コロナ禍で大いに勢力を拡大したデリバリー業界。それに伴い日本中に増えたのが、実店舗を持たない「ゴーストレストラン」。TVなどでも取り上げられて話題になったので、細かい説明は不要だろう。
まあ個人的にはウマけりゃなんでもいいけどな……なんて思いつつ、今日も出前館とウーバーイーツのアプリを眺めて晩飯をどうするか悩んでいたら、気づいてしまった。
おや? この かつ丼屋 の商品写真とうどん屋の商品写真、撮影スタイルが全く一緒じゃねぇかな? そういやこの豚丼屋の写真も……あっ、これゴーストレストランじゃねぇか!
・最低で8業態
気付いた切っ掛けはそんな感じ。商品写真的に同じカメラマン、あるいは同じスタジオだかで同じ設定で撮ったんじゃねぇかなという直感が働き、住所をチェックしたら同じ場所だったのだ。
これはこれは……と思い、それっぽい店を調べまくった結果、少なくとも9つの個別の業態の店が同一の住所で出店していることが発覚。詳細は秘匿させていただくが、リストは以下の通り。
・つけ麺専門店
・カレー専門店
・豚丼屋
・かつ丼屋
・とんかつ屋
・肉そば屋
・韓国料理屋
・さぬきうどん屋
・焼肉弁当屋
ちなみにつけ麺、カレー、豚丼は、わりと有名なチェーンのフランチャイズだ。そして、出前館とウーバーのどちらにも登録しているもよう。
それにしてもまさか見つかっただけでも9種とは。ヒュー、手広くやってんじゃねぇか! ヤマタノオロチだって首は8つだというのに。格上じゃん。
なお別にゴーストレストラン自体は何ら悪い事ではない。しかしフランチャイズとはいえ、つけ麺屋とカレー屋は「専門店」。
そう名乗ってこそいなくとも、とんかつ屋や肉そば屋も、出前館の表記的に客側が受け取るイメージとしては「専門店」だろう。その辺どうなのかなって。
・アレルギーは大丈夫なのか?
それと、わりとアレルギーの問題がありがちな蕎麦と他の食べ物を同じ場所で調理し、それが顧客側からわからない状態で提供しているのは、安全面的にどうなんだろうなぁと思う。
調理する部屋とか茹でる窯が違えばリスクは低いと思うが、でも住所的にそんなにデカい建物とは思えないんだよなぁ。
色々と思う所はあるが、しかしもしかしたらこの住所で調理してはいないかもしれない。単に注文を受ける拠点とか事務所とかで、キッチンは別にある可能性だってゼロではない。そこは確認が取れるまで何とも言えないだろう。
・行ってみた
この住所でどの様な営業が行われているのか気になったので、実際に赴いて偵察&盗撮してみることに。言うまでも無いが、取材対象にはなんの許可もとっていないぞ!
取材対象はイメージ的にグレーだが、私の取材方法もイメージは最悪なスタイルだ! 他人の叩かれそうな点で金稼ごうってんなら、こっちの叩かれそうな点も公開していくのがフェアってもんだしな! どこにもホワイトな要素が無い記事の開幕だ!!
