治療薬が限られているなかで、新たな可能性が見えてきました。
社会的に悪影響がありながらも、精神的・身体的にアルコール依存から抜け出せないアルコール使用障害。先日Molecular Psychiatryで発表された研究によると、心臓や血圧の薬として使用されるスピロノラクトンが有効ではないかと示唆されています。
昔からある薬だった
スピロノラクトンは1950年代後半に発見されたステロイドの一種。利尿作用(尿の量を増やして水分とナトリウムの損失を誘発する)があり、心不全や腎臓病などによる体液の蓄積を抑えたり、合併症リスクを低減したりできるとされてきました。また他の薬と併用することで高血圧の治療に使用されることも。
それが、たとえば女性のニキビ治療(男性の場合、テストステロン値が低下する)として皮脂の分泌にかかわる男性ホルモンを抑えるなど、長年の研究によりさらに幅広い疾患に対応できることがわかってきました。
アルコール摂取量への効果は
アメリカ国立衛生研究所(NIH)ではスピロノラクトンを使用し、酩酊状態やアルコール依存のげっ歯類への影響を調査。投与量を増やした場合、アルコール摂取量が減少したこと、さらに食欲や水分の減少などの副作用がないことがメスとオスのどちらでも確認できました。
さらに、米国退役軍人協会で治療を受けた患者の医療記録を分析したところ、他の疾患でスピロノラクトンを服用している患者は、服用していない患者と比較して、その後のアルコール使用量が減少していたことが明らかに。特に、アルコール消費量が多かった患者や、高用量のスピロノラクトンを服用していた患者に大きな変化が見られたといいます。
新たな治療法となるか
今回の結果は、アルコール使用障害に同薬が使えるという認可を得るうえで決定的な証拠になることはありません。ただ、追加研究を進める価値があることを示しているといえます。
アルコール使用障害は、米国では推定1450万人が苦しんでいるとされる一方で、過去1年間に治療を受けた患者の数は全体の10%未満と非常に少ないようです。治療薬としては、断酒癖剤など3種類(ナルトレキソン、アカンプロサート、ジスルフィラム)ありますが、副作用を加味すると効果的なのは2種類(ナルトレキソン、アカンプロサート)と考えられているようです。いずれにせよ、現状として治療法が限られているなかで、スピロノラクトンがいつか誰かの役立つ日は来るのでしょうか。まだまだ研究はつづきます。