に拡大している。OTCとは、(解熱鎮痛剤の)タイレノール(Tylenol)や(抗アレルギー薬の)ベナドリル(Benedryl)のように特定の症状を対象とする有効成分を一定の割合で含んでいる非処方薬を指す。湿疹用局所薬には有効成分が1%のコロイドオートミールのものもある。このカテゴリーに新規参入しているブランドは、皮膚の状態に対する有効成分は全体的に同じであるにもかかわらず、既存の治療法よりも優れており、よりクリーンで革新的な処方であると主張している。従来のビューティ市場が混雑するにつれて、ビューティブランドは既存カテゴリーや製品の品揃えを過飽和状態にすることなく売上を伸ばす新しい方法を模索しているのだ。調査会社のインサイトパートナーズ(Insight Partners)によると、皮膚科のOTC医薬品市場は2021年の155億ドル(約2.3兆円)から2028年には213億ドル(約3.2兆円)に成長すると予測されている。
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ジ・インキーリスト
ジ・インキーリストは9月、スーパーソリューションズ(Supersolutions)という新カテゴリーでOTC製品5点をローンチした。どの製品も25ドル(約3700円)以下で、ニキビ、湿疹、乾癬、酒皶用である。スーパーソリューションズはセフォラ(Sephora)のオンラインと店舗、ジ・インキーリストのeコマースサイトで販売されている。セールスポイントはどの製品もほかのスキンケア製品やメイクと一緒に簡単に使えるという点である。
ジ・インキーリストの共同創業者兼主任化学者のマーク・カリー氏は、同社の24時間年中無休のチャットサービスであるアスクインキー(AskInkey)で顧客から受けた質問に基づいてスーパーソリューションズを開発することにしたと語っている。
「当社のようなブランドは消費者の生活のほかの側面について考えているが、(OTC製品を製造している)ヘルスケア企業が必ずしも同じように考えているとは限らない」とカリー氏。「使う人が理解して良い体験が得られるように治療向け製品を使えるようにしたいと我々は考えている。OTCスキンケアであろうとほかのスキンケアであろうと、重要なのはコンプライアンスだ。(製品は)頻繁に、そして一貫して使われるのだから」。カリー氏によると、ジ・インキーリストはスーパーソリューションズがじきに売上の10〜20%を占めるだろうと予想しているという。
製品と販売の機会という点で、ジ・インキーリストにとって結果として生じる機会は重要である。カリー氏によると、同社は規制の変更に応じてさまざまな成分や製品フォーマットを展開することができ、ほかの原料をOTCスペースに「開放」することができるということだ。その一例には、食品医薬品局(Food and Drug Administration)が2016年にOTCのニキビ治療のためにディフェリンゲル(Differin Gel)0.1%を承認したことが挙げられる。当初、この薬は1996年にニキビ向けに承認された処方箋専用の薬だった。
コーデックスビューティ
コーデックスビューティはニキビ、湿疹、乾癬、酒皶などのOTC皮膚症状にますます注力しているため、最近コーデックスラボズコーポレーション(Codex Labs Corporation)としてリブランディングした。この決定は同社がニキビ製品の臨床試験を実施したことから生まれた。創業者CEOのバーブ・パルダス博士によると、同社は皮膚科ブランドへと進化しているといるという。2023年3月に発売される最初のOTC製品はニキビ用である。
パルダス博士は次のように語っている。「当社の(製品ローンチの)ロードマップを見て、次のOTC製品は湿疹、乾癬、酒皶向けだと思った。ビューティ企業と呼ばれることにはもはや意味がない。また、(当社の製品は)全米乾癬財団(National Psoriasis Foundation)と全米湿疹協会(National Eczema Association)から認定証を得た。それが今の我々のコミュニティだ」。
そのコミュニティは大規模であり、ブランドらが収益を伸ばす絶好の機会を提供している。米国皮膚科学会によると、米国では750万人が乾癬を患っており、酒皶は1600万人に影響を及ぼしており、生涯で10%の人が湿疹を発症するという。湿疹は最大で子どもの25%、成人の約3%が患っている。2009年の創業時に湿疹向けの製品を開発したファーストエイドビューティ(First Aid Beauty)は、大手コングロマリットのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)への売却に成功した。ポートフォリオの拡大のために皮膚科ブランドや臨床ブランドに目を向けるブランドが増えるにつれ、そのような新規OTCブランドが買収対象になるかもしれない。
ジョシーマラン
一方、ジョシーマランは、OTC製品を担当するアルガンアポセカリー(Argan Apothecary)というコレクションを設立した。製品第1号となる湿疹用のボディバターを2022年に46ドル(約6800円)でローンチした。2番目の製品(非公開)は当初8月に発売される予定だったが、それは保留になり、さらに開発中。2023年には新製品2点が発売される予定がある。ブランドに自身の名をつけた創業者兼CEOであるジョシー・マラン氏によると、現時点ではOTCのボディバターはベストセラーであり、新規顧客の獲得を推進しているということだ。この製品を購入する顧客の約40%はJosieMaran.comを初めて利用した人であり、同社eコマースサイトで2番目に売れている製品である。また、このボディバターはセフォラでも販売されており、ジョシーマランのベストセラー製品のトップ5にランクインしている。
