80年前に沈没したナチスの軍艦が有毒化学物質で海を汚染し続けている

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1940年代に沈没したナチス・ドイツの海軍が使用した船舶が、海洋汚染の原因となる有毒な化学物質を放出しているという研究論文が発表されました。

Frontiers | 80 years later: Marine sediments still influenced by an old war ship
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2022.1017136/full

After 80 years, a Nazi shipwreck is causing environmental damage | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/10/nazi-warship-is-still-doing-evil-to-the-environment-this-time/

A Nazi Shipwreck Is Leaking Toxic Chemicals Into the North Sea
https://www.vice.com/en/article/xgy7zq/a-nazi-shipwreck-is-leaking-toxic-chemicals-into-the-north-sea

元々はドイツの漁船であったもののナチス・ドイツの海軍により接収され、ロッテルダムを拠点とする第13前哨小艦隊で哨戒艇として活躍したのが「ジョンマーン(V1302)」です。ジョンマーンは1942年2月12日にイギリス空軍の爆撃により沈没しました。

イギリス空軍の爆撃で沈んだのはジョンマーンだけでありません。そんなジョンマーンを含む沈没船が積んでいた石炭や弾薬などから、環境破壊を引き起こす化学物質が漏れ出しているという新しい研究論文が発表されました。この研究では、沈没船に積まれている石炭や弾薬、さまざまな重金属が、汚染物質を漏らしていると指摘されています。これにより、周囲の環境が微生物レベルで変化していることまで示唆されています。

この研究は北海に存在する沈没船が地域の環境に与える影響を特定し、それを軽減するための取り組みを支援するというプロジェクト「Interreg VB North Sea Region Programme」の一環として発表されました。


論文の著者のひとりであるジョセフィーン・ファン・ランドゥイト氏は、「我々は海の一部に沈んでいる古い沈没船が地域の微生物群をどのように形作っているのか、そしてそれが周囲の堆積物にどのように影響を与えているのかを確認したかったのです。この微生物分析はプロジェクト内で特にユニークなものです」と語りました。

北海に沈んでいる沈没船は、海洋生態系に影響を与える可能性のある無数の化学物質や材料を運ぶだけでなく、船体自体もそういった化学物質で構成されています。また、船体にはゴーストネット・ペンキ・プロパンガス・バッテリー・エンジンオイル・クリーニング製品・下水なども含まれています。このようなナチス・ドイツの沈没船が環境に与える影響を評価するために、研究チームは現地へ赴き、沈没船の船体および堆積物からサンプルを採取。

サンプルを分析した結果、爆薬などに含まれる化合物のうち多環式芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる化学物質と共に、ニッケルや銅などの重金属、さらにはヒ素・石炭・ガソリンなどが見つかりました。研究チームによると、重金属とPAHが沈没船の近くでより高い濃度で検出されています。

沈没船の存在は付近の微生物にも影響を与えました。PAHを分解することで知られている「Rhodobacteraceae」や「Chromatiaceae」といった微生物が、汚染レベルの高い領域で多く検出されています。また、船のサンプルとして採取された鋼では、これを腐食させるために働く微生物が多く検出されているそうです。


記事作成時点では沈没船付近で多く検出されている微生物が周囲環境にどのように影響しているかは不明です。ただし、高濃度の銅は海洋生物にとって有毒な場合があります。また、海中の重金属は海洋の食物連鎖に影響を及ぼし、魚などの生物に取り込まれ、その魚を人間が食べることで生物濃縮されるというケースについてもさらなる調査が必要です。

北海にはジョンマーン以外にも約5万隻もの沈没船が海底に沈んでいると言われているため、ランドゥイト氏は「我々が日常生活で古い沈没船を見ることはなく、それらがどこにあるかも知りませんが、それが我々の海洋生態系を汚染している可能性があります。これらが長い時間を経て腐食し、密閉されていた空間から解放されるなどして、環境へのリスクがより高まる可能性すらあります」と指摘しています。

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