私が初めてニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)に行ったときは、まだインターンで15歳くらいだった。インスタグラムは存在せず、ブログも初期の段階だった。当時、ニューヨーク・ファッションウィークは、2、3の主要な場所をメインに開催されていた。人出も少なく、Uberが行き交う交通渋滞もなく、全体的にもっと秘密めいていて、明らかに排他的な雰囲気が漂っていた。
いうまでもなく、この16年でNYFWはさまざまな形をとってきた。ファッション関係者たちは、ブロガーが最前列に座ることに不満を感じたり、さらに若い世代のTikTokerたちがその前の世代よりももっと奇抜な服装をしていることに困惑したりするようになった。
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レポーターとして、デザイナーやブランドの主要なステークホルダーにインタビューを行うことができない限り、混雑した会場に詰め込まれるためにさまざまな交通手段や順番待ちの行列に何時間も費やすことになるパーティは、たいていの場合、価値がないということを私は理解するようになった。
もちろん、私の仕事はインフルエンサーの仕事とはまったく違うということもわかっている。ランウェイショーについての私の見解を聞くために、あるいは私が何を着てランウェイショーに行くのかをチェックするために、わざわざ私をフォローする人はいない。それでも、ファッションウィークがまさに注目の場となりつつあるいま、今日のコンテンツクリエイターたちが睡眠や食事を削ってまでもこの1週間を乗り切ろうとするモチベーションは何なのかを私は知りたいと思った。
そこで数人のクリエイターに電話をかけ、次のような質問をした。あなたはお金を使っているか、それとも稼いでいるか? 今週のブランドとの取引はほかの週にくらべてよいか? フォロワーはあなたのNYFWのコンテンツを気にしているか? そして最後に、あなた自身は楽しんでいるか?
その答えが驚くものかどうかはわからないが、明らかにインフルエンサーたちは2022年のNYFWの姿を浮き彫りにしていた。
インフルエンサーにとって世論がすべて
インスタグラムに1万2000人以上、TikTokには10万7000人以上のフォロワーがいるフリーライターでインフルエンサーのベラ・ジェラード氏は、単純明快に説明する。「インフルエンサーにとって世論がすべて」と、彼女はZoomで私に言った。その主な理由は、彼女が思うに3つあるという。「まず当然だけど、フォロワーのためにクールなことをするつもりだと思わせたいし、フォロワーのためにクールなコンテンツを作りたい。そのためにはクールな場所にいなければならない。だから、一番ホットなものすべてに招待されているように見せたいし、それでお金を稼げる可能性のあるコンテンツを作りたい」。
「次に、すごいブランドとつながったり、ブランドパートナーになりそうな相手に自分には十分なコネがあるとアピールしたりするためにも、そうした場所に行きたい。たとえその夜ドレスアップして出かける気分じゃなくても、一番ホットなパーティに参加すれば、そのブランドとの仕事にはつながらなかったとしても、ひょっとするとそのブランドの競合相手と会うことができて、何かお金になるかもしれない」。
最後に、彼女はこう説明した。「インフルエンサーであることは、KPIや目標を管理する上司が必要とは限らないという点で、むしろフリーランサーであることと似ている」。ジェラード氏は、自分の成果を「内なる世論」で測っていることを自覚している。つまり「自分はよい仕事をしているように見えるだろうか、いい仕事をしているように感じているのか、お金を稼いでいるのか、と自問自答して確認している。(以前は)編集者として、特定の人がお金をもらって参加していることに気づかなかったイベントがたくさんある」。
実際にはNYFWはコンテンツを作るには最適な時期ではない
参加するショーやパーティ、イベントで、その人の「ステイタス」がよくわかる(少なくともわかる人には、わかる)とジェラード氏は述べた。パットボー(PatBo)やシンシアローリー(Cynthia Rowley)のようなショーの最前列は、インフルエンサーで埋め尽くされることが多いと彼女は指摘した。
ニューヨークに住むジェラード氏にとって、ショーへの参加はお金がかからず、その週は有益な収入を得る機会を与えてくれる。1週間を通してジェラード氏のソーシャルメディアのページをざっと見ると、NYFWとAfterpay(アフターペイ)と提携していたことがわかるが、契約上、彼女が提携関係を認めることは禁じられている。
そして、金銭的によいチャンスがあっても、実際にはNYFWはフォロワーが興奮するようなコンテンツを作るには最適な時期ではない。「今週、ビュー数が大きく減少していることに気づいた。それもかなり大幅に減っていた。TikTokがファッションウィークのコンテンツで飽和していたからだと思う」とジェラード氏は語っている。彼女は9月14日に終了した今シーズンを「常軌を逸していた」と述べ、ラインとゲストリストの両方が過去のシーズンよりも膨らんでいるように見えたと指摘した。
ファッションウィークはビジネスウィークのようなもの
