ゲーム文脈で メタバース に参入するプロスポーツチームたち:スポーツ、ゲーム、観客の重なる場所に

DIGIDAY

「NBA 2K」や「FIFA」などのベストセラーのゲームシリーズと各プロチームやリーグが提携するなど、スポーツ業界はゲームファンとの強いつながりを長年に渡り構築し続けてきた。ゲームとメタバースの繋がりが明らかになるにつれ、スポーツ企業は彼らが持つゲーム分野でのルーツに目を向け、来たる仮想世界の先駆者としての地位を確立しようとしている。

最近では、スポーツチームやリーグは自宅にいながら彼らのブランドとエンゲージメントを持ってもらうためのさまざまな方法をファンに提供している。NBAはここ数年、VRで一部のゲームを配信しており、5月には専用のホライゾン・ワールド(Horizon Worlds)スペース開設した。NFLは2月にロブロックス(Roblox)でのアクティーべション提供を開始した。MLBのアトランタ・ブレーブス(Atlanta Braves)などの各スポーツチームは、バーチャルなイベント会場やミーティングスペースとして使用するために、デジタルスタジアムを開設している。

パンデミックの脅威も参入の要因

こうしたメタバース分野への流入が一気に増えている要因として、パンデミックがスポーツ業界に脅威をもたらしたことが挙げられる。

「メジャーリーグベースボールに参加するビジネスの多く、特にチームにとって、コロナウイルスのパンデミックは恐ろしく破壊的であった。彼らは企業として収益を上げるため、チケット販売、商品販売、飲食物販売に完全に依存している」と語るのは、ブレーブスのバーチャル球場を建設したメタバース設計スタジオのシュール・イベンツ(Surreal Events)のCEO、ジョシュ・ラッシュ氏だ。彼はブレーブスの経営陣とどのような会話を持ったか、説明した。「私たちのビジネスを継続すさせる上でこのような混乱は二度と発生させるわけにはいかない。そして、従来の野球ファンではない人たちが集まる空間にキャンプファイヤー的なものを作ることで、ファンベースを拡大できる可能性があると考えた」。

トラヴィス・スコットが2020年4月に行ったフォートナイト(Fortnite)コンサートの直後、ブレーブズの経営陣はエピックゲームズ(Epic Games)に連絡を取り、チームがメタバースにどのように参入できるかを探った。最終的にはフォートナイト内での直接的なアクティベートを持たなかったが、エピックゲームズはチームをシュール・イベンツと引き合わせた。シュール・イベンツのプラットフォームでは、フォートナイトやその他多数の人気ゲームの開発に使用されるゲームエンジン「アンリアル・エンジン(Unreal Engine)」が使用されている。

自社のメタバース戦略を自社で開発

スポーツ業界とゲーム業界、そして観客のあいだには重なる部分が存在しており、そこに長い歴史があることを考えると、スポーツ企業がメタバース戦略を開発するためゲームからヒントを得ていることは驚くべきことではない。その上で、今になってスポーツ業界のメタバースへの関与が高まるのは、絶好のタイミングにある。

ゲーム開発者とスポーツ企業との長年にわたる関係が破綻したり、途絶えたりするなか、スポーツ企業は自社のメタバース戦略を自社で開発する機会を生み出している。

「スポーツ組織はゲームに非常に近い関係にあったが、すべてを外注している。FIFAはゲーム関連の事業をしたいと思っているが、これまではエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)に権利をライセンスしていた。エレクトロニック・アーツとFIFAのライセンス関係が終了しつつあるのはそのためだろう」と語るのは、グロバント・ゲームス(Globant Games)とメタバース・スタジオス(Metaverse Studios)で技術担当VPを務めるマティアス・ロドリゲス氏だ。メタバース・スタジオスはNFL、NHL、UFCなどのスポーツリーグ向けに仮想体験を設計してきた。

収益化に向けWeb3メタバースにも注目

多くのスポーツ企業のメタバース参入がゲームに焦点を当てているなかで、ブレーブスのようなチームはブロックチェーンベースのWeb3メタバースにも注目している。特に収益化の問題がより差し迫ったものになってきたことから、NFTのような技術を彼らの仮想空間により本格的に取り入れ始めるのは時間の問題である。

「私たちはデジタル・トゥルーイスト・パーク(Digital Truist Park:ブレーブスのバーチャルスタジアム)を、これらすべてが集結するハブと見ている」と、ブレーブスのマーケティングとイノベーション担当副社長であるグレッグ・マイズ氏は述べた。「私たちは、ファンがデジタル・トゥルーイスト・パークでNFTを購入できるようにする計画もある。デジタル商品やサービスの購入、アバターのスキンを購入のために暗号通貨を使用できるようにする予定だ。私たちは、デジタル商品と物理的な商品の交わりについて非常に強気である」。

スポーツ産業の参入は、メタバース全体の発展にとって良い兆候だ。エピックゲームズやメタのようなメタバースを構築する企業にとってスポーツは、ユーザーに自社プラットフォームを試させるための効果的な手段である。そして理想をいえば、スポーツのライブ配信にとどまらず、交流やエンターテインメントにも利用してほしいと考えているのだ。

メディア・モンクス(Media.Monks)のバーチャルワールド担当プロデューサーのティム・ウォーカー氏は、「NBA関連の仕事をやり始めてから、いつも本当に面白いと思っていたことは、バスケットボールの大ファンでも試合開始から10分、15分後には、ソーシャル体験をより重視するようになったということだ」と語った。メディア・モンクスは、NBA向けに仮想現実のイベントや体験を設計してきた。「こんなことは言いたくはないが、試合が進行していることを忘れるところだった」。

[原文:Why sports teams are borrowing from their gaming roots to enter the metaverse

Alexander Lee(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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