ということで、やってきたのがこちら。どう見ても客を入れるタイプの営業は行っていないようだ。表には業務用と思しきバイクが複数確認できる。
そして、ここでとある事実が発覚。停められたバイクの向こう、スモークのかかった窓ガラスに「とんかつ専門店」の文字が! 今となってはキメラのようになっているが、元は豚カツの専門店としてやっていたのだろう。
そのまま隠れて張り込みを続けると、扉が開いて中から人が出てきた。何やらバイクに何かを詰め込んでいる様子。
恐らく注文が入り、それをデリバリーしに行くのだろう。商品と思しきものを出し入れしている際に偶然ドアの中が見えたが、奥の方に大量の容器が確認できた。
そう広くない敷地だが、この部屋の中で調理&パッキングしていると見て間違いなさそうだ。きっとドアに向かって左側にキッチンがあるのだろう。
・オーダーしてみた
せっかくなので、私もここからオーダーしてみることに。もしかしたら、自分のものと思しき料理が出てくるところを見られるかもしれない。ウーバーイーツにてカレー専門店のカレーをオーダー。1450円の品だ。
ウーバーにしたのは、ドアの横に「ウーバーの受け渡しはこちら」的な張り紙が出ているから。恐らくバイクは出前館でのオーダー時に自前で配達するためのものだろう。そして、ウーバーは外部の配達員任せなのではないか……そう推測したのである。
この推測が当たっていれば、やってきた配達員をその辺で捕まえて商品を直接受け取り、この店舗について何か知っていることを聞けるかもしれない。そして待つことしばし。通常ならそろそろフリーのウーバー配達員がやってきて、受け取るものと思われるが……一向に来ない。
ここである考えが。もしかしてこの店、ウーバーも出前館も、どちらも自分でデリバリーしているのでは? よく考えたら自社配達の方が手数料的にもウマいしな。
それなら……ということで、急遽出前館のアプリから つけ麺専門店のつけ麺をオーダー。ウーバーと出前館。どちらから入ったものであろうと自社配達するのであれば、恐らく私のオーダーしたカレーとつけ麺は同時に配達される可能性が高い。
何度かスタッフの出入りがあったが、どれも手にしていた料理は1品のみ。アプリ上でもウーバーと出前館のどちらも準備中のままだ。私のオーダーはまだなのだろう。
雨が降る中、植物の陰に身を潜めて偵察を続ける事しばし、ついに明らかに2品をバイクに積み込むスタッフの姿を確認! アプリも配達中に変わった。ついに来たな。
そして走り出すウーバーと出前館の両方を兼ねた配達員。ナンバーを記録し、私も帰宅することに。家には誰もいないので、配達員から電話がかかってくるはずだ。
私がチャリで家の近くまで戻ったタイミングで、予想通り配達員から電話が。そこで「急遽車を移動させないといけなくなって。あっ、今目の前にウーバーの配達員いますけど、これですか? ちょっとナンバー聞いていいです?」と適当な嘘を並べてナンバーを確認したところ、先ほどビルを出る姿を見た配達員のバイクと一致していた。
さらに電話でのやりとりで、カレーとつけ麺の両方をこの配達員がデリバリーしたことも言質がとれた。これにより、異なる「専門店」の料理が同一のビルの一室で作られていることは確実と言っていいだろう。
リスクが高めな蕎麦までも同じかは不明だが、少なくとも私がオーダーしたカレーとつけ麺の専門店の料理が、全く専門店で作られていないことは確か。店舗の外観的には「とんかつ専門店」が作っている。
こうしてイメージ的にグレーな点は、事実として確定した。いよいよ楽しくなってきたぜ! しかも、このカレーとつけ麺がどちらも知名度のあるチェーンのフランチャイズである点もワクワクさせてくれる。
フランチャイズ契約時の条件はかなりガバガバなのだろう。その辺って、どうなのだろうなぁ。「専門店」である以上、フランチャイズにも他の種類の料理を提供しないよう管理した方が、消費者側のイメージは良いんじゃないかと思うが。
・どっちもウマい
ちなみにこちらがデリバリーされたカレーとつけ麺。お茶も写っているが、これはつけ麺だけだと最低注文額に足りなかったので入れた奴だ。
食べてみたが、カレーはわりと普通に店舗と変わらない味。ちゃんとウマいし、お値段相応かなって感じ。ちゃんとフランチャイズしてる。
つけ麺も、店舗ほどウマくはない(やはり麺が出来立てとは違ってくるもよう)が、しかしデリバリーだしこんなもんかなって感じ。つけ汁のフレーバーは文句無し。こちらもちゃんとフランチャイズしている。
出てくるモノのクオリティだけ見れば、個人的には全く問題を感じない。普通に満足した。なんなら「全く専門店ではない最低でも9店舗を展開する、元は豚カツ専門なゴーストレストラン」だと分かった今後も、自発的に利用していく構えである。
とはいえ、この在り方が一般の顧客層にホワイトだと見なされるのかどうかという点については……ブラックよりのグレーじゃないかなと思わざるを得ない。
しかし、こんなにも身近にアングラ気味なゴーストレストランが存在するとは。もしかしたらウーバーや出前館は、思っている以上に魔境なのかもしれない。
あ、重篤な食べ物アレルギーがある人は、マジで実店舗の存在が確定している店でのみオーダーした方がいいと思います。そういう人はガチに洒落にならないので。この通り大手チェーンでも全く安心できませんから。
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
ScreenShot:出前館