進化する ボット という問題、エージェンシーの悩みの種に:そのコンテンツ生成量は人間の1.57倍に

DIGIDAY

ソーシャルメディアボットは、ひとつのアプリ全体から見れば、ユーザーのごく一部を占めているにすぎないかもしれない。しかしそれは、我々が思っているよりも多くのコンテンツを生み出している可能性があることが判明した。

メディアエージェンシーはボットコンテンツを懸念しているが、プラットフォームと広告主の両者が警鐘を鳴らすまでは、その優先順位が上がることはないと断言するエージェンシーもある。その一方で、メディア企業やエージェンシーは、ボットコンテンツがソーシャルメディア上で拡大するにしたがって、ブランドセーフティの確保に向けて、AIの活用とソーシャル戦略の拡大に取り組んでいる。

「とにかく必要なのは、そこから目を離さないようにすることだ」と、デジタルエージェンシーのバーバリアン(Barbarian)でシニアアナリストを務めるドリュー・ヒンメルライク氏は語る。「実際のところ、ブランドはエンゲージメントの何%が本物なのかをどの程度まで知りたがっているのか? この疑問については、いまも答えが出ていない。(中略)傾向として、バーバリアンのクライアントはより標準的なパフォーマンス指標を重視している。ボットの役割やそのアクティビティの定量化・コンテキスト化に向けた取り組みにリソースを追加で割くことには、いまのところ意欲を示していない」。

人間によるコンテンツの1.57倍

分析プラットフォームのシミラーウェブ(Similarweb)が先日発表した調査結果によれば、米国内では、Twitterに投稿されるコンテンツの20.8~29.2%をボットが生成しており、それがmDAU(マネタイズ可能なデイリーアクティブユーザー)に占める割合は約5%だという。これが意味するのは、実際には少数のアカウントがかなりの量のコンテンツをTwitter上で生み出しているということだ。他社の調査では、ボットが生成するコンテンツの量は、人間のユーザーのそれの1.57倍と推定されている。

シミラーウェブのシニアインサイトマネージャー、デビッド・F・カー氏は、こう語る。「こうしたボットコンテンツが大きな脅威となっているのは、広告主が望んでいる魅力的な体験だと言えるのではないだろうか。やりとりを交わすアカウントのあまりにも多くが、人間ではなくボットによるものであることをユーザーが感じ取れば、あるいはボットアクティビティに関するメディアの記事を読んで興味を失ってしまえば、彼らがTwitterを利用する頻度が低下したり、大きな懐疑心を抱きながら利用することになるだろう」。

シミラーウェブの調査によれば、Facebookをはじめとするその他のプラットフォームもまた、ボット問題の対応に追われているという。「決してTwitterだけの問題ではない」と、カー氏は語る。

AIを活用したボット対策

簡単にいうと、ボットとは基本的に、スパムコメントの投稿やリンクのクリックといった、反復作業の遂行に使用されるプログラムだ。ソーシャルプラットフォームでは、これによって、頻繁に投稿を行う偽アカウントや、やりとり内の情報を操作するボットが結果的に生み出されることがあり、どちらもが関連するブランドコンテンツに悪影響を及ぼすおそれがある。

B2Bエージェンシーのシャーマー(Schermer)でデジタル戦略部門のディレクターを務めるマット・マドラ氏は、こう語る。「悪質なものは、フィード上でいつも目にするスパムコメントやメッセージの原因になるボットだ。なかには、サイトのコンテンツをスクレイピングするボットまである。ブランドとエージェンシーが自社のコンテンツをその悪影響から守るには、どうすればいいのか? それが課題だ」

たとえばバーバリアンでは、ヒンメルライク氏によれば、アナリストが自動化されたアラートとツールを用いて、ソーシャルメディア上の不審なアクティビティをフラグ付けしているという。同社のケースでは、自動化は、人間のレビュアーのための追加レイヤーとして機能している。人間のレビュアーは、やりとりの急増をはじめとする、ソーシャルメディアアプリにおける大きな異常を調べる際には依然として必要になる。バーバリアンではまた、プラットフォームとアカウントのリスクの違いにより、特定のチャネルでそれぞれ異なる対策を講じている。

「バーバリアンのアナリストたちは、パフォーマンスレポートを行うときには、危険信号に目を光らせていなければならないことを知っている。クライアントのブランド向けには、通常とは異なるソーシャル上の活動を知らせる自動アラートを設定している」と、ヒンメルライク氏は語る。

