ファッション業界と金融業界が、それぞれの強みを互いに活かしている。
アパレルブランドや小売業者が年間計画を下方修正したことで株価は下落している。そうした最近の株式市場の動きとは裏腹に、金融業界とファッション業界はより親密になってきている。具体的には、両者のリーダーたちのあいだで、相手が提供する機会を活用することがトレンドになっている。
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金融企業とファッションブランドが商品開発で提携
9月9日、レベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)と世界的な金融サービス企業モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は、収納力があって仕事に最適なハンドバッグという形でコラボレーション商品をローンチした。金融業界に参入する女性が増えるなかで、金融のプロのあいだでステータスとプライドの象徴として親しまれてきた金融会社のロゴ入りの男性的なダッフルバッグに対抗して、女性向けのバッグを作ろうという発想だ。同時に、銀行におけるジェンダーインクルーシビティの高まりを反映し、この業界で働く女性の自信を高めたいという意味も込められている。
「女性は金融サービスのあらゆる初級職の半数以上を占めており、14兆ドル(約2000兆円)以上の個人資産を管理している。だが(モルガン・スタンレー独自のリサーチによると)女性は、金融サービスは上から目線で居心地の悪い業界だと感じていることが多い」と話すのは、モルガン・スタンレーのCMOアリス・ミリガン氏だ。同時にそのリサーチでは、従来の「銀行員バッグ」を持つ女性は3%に満たないことがわかった。そして半数以上の人が、それは男性にのみアピールする、インクルーシブではないスタイルだと回答している。
固い印象の仕事と魅力的なファッションは両立する
ミリガン氏は、2021年6月にCMOとしてモルガン・スタンレーに入社した際、同社のブランドおよびマーケティング戦略と、最近行われたイートレード(E-Trade)やイートン・バンス(Eaton Vance)の買収といった成長戦略を同期させることを優先した。そこで重視したのは、より幅広い消費者オーディエンスにアピールすることだ。
「(キャンバス地の)銀行員バッグは、バッグで自分を表現したい人には魅力的ではないし、自信やスタイルを感じさせるものでもない」とミリガン氏は言う。
「象徴は変化を示唆するものであり、私たちは(レベッカ・ミンコフとのパートナーシップによって)よりインクルーシブでありたいという願望を示唆したいと考えた」。
レベッカ・ミンコフ氏はこれまでにもフィメールファウンダーコレクティブ(Female Founder Collective)やポッドキャストのスーパーウィメン(Superwomen)を設立するなど、女性のために活動してきた経緯があることから、ミリガン氏は提携先としてミンコフ氏のブランドにアプローチした。ミンコフ氏の「自信がある女性に何ができるかを示す個人的な物語」もひとつの決め手となったという。偶然にもちょうどそのときに、ミンコフ氏は2005年に初めて彼女のブランドを世に知らしめたモーニングアフターバッグ(Morning After Bag)のリローンチの準備をしていた。ミンコフ氏によると、そのバッグのオリジナルバージョン(コンピュータが収納できるサイズで、昼から夜まで使える)は、銀行員のバッグからインスピレーションを得たものだった。
「このバッグを権力の象徴として位置付けること、また、金融業界で成功しながらおしゃれでもいられるという、相容れない要素が両立することを示すひとつの方法として位置付けることが、このアップデートされたスタイルを取り入れる完璧な方法だと思った」とミンコフ氏は述べている。
サステナビリティと働く女性支援
レベッカ・ミンコフ×モルガン・スタンレー・バンカーバッグ2.0と名付けられたこのスタイルは、小さなフロントポケット、取り外し可能なストラップ、ファスナーのディテールなど、モーニングアフターバッグのシグネチャーを再現しているのが特徴だ。一方で、モルガン・スタンレーのサステナビリティへのコミットメントに基づき、責任を持って調達されたオリーブ色になめしたレザーを採用するなど、アップデートもされている。「このバッグを作るために行ったすべてのステップで、廃棄物を排除するようにした」とミンコフ氏は説明した。