マラン氏によると、この湿疹を緩和するボディバターは同社のベストセラーのホイップドアルガンオイルボディバター(Whipped Argan Oil Body Butter)をベースにしているが、敏感肌向けというメリットがあるそうだ。ベストセラー製品がベースになっている製品という関連性のおかげで、顧客の教育は比較的容易だったと同氏は述べている。
「当社は美しくて感覚的な処方を作るという点で信頼されているので、次レベルの結果を得るために製品の美しさと素晴らしさを犠牲にすることはない」とマラン氏。「当社は、顧客から埋めてほしいと望まれている(需要が満たされていない)ギャップを埋めている。今や健康的でクリーンな食材についてはよく知られるようになった。(OTCは)次のフロンティアだ」。
イオス
2020年以来OTCリップ製品2点を販売しているイオスからは、OTCの取り組みに関連する販売データの共有はされなかった。しかし、以前のGlossyレポートによるとOTCリップ製品の市場機会は膨大である。同社CMOのソヨン・カン氏は、ニールセンの調査を引用し、OTC製品はリップカテゴリー全体の売上高の40%を、また年間売上高で5億ドル(約744億円)近くを占めていると述べている。
OTCカテゴリーで差別化を図るブランド
誤解のないように言っておくと、酒皶や湿疹などのニーズに対応するプレステージブランドは長年存在しており、セフォラ、アルタビューティ(Ulta Beauty)、ブルーマーキュリー(Bluemercury)、QVCなどさまざまな小売業者を通じて販売されている。しかし、OTCカテゴリーで確立していないブランドによるOTC分野への参入は新しい動きであり、またより新しい処方にフォーカスしていることも最新の動向である。その例には、マランのクリーンビューティのアプローチや、マイクロバイオームをサポートする植物ベースでビーガンの処方に向けたコーデックスの取り組みがある。
「従来のビューティカテゴリーは非常に混み合っているため、ブランドはこのカテゴリーに注目している」とパルダス博士は述べている。「OTC商品を出すのは、通常の化粧品を出すよりも参入障壁が高い。強力なテクノロジーを抱えるブランドは差別化を図って、それほど混雑していないホワイトスペースに進出しようとしている」。
コーデックスは、全米乾癬財団と全米湿疹協会から認定証を受けた製品に対して40%というリピート顧客率を目にしている。また、これらの団体からコーデックスのサイトに移動してきた人たちに特化したメールの開封率は60%であるのに対して、コーデックスの残りの購読者ベースの開封率は20%だ。
「(当社製品に対して)皮膚の症状を持つ顧客からの感謝と、そのような人たちからの、ビューティ業界では見たことがない忠誠心がある」とパルダス博士は語っている。
OTC製品に対する医師やブランドの考え
フィジシャンフォーミュラズ(Physician Formulas)の医師連合諮問委員会(Physicians Coalition advisory board)のメンバーである皮膚科医のレイチェル・ケイス医師は、既存のOTC製品の多くはある皮膚状態に対応するものだが、別の状態を悪化させる可能性があると述べている。たとえば、酒皶の患者は乾燥肌や脂性肌になるかもしれないため、刺激のない多くの製品から選べるのは患者にとって有益であると同医師は語る。だが、専門の美容小売店で製品を購入することがより容易になることには追加のメリットはあまりないと思うそうだ。ケイス医師は医学的な皮膚の状態に対処するために必要な教育が不足していると感じている。
一方、カリー氏は皮膚の状態に対応する製品を販売する専門的で高級な小売業者にメリットを見出している。また、マラン氏はより具体的なマーチャンダイジングカテゴリーができることを望んでいると述べている。そうすれば、顧客はもっと簡単にナビゲートして具体的な製品を見つけることができるようになるだろう。
「(この製品カテゴリーが)セフォラのような環境で取り扱われるようになればなるほど(そのような皮膚の状態が)当たり前だと思われるようになる」とカリー氏は述べている。「これまでは、そのような製品は鍵付きの引き出しやバスルームのキャビネットにしまわれていた。だが、製品がプレステージな環境に置かれるようになればなるほど良いだろう」。
ケイシー医師は、ビューティ業界から湿疹や乾癬などの皮膚の状態がより注目されている現状のおかげで、慢性炎症性皮膚疾患である化膿性汗腺炎のようなほかの皮膚の状態にも長年待ち望まれていたスポットライトがあたる可能性があると述べている。米国とヨーロッパでの推定によると、約100人に1人が化膿性汗腺炎を持っているという。また、頑固なフケを引き起こす可能性がある脂漏性皮膚炎という状態もある。実際にも、ジュピター(Jupiter)、リビングプルーフ(Living Proof)、ヘッドクオーター(Headquarters)、ウェ(Ouai)などの多くのヘアケアブランドがこの2年間でフケ対応の製品をすでに展開しており、ブルーセルサン(Blue Selsun)やヘッドアンドショルダー(Head & Shoulders)のような定番ブランドに続いている。
[原文:Why beauty brands are flocking to OTC skin care]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)