デジタルマーケティングファンド、スプレッド・グレート・アイデアズ(Spread Great Ideas)の創業者、ブライアン・デビッド・クレーン氏は、エージェンシーにとって重要なのは、予防策に重点を置くことだと述べる。ボット管理ソリューションの一環として、自動化や機械学習の活用が広まりつつあるが、そのなかのひとつが、ボット・センチネル(Bot Sentinel)やボトメーター(Botometer)といった、ボットモニタリングツールだ。つまり、ボットがボットを取り締まっているのだ。

「間違った使い方をすれば、Twitterなどのプラットフォーム上では、ボットで情報を操作し、トレンドやユーザーが話題にしていることに不具合を生じさせることがある」と、クレーン氏は語る。「ボットはプログラムすることが容易で、物陰から実装でき、ソースをたどることも難しいため、ブランドやエージェンシーがこの問題に正面から取り組むことは非常に困難となる」

ベストプラクティスの開発

ブランドセーフティ対策の一環として、ベストプラクティスを取り入れて、ボット問題の解決に取り組むエージェンシーやクリエイティブ企業が増えている。AIや特別なIT研修を必要としない安全対策も数多くあり、その一部は、ブランドがソーシャルチャネルへの投資を強化するのに合わせて、継続的に進化している。

インフルエンサーマーケティング企業、ベン・グループ(BEN Group)の最高技術責任者、タイラー・フォークマン氏は、たとえボットの性能が向上しても、エージェンシーやブランドが、それに対応できる簡単なガイドラインがあると述べる。たとえば、浅いエンゲージメント(絵文字一字だけなど)を探す。フォロワー数は少ないのに、多数のアカウントをフォローしているアカウントを探す。「プロフィール画像が粗末な」アカウントを排除する、といった対策が挙げられる。

「こうすることで、ブランドは問題にうまく対処できるきっかけをつかめる」と、フォークマン氏は語る。

マドラ氏によれば、IPフィルタリングとIPブロッキングの活用でも、スパムやボットアクティビティと関連する特定のIPアドレスからのトラフィックを防げるという。つまり、「フリークエンシーフィルタリング」なるものを活用すれば、ひとりの訪問者が広告やサイトを閲覧できる回数を制限できるのだ。

「これについては、閲覧数が3回を超えていれば、まず間違いなくボットだ。もうひとつの簡単な方法は、不審な行動パターンを示す可能性があるソースをブロックすることだ。ボットは人間とは違う行動を取るということを肝に銘じておいたほうがいい」と、マドラ氏は語る。

いまなおソーシャル戦略の要である「SEO」に話題を移そう。SEOマーケティング企業、ランク・セキュア(Rank Secure)のCEO、バルーク・ラブンスキー氏は、悪質なボットはエージェンシーやブランドのコンテンツを盗み取る力を持っているため、野放しにしていると、その評判を毀損するおそれもあると言う。方法のひとつとして、コピースケープ(Copyscape)などのツールを使って自社コンテンツのコピーを探し、スパムコメントや不正リンクを定期的に削除することで、これに対抗できるという。

「プラットフォームによっては、自動でこれを行ってくれる『良いボット』もある」と、ラブンスキー氏は語る。「それから、不明のIPアドレスや既知のボットをブロックすること。スローダウンが発生したときにわかるよう、自社サイトのスピードをテストすること。悪質なボットが入り込んでいるとスローダウンが発生することがあるため、これがひとつの目安になる」。

特に脆弱なのはインスタグラムか

しかし、前述のとおり、ボット問題はTwitter以外の領域にも広がっている。ヒンメルライク氏によれば、ボット問題が最も顕著なのはTwitterだが、Twitterが「マーケティングミックスにおける最重要ソーシャルチャネルであるケースはほとんどない」という。

「ボットが最も顕著なのはTwitterだが、もっと広い意味での不正行為、たとえば扇動者による組織的なキャンペーンや、プラットフォームのアルゴリズムの悪用なども、マーケティングバーティカルとしてのソーシャルメディアに存在するリスクと我々はみなしている」と、同氏は語る。

TikTokやインスタグラム、Facebookも、それぞれがボット問題の解決に取り組んでいると、専門家たちは考えている。マドラ氏によれば、この傾向は今後、ソーシャルの内外で「十中八九、強まっていく」という。なかでも特に脆弱なのは、インスタグラムかもしれない。

「気付いている人もいるかもしれないが、ここ1~2年でインスタグラムの投稿にボットによるスパムコンテンツが大幅に増加している」と、マドラ氏は語る。「ブログサイトやウィキ、フォーラムの多くでも、ボットトラフィックやボットアクティビティが高確率で発生していると、私はにらんでいる」。

いずれにせよ、さまざまなボットが各所を出入りしていることだけは確かだ。問題の解決は、良いボットと悪質なボットを選り分けられるかどうかにかかっている。

[原文:How agencies adapt as bots evolve

Antoinette Siu(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)

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