レベッカ・ミンコフは、2021年にローンチしたRMグリーン(RM Greene)の衣料品ラインを通じて、以前からサステナブルファッションの分野で活躍しているが、ハンドバッグがビジネスの大部分を占める同ブランドにとって、今回はサステナブルに調達・製造されたハンドバッグスタイルへの初の進出となる。
この動きは、9月9日の午後遅くに開催されるニューヨーク・ファッションウィークでのレベッカ・ミンコフの2023年春のファッションショーを定義するサステナビリティというテーマに拍車をかけた。サステナビリティに関する動画が上映され、白い服にプロジェクションマッピングを取り入れたショーでは、ミンコフ氏がサステナブルに調達された素材のみを使用すると述べている。
ちなみに、モルガン・スタンレーもショーではプレゼンスを示す予定だ。同社はインスタグラムで @mrsdowjones として知られるヘイリー・サックス氏(フォロワー数29万人)のようなインフルエンサーにバッグを持ってもらい、このバッグが何を象徴しており、専門職の女性にとってなぜそれが重要なのかについて投稿してもらう予定だ。また、タイムズスクエアのデジタルサイネージや、ロンドン、東京などの市場におけるサイネージで、レベッカ・ミンコフのショーのシズルリールを紹介する計画もある。そのほかのマーケティングとしては、モルガン・スタンレーのイントラネットやソーシャルチャネルで今回のコラボレーションに関する情報を共有していく。
ファッションと金融街が結びつく
バッグはRebeccaMinkoff.comで販売され、モルガン・スタンレーの女性利益団体やプライド・ネットワークの代表のほか、一部のシニアエグゼクティブなどを含む、選ばれた従業員に贈られることになる。来年からは、より多くの従業員が利用できるようになるだろうとミリガン氏は述べている。
「これは私たちのコラボレーションを反映しており、間違いなく今後さらに多くのコラボレーションを目にするようになるだろう」。
このバッグのリリースは、ファッションとウォール街の結びつきを強調する報道の最中に行われた。9月7日には、32億ドル(約4580億円)のアパレルとシェイプウェアブランドのスキムス(Skims)の創業者で、美容ビジネスでも成功を収めているキム・カーダシアン氏が、カーライル・グループ(Carlyle Group)出身のジェイ・サモンズ氏と共に未公開株式投資会社をローンチするというニュースが報道されている。同社は消費財、ラグジュアリー、デジタルコマースなどの業界のビジネスに投資する予定だという。また同じ日に、フランスのラグジュアリーファッション小売店プランタン(Printemps)が、ニューヨークのファイナンシャルディストリクトにあるワン・ウォール・ストリート(One Wall Street)に米国初の店舗をオープンすると発表している。
金融業界の女性に合わせたブランド戦略
この夏の初め、オーストラリアのファッションブランドであるスカンランセオドア(Scanlan Theodore)を米国にローンチするための戦略について話していたとき、同ブランドの米国での5年間の事業の共同経営者であるメリンダ・ロバートソン氏は、女性銀行家をターゲットとする機会を明らかにした。
スカンランセオドアは、パンデミック以前にはバロンズ(Barron’s)、ロイター(Reuters)、CHIPSなど、米国の大規模な金融カンファレンスで、年間10~20のポップアップショップを主催する専門チームを持っていた。これらは同ブランドの強力なマーケティングおよび販売チャネルであることが証明されている。
「米国でもっとも成功している女性ファイナンシャルアドバイザーたちがこのカンファレンスを訪れるのだ。彼女たちがどれだけ買い物をしているか想像がつくだろう」とロバートソン氏は言う。「彼女たちから私たちが獲得した顧客基盤はかなり大きく、有利なものだ。さらに、こうした顧客は出張の機会が多い。テキサスで開催されたバロンズのカンファレンスで獲得した顧客が、半年後にはニューヨークの店舗にやってきて、いきなり高額な買い物をすることもある」。
