コマース に苦戦するメディア企業、成功するショップの戦略は:「大ヒットが出るまで商品を試し続ける必要がある」

DIGIDAY

メディア企業が自社のウェブサイトで運営するオンラインショップは、当初の期待に反して、収益多様化への道を約束する「黄金の切符」とはなっていない。そしていまもショップの運営を続けるメディア企業は、あらゆる商品を取りそろえて万人のニーズに応えるというAmazon方式と張り合うつもりはないようだ。

たとえば、BDGと現在はボックスメディア(Vox Media)の傘下にあるグループナインも自社のサイト内にショップを開設したが、いずれも計画通りの大成功とはならなかった。グループナインが2020年末に開設したモバイルショッピングプラットフォームは、現在、同社の重点項目からは完全に外れているという。

対照的に、ハースト(Hearst)とホディンキー(Hodinkee)は、編集力という強みを最大限に活かしながら、それぞれのブランドアイデンティティにふさわしい製品を開発し、その製品の拡散に有効なコンテンツを作成することで成功を収めている。

誰もが商品を販売中

コロナ禍中、リアルの店舗が休業に追い込まれ、あるいは店舗に足を運ぶのは感染リスクが高いなどの理由で、オンラインショッピングを利用する消費者が急増した。ネットを見てまわるうちに、何かを買う気になる人も当然増える。アフィリエイトリンクによる手数料収入の増加に着目した一部のメディアは、市場シェアの拡大を狙って、直営のオンラインショップやマーケットプレイスの構築に投資した。

しかしそれから2年半後、対面でも安心して買い物できる生活が戻り、オンラインショップへのニーズは下火に向かう。メディアの直営ショップは、読者がその場ですぐ買いたくなるような限定商品やディスカウントその他の特典を提供できなければ、大きな問題に直面せざるを得ない。

たとえば、BuzzFeed(バズフィード)は、2021年半ばにウェブサイトのショッピングタブを一新し、すべてのアフィリエイトコンテンツを一カ所に集め、製品の種類、ブランド名、ショッピングガイド記事ごとに閲覧できるようにした。フィットネス用品から化粧品、果てはアダルトグッズまで、あらゆる商品をアフィリエイトリンク経由で購入できる。ただし、ユーザーのショッピング体験にテコ入れしてもなお、同社の物販収入は2021年第2四半期(リニューアル直後)から2022年第2四半期にかけて22%減少した。

商品を販売するオンラインショップやマーケットプレイスを立ち上げたメディアはBuzzFeedだけではない。前述のBDGやグループナインを含め、多くのデジタルメディアがショッピングサイトを作り、欲しいものが簡単に見つかる「フリクションレス」なショッピング体験の提供をめざした。

購買意向の問題

2021年4月に、BDGはBDGショップスというサイト内ECの計画を立ち上げた。Bustle.comを皮切りに、ザ・ゾーイ・リポート(The Zoe Report:TZR)とWマガジン(W Magazine)のサイト内にショップを開設する計画だ。

BDGショップスは編集コンテンツの記事内に設置されたウィジェットで、当該の記事に関連のある商品や読者が興味を持ちそうな商品を、このウィジェットを介して推奨した。読者は記事を読みながら、異なるブランドや小売企業の商品をカートに入れて、BDGのサイトから離脱することなく、チェックアウトまで進むことができる仕組みだった。

BDGの各ショップに掲載されたブランド、たとえばハンプデンクロージング(Hampden Clothing)、ショーフィールズ(Showfields)、リンダファロー(Linda Farrow)、e.l.f.コズメティクス(e.l.f. Cosmetics)などは、すべてBDGと直接契約を結んでいる。BDGの狙いは、広告主に対して商取引をベースとしたキャンペーン機会を提供することだった。

BDGのプレジデントでCROを兼務するジェイソン・ワーゲンハイム氏はこう話す。「広告主によってコンバージョンを測るKPIが異なり、これまでに多くの試みを重ねてきた。ほとんどはうまくいかなかったが、なかにはうまくいくものもあった」。同氏によると、結局、サイト内に開設した直営ショップは、うまくいかなかった試みのなかでも最たるものであったという。「ページビューや商品画像のクリックは大きく伸びたが、想定したほど多くのコンバージョンは得られなかった」。

伸び悩むショップの売上

BDGがバッスル(Bustle)、Wマガジン、TZRのショップを通じて過去2年間に獲得したコンバージョン率と取引件数については開示されなかったが、広報担当者によると、各サイトのショップはいまも営業しているという。

ワーゲンハイム氏はこう語る。「打てる手はすべて打ったが、BDGのサイトが実際に商品を購入できる場だと消費者に意識してもらうには、まだいくつもの障壁がある」。

ワーゲンハイム氏は敗因の一端として、取引契約を結んだブランドの特徴を挙げた。中小規模の小売事業者であることに加え、海外ブランドとの取引にかかる税金や関税、高額な配送料、さらには購入した読者の手元に商品が届くまでの配達日数などがネックとなったという。

サイト内ショップの売上が伸び悩む一方で、アフィリエイトコンテンツは依然として有望な領域だとワーゲンハイム氏は話す。しかし、読者から十分な注目を得るためには、複数のプラットフォームで編集記事やブランド記事を配信する必要がある。結局のところ、実際の購入の大部分は、やはり小売企業の直営サイトで起きているのが実情だと同氏は述べている。

