今から15年前、「101回目のプロポーズ」というドラマがあった。武田鉄矢さん扮するちょっと冴えない中年男が、どう見ても不釣り合いな美女(浅野温子さん)に惚れてしまい、命がけのプロボーズを繰り返すうち最後には見事結ばれる、というストーリーだった。そのラストシーンで、武田鉄矢さんは偶然道ばたに落ちていたナットを婚約指輪の代わりに浅野温子さんの指にはめてあげるのだ。
よくもそんなに都合良くジャストサイズのナットが落ちていたものだ。
などと、15年も前のドラマに突っ込むつもりは毛頭ない。
そういうのって、素敵じゃん? ロマンティックじゃん?
僕も自分サイズのナットを拾って指輪にしたい。
※2006年11月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
工事現場にお邪魔して
とはいえ、そうそうナットなんて落ちてない。ましてや自分サイズのナットを道ばたで拾うなんて奇跡に近い。だったらナットがいっぱい落ちてそうな場所、工事現場で探してみればいいのではないか。
知り合いの工務店にお願いして、ナウ・オンな現場への立ち入り許可をいただいた。場所を特定させない、作業の邪魔にならない、怪我をしない、という条件の元、都内某所の工事現場を案内してくれた。地下一階、地上4階建てのビル建築現場である。
作業の邪魔にならないよう、お昼休み限定で指輪を探す。
お昼ご飯に向かう職人さんたちと入れ替わりで現場に入った。さっきまでの作業の余韻で現場内は塵と埃が舞っている。
探し方は単純だ。落ちているナットを片っ端から左の薬指に合わせていく。それだけである。全部で5フロアもあるのだ。手際良くやっていかないと間に合わない。
と思っていたのだが、フタを開けてみるとあまり落ちてないのだ……。
ボルトとナットはペアであって、工事現場にナットだけが落ちているって事はあり得ないのかもしれない。プラモデルを作った後に、何かネジが余ってるけどこれなんだろう、みたいな状況が建築現場にあってはならないのだ。
つくづく「101回目のプロポーズ」の再現が難しい事を実感する。
そもそも何で今更「101回目のプロポーズ」を再現したいなんて思ったのだ。
あ、そうだ。そういうのって素敵だし、ロマンティックだからだ。
実現が難しい事こそ、それが叶った時の喜びは大きい。物事はあきらめた時点で終わってしまうのだ。「101回目のプロポーズ」にはそういう教訓があるに違いない。
もう少し探そう。
あきらめなかったご褒美に、立て続けに3つ見つかったがどれも全然小さい。薬指はおろか小指にだって入らない。
探し始めてから30分が経過してしまった。
あと30分でみんなが戻って来てしまう。
場所を地下へと移す事にした。
地下へ
我々取材班は
何かに導かれるかのように
地下空間へと迷い込んだ!
と、あんまりにもナットがないので、地下に降りる事を劇的に表現してみた。
別に何かに導かれて地下へ降りた訳ではないし、迷い込んでもいない。
が、しかし、この後僕は左薬指にピッタリとはまる指輪の代用品を見つける事になる。
残念ながらナットではなかったので、当初の希望を100%クリアした訳ではないが、自分サイズという点ではある程度劇的だったのだ。
見つけたっぽい
水道管の一部であろうか。
左薬指にちょうど良さそうな管的な物を見つけた。
はめてみる。
サイズは良いのだが、曲がってるのだ。
指輪と呼ぶには気が引ける。「ある程度劇的だったのだ」なんて言ってすみません。
「101回目のプロポーズ」のラストシーンで浅野温子さんがこれをはめてたら台無しだ。例え主題歌の「SAY YES」で盛り上げても、ダメだろう。
っていうか、何で「101回目のプロポーズ」を目指しているのか?
あ、そうだ。素敵だからだ。
工事現場の制限時間がいっぱいになってしまった。
どうしよう?
仕方ない、買おう
あくまでも拾わないと素敵じゃないしロマンティックではないのだが、落ちてないんだから仕方がない。買うしかない。鳴かないホトトギスは鳴かせてみせる方向でがんばっていきたい。
ねじとボルトの専門店「東洋ラセン工業」(東京都品川区)で、僕の薬指にジャストフィットするナットを探す。
「東洋ラセン」にはボルトナットが各種取り揃っていた。一番小さい物で内径2mmから、一番大きい物は30mmまで。さすがはボルトの専門店である。
ご主人に事情を説明して、僕の薬指にはまるナットを選んでいただいた。
ご主人が奥の倉庫から持って来てくれたのは、内径20mmのナットであった。
ナットの値段は1つ135円。
ステンレス製なので錆びにくく、「2人の愛も錆びにくい」という寸法です。
ナットを指輪代わりにと思って色々探してみたが、実際ジャストサイズのナットをはめてみると、ずっしりと重いし中がギザギザしてて痛いし、あまり良い事がない。
東洋ラセンのご主人曰く、中を削れば指輪としても使えますとの事であった。削り方までは教えてもらえませんでしたが、ご興味のある方は一度お試し下さい。