そのようなカンファレンスに出店するには多額の投資が必要だが、ロバートソン氏いわく、ROIはそれに十分見合うことが証明されている。彼女は「女性たちをそこに連れて行く必要はない」と、人通りが保証されていることについて言及しており、3体のマネキンと「美しい看板」そして商品の展示というシンプルなセットアップだけで済むと述べた。
あるアパレル企業の経営者がオフレコで話したところによると、1日半の金融カンファレンスでそのブランドが主催したポップアップは8万ドル(約1144万円)以上の売上につながったという。エム・エム・ラフルー(M.M.LaFleur)のブランドおよびクリエイティブ・バイスプレジデントのカリー・カント氏は、同ブランドもその機会に参入しており、「パンデミックの前に、金融カンファレンスをブランド認知ツールと販売促進ツールとして活用した」と語る。それ以降、同ブランドは商品の焦点を「暮らしと仕事」の両方にふさわしい、よりカジュアルなスタイルへと移行し、ブランドと販売戦略もそれに合わせて更新したという。
レベッカ・ミンコフに関しては、同ブランドが行った調査から、金融業界の女性が既存の顧客層であることが判明している。そのためモルガン・スタンレーとのコラボは、その買い物客に対応したものとなっている。「ほかの世界はスウェットパンツモードになったが、金融業界ではまだスウェットパンツで出勤することはできない」とミンコフ氏は言う。「だから(私たちが注力しているのは)毎日仕事に行くときに、どうしたら女性をスタイリッシュで特別でクールにさせ続けることができるかという点だ」。
女性の存在感を高め、声を届けるために
D2Cの販売モデルの台頭と消費者企業の成長を加速させるという実績があることから、金融業界からファッション業界へと転身したプロフェッショナルが近年注目されている。ロバートソン氏の場合、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)でのキャリアを捨てて、スカンランセオドアの事業拡大に取り組んでいる。同様に、彼女の共同創業者であるサラ・ブランク氏は、かつてPIMCOに在籍していた。ふたりともオーストラリア出身で、ロバートソン氏によれば、オーストラリアでのスカンランセオドアは「卓越したローワー・ラグジュアリーブランド」だ。そして、ふたりともこのブランドを仕事のユニフォームにしていたため、米国の同僚から常にほめられていた。
金融業界からファッション業界に転身した人物としては、ゴールドマン・サックスに勤務していたエイデイ(Aday)のニーナ・ファウルハーバー氏とメグ・ヒー氏や、JPモルガンとモルガン・スタンレーに在籍し、3年前にイヤリングとピアスのブランドのローワン(Rowan)を立ち上げたルイザ・セレーン・シュナイダー氏がいる。
一方で、女性創業者たちは、金融業界で働く女性の重要性を知っている。多くの人がGlossyの記者に対して、資金調達の際に白人男性の部屋に入った経験について語っている。また、投資家が自社製品の有用性を判断するために、妻の意見を聞いてみる必要があると述べることも日常茶飯事だと言われている。サマーソルト(Summersalt)の共同創業者レシュマ・チェンバレン氏が指摘したように、投資の世界はあまりに男性に支配されているため、女性のアイデアが「除外される」ことも多い。
「金融業界にはずっと女性が存在しているのに、女性の存在感が希薄で、女性の声を聞いてもらえない」とミンコフ氏は言う。「いまこそ私たちは声を大にして誇りを持ち、この分野を本当にインクルーシブで人々の見本となるものにするために推進していく時だ」。
レベッカ・ミンコフ×モルガン・スタンレー・バンカーバッグ2.0のようなコラボレーションに加えて、ミンコフ氏は次のように述べている。「キム・カーダシアン氏のような女性が(金融業界に)参入することで、(女性のための)扉がさらに広く開かれることになるだろう。この分野での活動が大きく高まっていくことを期待している」。
[原文:Fashion Briefing: Wall Street is fashion’s new go-to collaborator]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)