一方、グループナインは2020年の年末商戦を視野にスワイプショップ(Swipe.Shop)というモバイルファーストのショッピングプラットフォームを開設した。ショップの名前は、インスタグラム、TikTok、ティンダー(Tinder)などのアプリでお馴染みの「スワイプ」操作に由来する。主な収益源はスポンサードコンテンツやアフィリエイトリンクだったが、それから2年も経たずにボックスメディアに買収された。広報担当者によると、同社の重点事業はすでに「パフォーマンスマーケティングソリューションのVMコネクト(VM Connect)や、物販事業のカットショップ(The Cut Shop)に移っている」という。

スワイプショップはいまもウェブサイトとしては機能しているが、2021年末を最後に投稿は止まっている。

ソーシャルメディアプラットフォームも、拙劣なユーザー体験を口実に、相次いでeコマースの試験運用を縮小している。メタ(Meta)はこの8月にインスタグラムのアフィリエイトコマースプログラムを停止した。来月には、Facebookのライブショッピング機能も終了する。一方、フィナンシャルタイムズ(The Financial Times)の報じるところでは、TikTokも米国と欧州で計画していた物販事業の拡大を断念するもようだ。

万人向けショップは展開しない

もちろん、サイト内のショップで購入を完結させることに、すべてのメディアが失敗しているわけではない。しかし、試行錯誤の結果に得られた答えは、ほかのどのプラットフォームでもなく、「うちのサイトで買うべき明確な理由」を示す必要があるということだった。

たとえば、ホディンキー(Hodinkee)は腕時計専門のメディアとして、腕時計に関する記事を書き、愛好家たちが自分のコレクションについて語り合う場を提供してきたが、次なるステップは腕時計本体と付属品そのものだった。

2016年、創設8年目を迎えたホディンキーは直営ショップを開設し、2021年には中古時計を専門に扱うクラウン&キャリバー(Crown & Caliber)の買収を決断した。

ホディンキーによると、昨年末までに、クラウン&キャリバーは3万5000本の腕時計を販売し、ホディンキーのショップが単独で獲得していた取引量を倍増させ、延べ7万件の取引成立に貢献した。ホディンキーの売上総額は昨年、ついに1億ドルの大台を達成した。

「万人向けにあらゆる商品を提供するよりも、ニッチな業界で選び抜かれた商品を美しく並べる商売がしたい」とホディンキーのジェフリー・ファウラーCEOは述べている。

コンテンツとコマースの進化

ホディンキーほどニッチではないメディアにとって、コンテンツをテコに商品情報を口コミで拡散させることは極めて重要だ。

ハーストも、今年の取引件数を20あまりのブランドショップ全店で50万件の大台に乗せる勢いを見せている。ハーストマガジンズでコンシューマプロダクツおよびパートナーシップ担当のシニアバイスプレジデントを務めるシール・シャー氏によると、全ショップの平均コンバージョン率は、業界平均の2.5%から3%よりも30%から50%程度高いという。

ハーストが所有するブランドはすべてショップを展開しているが、これまで重点的に力を入れてきたのは、実用的な情報を発信する(主にホビー系の)ブランドで、メンズヘルス(Men’s Health)、ウィメンズヘルス(Women’s Health)、プリベンション(Prevention)、グッドハウスキーピング(Good Housekeeping)、オプラデイリー(Oprah Daily)などがこれにあたる。

これらのショップは、各ブランドが以前から運営しているアフィリエイトコマースの延長線上にあるのだが、それだけではない。ハーストは以前からコスモポリタン(Cosmopolitan)のワインや香水、オプラデイリーの「ザ・ライフ・ユー・ウォント・プランナー(人生を変えるためのスケジュール帳)」など、消費者に直接販売する自社ブランドの商品やライセンス商品の開発に注力してきた。サイト内ショップの運営は、その品揃えの拡充にも貢献している。

「打席に立ち続ける必要がある」

ハーストが製造またはライセンス販売する独占的なD2C商品であっても、成功が保証されるわけではないとシャー氏は話す。「どの商品でも大ヒットを飛ばすには、何度も打席に立ち、バットを振らなければならない。ライフスタイルメディアなら、大ヒットが出るまでに10種類かそこらの商品を試す必要があるだろう。あるコンテンツが注目を集め、その勢いに乗って商品が拡散する。そういう魔法のような瞬間が必要なのだ」。

シャー氏によると、オプラの「人生を変えるためのスケジュール帳」でこの規模の拡散を実現するために、オプラデイリーの会員には、オプラ・ウィンフリーが毎月Zoomで開催する(頭に浮かんだことを紙に書き出す)ジャーナリングのグループセッションに参加できるという特典も付けたという。

また、ハーストでは、自社ブランドでは扱いのない商品に限り、アフィリエイト商品を販売する。たとえば、オプラデイリーのショップに並ぶトラフホットソースもそのひとつだ。ハーストが製造した商品ではなく、オプラの名前が付いているわけでもないが、オプラ御用達の調味料ということで、ショップに置いているという。

「サイト直営のショップでアフィリエイト商品を扱うときは、戦略的におこなう必要がある。自社で開発しない商品もあるし、商品がなければ顧客は余所へ行ってしまう」とシャー氏は話す。「それは望ましいことではない。では、そういう顧客のニーズをどう満たすことができるのか。必要なのは、顧客起点で考えることだ」。

[原文:Publishers are struggling to keep commerce shops open, but creating brand identity in products holds promise

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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