ケルシー・コッツァー氏も同様に、NYFW期間中には彼女のエンゲージメントが低下したと教えてくれた。コッツァー氏はインスタグラムに4万8000人、TikTokには14万1000人以上のフォロワーがいる。「これはファッションのオリンピックのようなものなので、やらなければいけないと感じることのひとつ」と彼女は言った。「でも同時に、イベントの多くは必ずしも価値があるわけではない。着ていく服を選ぶのに多くの時間を費やし、地下鉄やUberで多くの時間を費やし、そして30分間イベントに参加する。せわしなく挨拶をして、飲み物をゲットして、たぶんそんな調子。ひとつのイベントに行けば、すべてのイベントに行ったような気になることもある」。
コッツァー氏は、今シーズン参加するイベントやパーティをより厳しく選ぶ方向にしたのだが、それでも招待されたランウェイショーにはすべて足を運んだ。「すべてのショーにイエスと言った。ショーはとても楽しいので。それこそがファッションウィークで刺激的なこと」。コッツァー氏は直前にスケジュールを立てたため、ファッションウィークに特化した有給のパートナーシップは行わなかったという。しかしショップボップ(Shopbop)から服を借りて、無条件・無報酬でイベントに着用していくことはあった。
彼女いわく、ファッションウィークのイベントに参加し続けるのは、人脈作りの機会だけでなく、社交的な交流があるからだ。また、NYFWの期間中に作成するコンテンツに関しては、わかりきったことを一からやろうとはしていないという。「この1週間は自分らしさを保ちながら、できるだけ楽しく、そしてできるだけクリエイティブな服装でいることを大切にしている。また、友人と会い、コネクションやネットワークを作りたいとも思っている。私にとって、これはビジネスウィークのようなものだ」。
自分を表現できる楽しい時間
大学生であることに加えて、パートタイムのインフルエンサーであるデイヴィッド・エヴァン・ラフ氏も、この1週間は重要なネットワーキングの機会にも満ちているという点が気に入っている。そして、これは自分のパーソナルスタイルをもう少し楽しむチャンスでもあるという。ラフ氏はインスタグラムに10万7000人、TikTokに4万1000人のフォロワーがいる。彼は学校に戻らなければならないため、NYFWは前半に参加した。「モチベーションとなったのは、一緒に仕事をしているブランドや、ブランドエージェンシーの担当者と顔を合わせることができたこと」と彼は言う。さらにNYFWは、大学3年生として普段ならできないようなファッションで遊ぶチャンスとなる。「自分を表現できる楽しい時間だ。たとえば、ファッションウィークで初めてスカートを履いた。大学のキャンパスでは(そんなことは)しなかっただろう」。
自分のペースで参加していく
アレグラ・ショウ氏(インスタグラムのフォロワー数は36万3000人、TikTokのフォロワー数は約12万2000人)は、2018年からインフルエンサーとしてNYFWに参加している。しかし彼女はトロントに住んでいるため、この記事でのほかのインタビュー対象者とは異なり、コストがかかる。彼女はチームメンバーも連れてきていることを考えるとなおのことだ。
今年、彼女のニューヨーク滞在の一部はリボルブ(Revolve)が負担した。彼女はリボルブの2年目となるリボルブギャラリー(Revolve Gallery)に参加するため、この小売業者とのより大きなパートナーシップの一環としてニューヨークに来た。ショウ氏には多くのフォロワーがいるため、ショーに出席する際には、主催のブランドから貸与された服を着ることが多い。今シーズンは、アルチュザラ(Altuzarra)、プロエンザスクーラー(Proenza Schouler)、ティビ(Tibi)、マイケルコース(Michael Kors)など、多くのブランドが含まれている。ブランドから服を提供された場合、投稿を要求されることはないが、良好な関係を維持するために、おそらく投稿することになる、とショウ氏は言った。「私のフォロワーもランウェイを見るのが本当に好きなので、自分の(インスタグラムの)ストーリーにはいつもショーを投稿する」。
ショウ氏に、今後もNYFWに参加する予定があるのか聞いてみた。「それについては、ずっと考えている。ずいぶん変化しているので。たぶん参加すると思うけど、もっとゆっくりやっていくつもり。私はZ世代のTikTokerではないし、実際にイベントの多くがTikToker向けになっているように感じているが、それは今がそうなっているということで、とてもよくわかる。ファッションウィークに参加するようになって比較的間もないが、あまり馴染んでいるとは思えず、自分がどこに合っているのかよくわからない」。
しかし彼女は時間が経つにつれて、よりプロフェッショナルにもなってきている。「(もっと多くのイベントを)断って、自分のやりたいことをやり、自分の好きなようにすることができると思う」。
最後に、ジェラード氏にも「やはり、見ることと見られること、みたいな感じがあるのか?」と尋ねた。
「見て、見られて・・・・・・それから自分を撮影して、さらに何枚か写真を撮れば、後でまた見てもらえる」と彼女は答えた。
[原文:Glossy Pop Newsletter: Why do influencers go to New York Fashion Week?]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)